花火大会
「あ、来た来た!茗子、こっち」
菜奈が私に気付いて、手を挙げる。
「菜奈、浴衣すごく可愛いー」
「ふふっ、ありがと」
嬉しそうに笑う菜奈。
「甚と仲西くんも、あと少しで来るってー」
「うん」
菜奈には、試合を観に行ったこと、
言ってなかったな…。
放課後に腕を掴まれたことを思い出す。
「茗子も浴衣かわいい~、帯の結び方もオシャレだし」
「あ、これは……」
「え?」
「お母さん居なくて…それで、たまたまハルくんが……」
「え、春先輩に着付けてもらったの?!」
奈菜が驚き過ぎて、でかい声を出す。
「お待たせー」
そこにちょうど、甚と仲西くんが現れた。
ーー聞かれた?
何となく気まずくなって、うつむく。
「菜奈も茗子もやっぱ浴衣かわいいじゃんー」
「でしょ~、もう少し遅かったらナンパされて居なかったかもよ、ここに。」
「マジか、間に合って良かったぜ」
甚と菜奈がいつもの冗談半分の会話をする。
「甚の甚平と、仲西くんの浴衣もかっこいいよ~」
菜奈が二人に言う。
「ありがとう…」
仲西くんはそっけなくお礼を言った。
確かに、何だかいつもと雰囲気が違うから……。
なんか、照れるかも……。
「めいこちゃんの浴衣、見れて良かったわ、マジ」
花火会場に向かうときに、
菜奈と甚が先を歩いていたので、
自然と仲西くんと並んで歩いていた。
「え?」
仲西くんに聞き返そうと顔を向けると、
「すっげぇ、かわいい!!思った通り」
思いっきり間近に笑顔の仲西くんと目が遭った。
途端に、かぁぁっと顔の体温が急上昇してるのが分かる。
ーーーこの人…苦手だ。
しばらく、お互いに無言で歩いていると、
仲西くんがさっきより低い声で言った。
「それ…春先輩に着付けてもらったんだってね」
やっぱ聞かれてた。
「うん…」
私が頷くと、仲西くんは足を止めた。
「付き合ってないのに、そういうこと、出来る人なんだね…」
「え?」
なんか、怒ってる?
「春先輩、俺嫌いなんだよね。
好きな子、泣かせてばっかで……
なんで、平気なんだよ、彼女がいる男に浴衣着せてもらうとか…」
彼女がいる男ーーー。
それは、ハルくんのこと?
分かってるけど、認めたくない自分もいた。
彼女の存在ーーー。
「彼女のこと、なんで仲西くんが知ってるの?」
「彼女は…、かすみは、俺の…大切な人だから」
「え?」
「かすみは、元々幼なじみで…でも、気付いたらもうあいつと付き合ってた。」
仲西くんもーーー同じ………?
私と………。
「いつも、泣いてたよ…あいつと言い合いして…」
ハルくんと口喧嘩…?
あの、優しいハルくんが?
混乱する私に、仲西くんは続ける。
「好きなままで……虚しくならないの?」
「……」
「俺は、かすみには全く相手にされなかったし、ずっと報われなくてつらくて…春先輩が憎くて…でもそんな時、春先輩の隣にいためいこちゃんの事が気になり出したんだ。」
「え?」
「似てたから…俺の…表情とーーー。」
「私が?」
「気付いてたんだろ、去年から。もう…無理なんだって」
ドキッとした。
言い当てられた…。
本当に私のこと、見てたんだ…………。
「ずっと気になって、でも、接点無かったから話かけれなくて…ほら、茗子ちゃん、ガードめちゃ固いで有名だったし。でもこうやって知っていくうちに、惹かれてる自分がいるって最近気付いたんだよね…」
何も言えず、ひたすら俯いて聞いている。
ーーーこれって、告白?
心臓がうるさい。
いつもなら、
「興味ないです、ごめんなさい」で済ませていたし、こんな風に、赤面することもなかったのに。
「春先輩のこと忘れなくても良いから、俺との事、考えくれない?」
真剣なまなざし………。
「ごめんなさい、正直分からない…」
自分でもーーー。
「友達としてなら、仲良くは出来るけど?ってこと?」
傷付いた顔をしてる仲西くんが、弱々しい声になってることに気付く。
ーーー友達として…、なのかな。
でも、甚とはやっぱり違う。
こんなにドキドキしたりも、ないし。
ハルくんじゃないのに、ドキドキすることがあるなんて、初めてで、戸惑う。
「じゃあ、良いよ。」
「え?」
突き放された言い方に思わず顔をあげると、
唇に仲西くんの唇が触れた。
「これから、考えて?」
そう言って、腰に腕が回る。
またキスされる………、と思ってぎゅっと目を瞑ると、仲西くんが静かに言った。
「嫌なら、突き飛ばしてよ…」
嫌………じゃない?
なんで、私………受け入れようとしてたの?
分からなくて、混乱する。
花火が打ち上がる中、
私は、仲西くんにまたキスされた。