インターハイ開催地へ前日入り
インターハイの開幕の前日の昼過ぎ、
開催地の京都に着く。
「いいか、明日から大事な試合を控えてる。絶対に問題は起こすな!!夕方18時までに必ずホテルに戻ること。」
荷物をホテルに預けたあと、
顧問の富士先生が言う。
「とりあえず、今からの時間は自由だ。でも、みんな明日のために体力は残しとけよ!!」
嘉津先輩も言う。
「茗子、どこ行きたい?」
ハルくんが笑顔で私に尋ねる。
「えっと…白峯神宮かな」
「白峯神宮?ーーーちょっと待って。じゃあ急がないと、ここからだと時間かかる」
ハルくんが私の手をとって走り出す。
「このリア充が!!」
後ろから、寛人さんの叫び声が聞こえた。
「ハルくんは?行きたいとこ無かったの?」
バスに乗り、白峯神宮へ向かう途中、
私はハルくんに聞いてみた。
「俺も同じだよ。」
ハルくんが微笑んで言う。
ーーー絶対嘘だ…。
私が言ったとき、ケイタイで調べてたし…。
「白峯神宮はね、スポーツの神様がいるの。だから…どうしてもお参りに行きたくて…」
私が旅行の本を読んで調べてたことを話すと、
「茗子は、本当に…」
ハルくんが嬉しそうに微笑むと、私の頭を撫でる。
「ハルくん?」
「そこで明日の神頼みした後は?」
ハルくんが悪戯な笑みを浮かべて聞く。
「えっと…抹茶パフェ食べに…行きたいな…」
ーーーー急に観光みたいな事言って…恥ずかしい。
「良いよ、行こっか」
隣でハルくんが笑う。
ーーーー幸せだな…。
「これで、誕生日プレゼント、貰ったことになるから」
ハルくんが笑顔で私に言う。
「ーーーーえ?誕生日プレゼントは…だって…」
ーーー旅行しようって…。
「言ったろ、地区大会優勝したら旅行しようって」
ーーーーそういう意味だったの?
インターハイが京都だから…。
私てっきり…。
勝手に勘違いしていたことに気がついて、
顔から火が出たように熱くなる。
「茗子?……え、もしかして…どこか一泊旅行とか考えてた?」
ハルくんが驚いたように言う。
「私…」
恥ずかしくて言えないでいると、
ハルくんが握っていた手に力を込める。
「二人で旅行かぁ…いつか行けたら良いな。」
遠い目をしてハルくんが呟いた。
ーーーーよく考えたら、
ハルくんはバスケがあるから、
一泊旅行なんて、出来ないのに。
私、舞い上がって張り切って、
家事こなして…お小遣い貰って…
バカみたい…。
「インターハイが終わったら、どこか行こうか。泊まりは…無理かもだけど」
勝手にいじけていた私に、
ハルくんがなだめるように言う。
ーーーーそういえば私、
ハルくんとデートらしいことしてない…。
「うん」
笑顔で答えると、ハルくんがまた嬉しそうに微笑む。
白峯神宮に着き、
お参りをしようとすると、突然前から知っている人が歩いてきた。
「ありすさん…」
「茗子ちゃん…」
ーーーありすさんとは、
最終日に一方的にきつく言われたままで、
気まずいまま帰ってきてしまって以来、
連絡も取り合っていなかった。
ーーー西宮高校も、前日入りだったのかな…。
私がそう思っていた時、
「茗子ちゃん、ごめんなさい」
突然ありすさんが頭を下げる。
「私、最終日の前夜の事…何も知らずに茗子ちゃんにすごく酷いこと言って…原因がまさかうちの部長だったなんて、本当になんてお詫びしたら…」
「ーーいえ、もう良いんです」
私はハルくんのいる手前、
その話題には触れて欲しくなくて焦りながら
急いで終わらせようとする。
でも、ありすさんは怒ったように言う。
「良くないよ!あの変態部長のしでかした事、同じ女子として本当に許せないもん!
ーーーずっとちゃんと謝りたかった…本当にごめんなさい。澤野くんも…ごめんね…」
そして、私とハルくんにまた頭を下げた。
「あの部長のしたことは、許さないよ。」
ハルくんがピシャリと言い切る。
「ハルくん…」
ーーーまだ怒ってたんだ…。
「試合できっちり仕返しするつもりだから」
ハルくんが微笑みながら、ありすさんに言う。
「そっか…」
ありすさんが苦笑いを浮かべて言うと、
じゃあ…と一人帰っていった。
「ハルくん…ごめんね…」
まだ怒ってたんだね…。
私が謝ると、ハルくんが突然私の首筋に甘噛みをした。
「ーーーや…っ。ハルくん…ちょっと…」
「茗子は、ほんと隙だらけだよな。」
ハルくんが怒ったように言う。
「俺の居ないところで、絶対他の奴に隙見せないで」
「って言われても…」
ハルくんの言葉に困ってしまう。
「茗子には無理だよな…」
ハァッとため息をつきながら、
私の頭をポンポンッと撫でるように叩く。
「そこが可愛い所だから…仕方ないんだよな」
ボソッと呟くハルくんの言葉に、
私はドキンと心臓が高鳴る。
白峯神宮で念入りにお参りをして、
京都の街を歩いて、抹茶パフェを食べる。
ーーーー楽しくて、
ずっとこのまま時が止まれば良いのに。
でも、気付けば時刻は17時過ぎ。
「そろそろ、ホテルに戻らないとな」
ハルくんが言う。
「そうだね…」
名残惜しい気持ちを押し込んで、笑顔で答える。
「ちょっと…あの人、カッコイイわー」
「モデルかな?背高いし、顔綺麗だし…」
ハルくんとすれ違う人達の視線が気になる。
そう言えば、さっきの抹茶パフェのお店でも、
写メ撮られてたし…。
あれって、盗撮…だよね。
ハルくんがカッコイイのは、私が一番よく分かってる。
だから、ちょっとしたことで、不安になるんだ。
誰かに盗られないかって。