罪の跡
「おはよう、茗子ちゃん」
ありすさんが、
朝練の時間に間に合うように私を起こしてくれた。
「………」
私は布団から顔を出せずにいる。
ーーーーどうしよう、絶対ひどい顔してる。
「茗子ちゃん?調子悪いの?」
「……はい」
私が言うと、ありすさんが、ため息をつく。
「昨日、夜どこ出掛けてたの?遊びに来たんだったら、さっさと帰ってくれる?」
「え?」
「澤野くんと逢ってたんじゃないの?バスケ部の合宿なんだから、恋愛に時間割いて、部員に迷惑かけるなんて、マネージャーとしてどうかと思うけど?」
ーーーーありすさん、誤解してる…。
私、別にハルくんと会ってたりしてないのに…。
部員のためにって、情報収集してただけで…。
昨日のことを思い出して、また気分が滅入る。
でも、確かに…。
私のせいで、部員に迷惑かけたくない…。
勇気を出して布団から顔を出す。
「茗子ちゃん…どうしたのその顔…目もと真っ赤よ…?」
「はい、ちょっと…」
「泣いたの?」
「……いえ」
無駄だと思ったけど、嘘をつく。
ありすさんが、呆れたように、私の首を指さす。
「首…赤くなってるけど…」
言われて、バッと首もとを手で隠す。
「私のポロシャツ貸してあげる…着替えたら?」
「ありがとうございます…」
ありすさんが、素っ気なくポロシャツを貸してくれた。
キスマークを隠すように着て、髪を右側で束ねる。
朝練が始まり、
私は洗濯物を抱えて体育館を出る。
「相田さん、昨日はごめん!」
待ち構えていたように、矢野部長が飛び出してきた。
「ーーーもう、いいです。忘れました。」
「俺、どうかしてた。その…シャンプーの香りを嗅いだら…止められなくてーーー」
バシッと手が勝手に矢野部長の顎を殴っていた。
ーーーー頬を殴ったつもりが…背が足りなかった…。
「矢野部長が、そんな人だったなんて、ショックでした。」
「ーーーどうかしたのか?」
嘉津先輩が私と矢野部長の雰囲気に気付いて、
体育館から出てきた。
「俺が昨日ーー」
矢野部長が泣きそうな顔で自白しようとする。
「いえ、何でもないです。ーー嘉津先輩、私洗濯してきます」
無理矢理遮って、私はその場から立ち去った。
「ありがとうございました」
西宮高校と練習試合を終えて、
夕方、バスに乗り、みんなで地元へ帰る。
皆、疲れて眠っていた。
右隣に座っていたハルくんが、私の髪に触れる。
「茗子、これ…どうしたの?」
ハルくんが苛立つ気持ちを押し殺して聞いているのが分かる。
ーーーー見つかった…。
ハルくんが、私の首筋をそっと撫でる。
「ーーーっ」
震える私に、ハルくんが静かに言う。
「誰にされた?」
ーーーー昨日のことを話して…許してもらえるのだろうか…。
「ハルくん…」
「矢野部長…?」
私が言う前に、ハルくんが私に尋ねる。
ーーーー私は黙って頷いた。
心臓が凍りそう…。
ハルくんに嫌われたら…私は…。
そこからハルくんは何も言わなかった。
ただ、黙って窓の外を眺めていた。
バスに揺られて、会話もなく過ごす時間が、
信じられないぐらい、辛かった。
二人になって、家へ帰る道の途中で、
ハルくんが、口を開いた。
「どうして?」
「……ハルくん…」
「茗子は、俺が好きなんだよな?」
「…うん」
「じゃあなんで…」
「ごめんなさい…抵抗しようとしても身動きとれなくて…」
ーーーーこんなの、言い訳だ。
思わず涙が溢れる。
ー-ーーハルくんの為になることをしたかっただけなのに。
私は…ハルくんを傷付けてばかりだ…。
「ごめんなさい…」