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いっこの差  作者: 夢呂
【第一章 】
12/283

試合後の浴衣

サッカーの試合は、結局、3対4で(さく)の中学が優勝した。


元々サッカーに詳しくない私は、

目の前にいる(じん)と仲西くん二人に何て声をかけるべきなのか、

悩んでいた…。

「お疲れ様…」

さんざん悩んでそれしか、言えなかった…。


後半ギリギリのところでサクの入れたゴールで、

負けたのだ。



「相手チームの、二年のやつ。あいつさ、春先輩の弟らしいぜ」

甚が仲西くんに言う。

「マジか…。あれ!?…ってことは、めいこちゃんの知り合い?」

「うん…」

個人的にサクのことも応援していたこともあって、

何となく俯いて答える。


「あー、もー、せっかくめいこちゃんに応援に来てもらっといて負けるとか…恥ずかしいし。」

仲西くんが叫ぶ。

「でも、仲西くんも得点入れてたよね、すごかったよ」

「いやいや、力不足で負けたしね…なんかかっこ悪いな…」

どうしよう…ますますへこんでしまった……。

私がうろたえていると、

甚が明るくフォローしてくれる。

「まぁ、悔しかったけどさ、やれることはやったんだし!準優勝だったんだしさ!」


「んじゃ、またな!!」

「え、甚、家に帰るの?」

「そりゃもちろん、このまま行かないでしょー、汗だくだし、シャワー浴びてーもん。」

「あ、そっか…」

茗子(めいこ)は、そのまま行くのか!?」

「うーん、どうしよう。まだ奈菜との待ち合わせに時間あるしな…」

甚と話してると、唐突に仲西くんが私の方を向いて言った。

「茗子ちゃん、浴衣着ないの?」

「え、あぁ…、考えてなかった…」

「俺、見たかったな…めいこちゃんの浴衣姿。」

「!!」

まっすぐな瞳に、なんだか頬が熱くなった。


「おー、着て来いよ!!奈菜も着て来ると思うし!やっぱ女子の浴衣姿はかわいいからな~」

甚もニヤニヤしながら言う。

そして、なんだかそういうことになった。




家に帰ると、両親は出掛けていた。

お母さんは、買い物かーーーー。

お父さんは今日仕事。



浴衣がどこにあるのかは分かっていたので、

出してみる。


でも…一人で着たことないな…。


奈菜との待ち合わせまであと一時間…。

お母さん、帰って来るかな…?


時計を見ていたところで玄関から声がした。


「茗子ちゃん、いる?」

………ハル、くん?

「どうしよ…」

久しぶりだから、心臓がうるさい。

顔も真っ赤になってるのが、自分でも分かった…。


玄関を開けたってことは、私がいることを知ってるからだ。

観念して玄関へ向かう。


「あ、やっぱりいた!これ、母さんから、お裾分けだって、リンゴ」

いつもの大好きな笑顔でハルくんが渡してくれる。


「ありがとう…」

緊張してるのか、受けとる手も震えて、ぎこちなくなってしまう。



「ん?どうしたの?なんか困ってる?」

「え、いや、なんでもないよ?」

私が答えてる間に、ハルくんの視線はすでに近くに置いてあった浴衣をとらえていた。


「浴衣…着たかったのか?」

「あ、ううん。友達との待ち合わせに間に合わないから、諦めるよ、大丈夫!!」

うつむいたまま、早口で答える。


「俺、出来るけど?」

「えっ?」

「着せようか?浴衣」

「いやいやいや、ハルくん、さすがにそれは…」

「今さら何を気にしてんだよ、妹に何も変なことしないから大丈夫だって!」

イモウト…

ズキッと心に刺さったのも、

全く気付いてないハルくん。


私が必死に断ろうとしたけど、

笑いながら靴を脱いで家にあがってきた。


結局、逆らえず、ハルくんのペースにのせられてしまう。


「はい、まず肌襦袢、これは着れるだろ?」

テキパキと指示され、

なぜか服を脱いで肌襦袢に袖を通す。


「はい、浴衣着て、じっとしててなー」

指先が胸元に来るだけで死にそうになる。

ハルくんのばか…人の気も知らないでーーー。


真っ赤になりながら唇を噛み締めて堪える。



「はい、帯も完璧!出来ただろー、ほら」

どや顔するハルくん。


「あ、ありがと。」

「にしても、浴衣姿ってやっぱ良いよな、かわいい!!」

「かっ」

かわいい?

なんで、そんなこと言うの…本当酷い…。


赤面しすぎて顔向けれないよ……。


「もしかして、彼氏と観に行くの?花火大会」

「違うし、友達!!」

「そっか…」

なんだかホッとした顔でハルくんが言った。


「あ、今日、サッカーの試合観に行ってたんだけど、サクちゃん…じゃなかった、サクがね、すごかったよ!!優勝したしね!」

なんか、話題をーーーと咄嗟に出てきた今日のサッカーの話をする私。


「あ…そうだったんだな、咲のやつ、最近俺のこと避けてるからさ、何も知らないんだわ…」

寂しそうに笑って、ハルくんが言った。


「そうだったんだね…おばさんも言ってたけど、反抗期かな?」

「うん、たぶんね…」

曖昧に言って、ハルくんが困ったように笑った。




「ただいまーーって、あら、春くん!」

その時、やっとお母さんが帰って来た。

「お邪魔してますー」

笑顔であいさつする、ハルくん。

「あら、茗子、浴衣自分で着れたの?」

「ううん、ハルくんが手伝ってくれたの。」

「あらー、器用なのね~」


あ、そうだ、時間!


「そろそろ行かないと、ハルくん、ありがとう着せてくれて」

「どういたしまして」

慌ただしく下駄を履いて、家を出る。

いってらっしゃいとハルくんが手を振る。



「本当は行きたかったんだけどな、一緒に…」


「え、ハルくん、なんか言った?」


「……なんでもないよ、楽しんでおいで」

笑顔のハルくんと別れて、待ち合わせ場所まで早足で歩く。


ハルくん……


やっぱり、好きだよ……。


私のこと、何とも想ってないくせに、

何とも想ってないなら優しくして欲しくなんて無いのに……。


なのに、優しくしてくれると、

幸せなんだ、

嬉しくなってしまうんだよ……。



苦しいよ……。


























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