合宿の開始
「今日からお世話になります」
西宮高校の合宿所に着き、皆で挨拶をする。
「まずは、各部屋四人部屋ですが、荷物を置いてきてもらえますか?部屋の振り分けは…」
ありすさんが、私を見る。
「あ、ここに。」
私が嘉津先輩と作った部屋の振り分け表をありすさんに渡す。
「じゃあ、案内しますのでついてきてください」
ありすさんが、にこやかに呼び掛ける。
「西宮のマネージャーも、かわいいな…」
「うん、癒し系だ…」
皆が嬉しそうに後についていく。
最後のひと部屋まで、案内すると、
「茗子ちゃんは、私と同室だから。こっちだよ」
今度は私を案内してくれた。
「嬉しいな…今年は、独りぼっちかと思ったから」
「え?」
ありすさんの言葉に、私が聞き返す。
「去年は先輩マネージャーがいたからさ。でも卒業しちゃったから…今年の合宿は私独りだなぁって思ってたの」
「ありすさん・・・」
・・・・私も、嘉津先輩が卒業しちゃったら…寂しいなって思ったから、気持ち分かるな。
「合同合宿になって、良かった!一週間よろしくね!」
「はい!」
ありすさんと笑顔で握手を交わす。
「矢野部長、これ落としましたよ」
練習中に矢野部長がつけていたリストバンドを拾ったので、渡そうとすると、
バシッと乱暴に取り返した。
「あ。ありがとな」
そう言うと、部員に召集をかけて、
基礎練習のメニューをありすさんと告げる。
ーーーーなんか、やっぱり私に対する態度だけ…
すごく変。
夜は、皆集まっての交流会が行なわれた。
「茗子ちゃんって、可愛いねー」
「彼氏とかいんの?」
あっという間に、西宮高校の人に囲まれて、
人見知りなので、固まってしまう。
「彼氏、います。」
私がそれだけ、なんとか言葉にすると、
「あー、やっぱりいたか」
「こんだけ可愛くて、居ないほうがおかしいもんなー」
落胆の声があがる中、
ありすさんが、ハルくんと話をしている姿が目に留まる。
ーーーー二人が楽しそうに笑い合ってる…。
何を話してるの?
ハルくん…やだ…笑わないでよ…。
「お前ら、相田さんが困ってるだろーが」
突然、大きな声がして、
矢野部長が私の腕を引いて、外へ連れ出した。
「悪かったな…うちの部員が絡んで…」
「いえ…」
外に出ると、すぐに手を離して、
矢野部長が私の顔を見ずにボソッと言う。
「あの…さ」
矢野部長が何か言いかけたとき、
「茗子?」
ハルくんが私に声をかけた。
ーーーハルくん…。
ありすさんと喋っていたときのことを思い出して、
胸が苦しくなった。
「どうした?大丈夫か?」
「うん…」
全然…大丈夫じゃない。
ありすさんと話してるところを見ただけで…
こんなに動揺して…。
嫉妬して…。
「おいで…」
ハルくんの言葉に、私は素直に従う。
「茗子、嫉妬してたの?」
「えっ」
「西宮のマネージャーと話してるとき、そんな顔してた…」
クスクス笑いながら、嬉しそうに私の顔を見る。
ーーー知ってたのに?…ひどい。
「意地悪…」
私が半泣きで言うと、
ハルくんが何か小さく呟いた。
「いつものお返しだよ…」
その声は、私の耳には届かなかった。