地区大会
地区大会当日。
ハルくんと会場へ向かう。
「いよいよだね!!」
私が緊張しながら言うと、
「…茗子、肩の力入りすぎ」
笑いながらハルくんが私の肩に触れる。
「頑張ってね」
「もちろん。優勝するよ」
ハルくんのいつもの笑顔に、少しだけ緊張がとける。
試合が始まる前に、
みんなの飲み物やタオルのチェックをしていると、
「あの…」
突然後ろから声をかけられた。
「私、西宮高校バスケ部のマネージャーで、田中ありすって言います。…西高のマネージャーさんですよね?」
「あ、はい」
ーー今日、夕方に会食予定の…。
慌てて立ち上がって頭を下げる。
「初めまして、西高のマネージャー、相田茗子です。よろしくお願いします。」
「こちらこそ。今日の顔合わせ会、楽しみにしてたんです。待ちきれなくって挨拶に来ちゃいました。試合前なのに…ごめんなさい!頑張ってくださいね」
人懐っこい笑顔の、可愛い人だな…。
「では、また」
そう言って、田中ありすさんは観客席に行ってしまった。
ーー試合は、西高の圧勝となり、地区大会の優勝が決まった。
ハルくんは得点王として、表彰された。
ーーーー本当に、すごい…。
「茗子、帰ろうか」
ハルくんが片付けを終えた私に、
いつものように声をかけてくれる。
「あ、ごめん…今日嘉津先輩と西宮高校の方と食事行かなくちゃいけないの」
ーーー言いそびれてた…。
「え…なにそれ…?」
ハルくんが驚いて、聞く。
「今年の夏合宿、西宮高校の方と合同でやるんだって。それで、今日試合を見に来てくれてたから、顔合わせの食事会…」
「そうなんだ…」
ハルくんが切なそうな表情で言う。
ーーーなんか、罪悪感…。なんでだろ。
「ごめん、だから先に帰ってて」
「分かった」
ハルくんは上機嫌の寛人先輩と帰っていった。
「お待たせしてすみません…」
しばらくして、待ち合わせの駅に、
嘉津先輩と先ほどの田中ありすさんが現れた。
「この辺のファミレスで、すみません」
嘉津先輩が言うと、
「いえいえ、私達が勝手に見に来ただけだから」
ありすさんが微笑む。
「ところで、矢野キャプテンは?」
「あ、今…来ます。」
嘉津先輩が言うと、ありすさんが携帯電話を見ながら答える。
「うちの部長、すぐ迷子になっちゃうんです…」
すみません、と頭を下げる。
「いえいえ」
私達が言うと、
「おーい、ありすー!」
大きな声でありすさんを呼びながら走ってくる人がいた。
「あ、来た来た。遅いですよー、もう!」
「わりぃわりぃ、駅の方角が思ったとこじゃなくて、さ………」
息を切らしながら、ありすさんに話しかけながら、
私に気付く。
あ…挨拶。
「初めまして、西高のマネージャー、相田茗子です」
頭を下げて、顔をあげると、
矢野部長が目を見開いたまま、動かない。
……あれ?
「ここにいても、仕方ないし、店に入りますか」
嘉津先輩が言うと、
しばらくして、我に返ったように、
「あ…。え…っと、そうだな!!」
相槌を打って歩き出す。
ーーーー私…無視された…ような…?