風邪
「誕生日プレゼント、何がほしい?」
私はハルくんに尋ねる。
「何も要らないよ」
笑顔でハルくんが言う。
「でも、私ばっかり貰ってて…」
「じゃあ地区大会優勝したら、一緒に旅行行こ」
「え…」
ーーー旅行って…泊まり?そんなお金ないよ…。
「茗子は、付き合ってくれたら何も要らないから。それが誕生日プレゼント!」
「…うん」
頷きながらも、頭の中で考える。
………アルバイト、したいな…。
でも、マネージャーでバイトする暇ないし…。
「お小遣い、増やして欲しい?」
私の言葉に、お母さんが聞き返してくる。
「アルバイトしてお金稼げたら良いんだけど、そんな暇ないし…。お願いお母さん。」
「じゃあ、家事を全てこなしてくれたら、一日千円出すわ!どう?」
「やる!ありがとうお母さん!」
その日から、洗濯、食事の支度、掃除と、家事を全てこなし、
中間試験の勉強して、
部活のマネージャーで疲れて帰ってくる日が続いた。
中間試験の当日、
私はからだの調子が悪いことに気付いた。
ーーーーなんか、頭痛い…。
頭痛薬を飲んで、学校へ向かう。
「茗子、顔色悪いけど…大丈夫?」
一科目のテストが終わり、彩が声をかけてくれる。
「平気、あと二科目試験終われば今日は帰れるんだし…」
ーーー-あと二科目。古典と数学。
それさえやりきれば…今日は部活もないから、
帰って休めるし…。
気力で全ての教科の試験を終えて、
昼過ぎに帰ろうとする。
ーーー雨…。
朝は晴れていたのに、帰りはどしゃ降りの雨になった。
「俺たち二年は午後も試験だから、今日は先帰ってて良いよ」
ハルくんが今朝言っていた言葉を思い出して、
靴箱で靴を履き替えると、
濡れて帰ろうと決心して、雨の中飛び出そうとした。
その時ー-ー
「良かったら、一緒に帰ろう」
目の前に傘を出されて、面食らっていると、
航くんだった。
「茗子ちゃんが、迷惑でなければ…」
航くんの言葉に、
「ありがと」
私は素直に甘えることにした。
傘の、雨を弾く音が心地良い。
「茗子ちゃん、なんか今日顔色悪いけど大丈夫?」
「なんか…朝から頭痛くて…」
私は無理して微笑む。
ズキンと頭痛がした。
「え…。」
「大丈夫、薬も飲んだし。」
「こんな風に、航くんと話せて…良かった」
「え?」
「私ずっと話さなきゃって思ってた」
「………」
「私ね…航くんの友達になりたい…勝手に思ってるだけなら良いよね?」
航くんは何も言わなかった。
でも、私を傘にいれながら家まで送り届けてくれた。
「ありがと…じゃあまた明日」
家に入ろうとして、足元がふらついた。
「ちょ…っと。大丈夫じゃないでしょ、それ…」
航くんが私を支えて、家に入る。
「ありがと…」
「航くん、ありがと…もう平気だから」
私をベッドまで送り届けてくれ、私は横になる。
「風邪うつっちゃうから、早く帰って。」
「茗子ちゃん、ごめん…」
航くんが突然謝ってくる。
「え?」
私は聞き返しながらも、だんだん熱が上がってきたのかポカポカしてきて…眠気に襲われた。
「…ゆっくり休んで…」
航くんの声が遠くなる。
目を覚ましたときは夕方の5時だった。
熱が下がったのか、だいぶからだが楽になった。
「!!」
起き上がろうとして、
ベッドにうつ伏せに顔を寄せてハルくんが座ったまま眠っていることに気がついた。
「ハルくん…どうして?」
驚いて言葉が口をついて出た。
ーーー寝顔、見慣れないからドキドキする。
私の大切な人。
カッコいいな…
「………ん。あ、茗子…大丈夫?」
「うん」
ハルくんが目を開けてすぐ、私を心配してくれる。
「熱は?」
おでことおでこをくっつけて、熱を計る。
ーーーー顔が近くて照れる…。
「ハルくん、私はもう大丈夫だから。風邪うつる前に帰って…」
「うつらないよ?」
「え?」
ハルくんの返事に驚いて聞き返す。
「俺、バカだから」
笑って言う。
「そういう問題?」
私もつられて笑う。
---ハルくん頭良いんだから、馬鹿じゃないし。
ハルくんはおでこにキスをして、
「早く良くなってね」
と言うと、立ち上がった。
途端に、心細くて、寂しくなる。
「おかゆ、食べる?母さんに言って作ってきてもらうから…待ってて。すぐ戻ってくる」
顔に出ていたのか、
私を安心させるように頭を撫でて、
ハルくんが私の部屋を出る。
「ありがとう…」
側に居てくれて…。
愛おしい気持ちが溢れる。
----愛してる。