七.抜け出せない悪夢
真っ暗な公園で、キィキィと小さな金属音が響いている。
―――ああ、いつもの夢だ。
まだ純粋だった頃の幼いわたしが、友達とブランコを漕いでいる。
「ねぇ、里緒ちゃんは好きな男の子いるの?」
―――ダメ!! 答えないで!!
意識体のわたしの叫びが届くはずもない。
けれど幼い自分を止めずにはいられない。
「うん、タケルくんがすき!」
なんの疑問ももたず、素直に答える幼いわたし。
「……へえ、そうなんだ」
低い声で呟く友達。
場面がブラックアウトし、暗い小学校の教室に変わる。
掃除の時間で、皆が雑巾や箒を手にしている。先生はいない。
いつもは賑やかで、グループになって水くみをしたり、よーいどんで雑巾がけをスタートするのに今日はまったくそんな雰囲気ではない。
だまって下を向いていたり、隅の方で内緒話をしていたり。
「みんな、どうしたの?」
訳の分からないわたしは、クラスメイトたちに声を掛ける。
「………………」
怯えたように視線を逸らす友人たち。
途方にくれるわたしを、数人の男子が取り囲む。
女子はみな遠巻きにチラチラとこちらを見ている。
「おまえ、タケルのこと好きなんだって? きもちわりぃなー、成瀬のくせに! なぁ、タケル!」
戸惑ったタケルくんがみなの顔を見回し、そして強ばった顔で僅かに頷くのがやけにスローモーションに映った。
「ほらな、タケルもイヤだってよ!」
そう言い放ったリーダー格の男子にドンと背中を押される。
その拍子に雑巾と濁り水が入ったバケツに足をとられ転倒する。
全身びしょ濡れだ。
「うわぁ、きったねぇー! くっせぇー!」
―――ぎゃはははははははは
教室に笑い声が膨れ上がり、わたしを飲み込んだ。
「リオナさん! リオナさんっ!!」
「――――――、ぁ、ご、めん。寝てた」
戸惑ったような、慌てたようなファレスの声で目が覚めた。
深く息をつきながら、涙と額の汗を手の甲で拭った。
この頻繁に現れる夢―――わたしがヒト(特に男性)を厭い、引きこもり人生を送る原因となった黒い思い出―――を見た後は、必ずこういった自然現象が起こる。泣きたくて泣いているわけではない。
あれは、小学二年生の時の記憶だ。
わたしが好きだった「タケルくん」は他の男子たちよりも優しい性格をしていて、ただ好ましい相手という意味で好きだったのだが、この時期の子供はこの手の話題で必要以上に騒ぎ立てるものだ。
だから、とうの昔に「子供のやったことだ」と割り切っている―――だというのに、十二年経っても傷は癒えてはくれない。頭と心は連動してくれない。
なぜそこまで繊細な精神をしているのか。
コントロールできない自分が嫌になる。