六.前世
兄弟の容姿が似ているか否かなんて、皇族ともなれば色々と理由がある確率が高いはずだが、無意識に思ったことが口から出てしまった。
「ええ。私たちは兄弟は両親とも同じなのですが、兄は国王である父似、私は母似、そしてセイはそこそこな魔力持ちですから」
「? 魔力持ち?」
魔力を持っている―――つまり魔法使いってことか。それ自体は素敵要素に違いないが、会話の意味がつながらず眉を寄せて考えているとファレスが教えてくれた。こういう細かい配慮が出来るのは高ポイントだ。やはり先ほど兄弟たちの前に立ってくれたのは彼の気遣いだったのかもしれない。これが乙女ゲームの中だったなら『イイ!』と叫んでたかも。
「この世界では多少なりとも魔力を持つ人間は、前世の記憶の一部、若しくは全てを継いでいるケースがほとんどです。魔力の強さは前世までの記憶量にあると言われており、ヴァーラなどは十代以上前からの記憶を受け継いでいると聞き及んでいますよ。真偽のほどは分かりませんけどね―――話が逸れましたが、その記憶に容姿が引きずられる事は珍しくありません。セイはそれに当たるのですが、リオナさんはどちらも当てはまらないようですね」
「えーと、それってつまり、わたしの前世がリオナだってこと?」
近頃人気のファンタジーにありがちな転生設定だがこれはマズい。わたしには前世の記憶はないから、もしイエスならば人違いだと主張できなくなってしまう。
「ええ、その通りですよ。リオナさんは察しが良いですね」
にこりと眩しい笑顔で褒められて思わず照れそうになるが、これで逃げ道喪失確定……。
しかも、もう一つ察してしまったことがある。弟君の『見た目が微妙』発言についてだ。
あれはもしや、わたしの外見を貶める意味ではなく『見た目が前世のリオナとは似ていないから本人かどうか微妙』という意味だった……?
で、それに気付いていないわたしにファレスはわざと知らせようとしている?―――いや、そう考えてしまうことすらわたしの傲慢か?
……まぁどっちにしても微妙なのは事実だから良いのだけれども、そこまで気遣っているのだすれば空気を読み過ぎて生き辛そうだ。
「ファレスって、A型?」
「えーがた? それはなんですか?」
ふむ、血液型の概念はないのか―――確かあっちの世界でも血液型が発見されてから百年ちょっとなんだっけ。中世風味のこの世界にはなくても当然かもしれない。
(しかし、いちいち可愛い男だなー)
首を傾げるファレスの仕草と表情はいかにもオトメン。歳は二一だと聞いたがハタチ過ぎの男が可愛いのは反則だ。
けど、ファレスに対して過度な拒否反応が起きないのはこの中性的な雰囲気が原因かも。
迎えにきたのが彼で良かった。もしこれがいかにも男らしい第一王子だったりしたら黙って一緒に歩くことさえ堪えられなかったかもしれない。