五.王子たちの視線
ファレスの後を歩き、六畳程度のこぢんまりとした一室へと連れてこられた。一歩足を踏み入れたとたん、息が詰まるような重苦しい感覚に襲われた。これは威圧感……?
小振りなテーブルを囲むようにソファーと椅子が二脚あるだけのシンプルな部屋で、ソファーには二〇代半ばほどの男が一人。そのソファーの後ろに立ち、背もたれに体重を掛けて佇む少年が一人。
また男だ……。
男三人に囲まれてしまった……。
「二人とも、お待たせしました」
「ううん、ぜんぜん! 思っていたより早くてびっくりだよ。さすがファー兄だね」
(兄ってことは、この子が第三王子か)
なんだか王子というよりも、アイドル系の少年といった気安い雰囲気だ。
それに反し、手前に腰掛けている男性は両膝に肘をついて手を組み、そこに顎を乗せたまま険しい表情で瞬き一つせず鋭い瞳をじっとわたしに向けている。
―――怖い。凄く。
「魔女の妹に間違いないか?」
「うん、多分。見た目は微妙だけどオーラはソレっぽいよ」
「分かるのか、セイ」
「へへっ、まぁねー」
(見た目が微妙って! 見た目が微妙って!! ―――事実だけどさ)
本人を前になんてあからさまな。さすが王子サマ―――あぁでももうダメ限界。
ぶわっと、体中が熱くなって全身からイヤな汗が吹き出してくるのを感じる。
顔を伏せ唇を食いしばる。
知らず両の拳が震えている。
歯の根がガクガクと噛み合わない。
が、不意に目の前に影が落ちるのを感じた。
僅かに視線を上げると、ファレスのショートブーツ丈の艶やかな黒い革靴と焦げ茶色の滑らかそうな下服が見えた。
「二人ともその辺で。真実か否かの判断はヴァーラが下すでしょうからね」
……これは、もしや二人からの視線を遮ってくれたのだろうか? いや、今は兄弟たちにわたしを披露する場だ。それでは意味がない。
「……ファレスに任せる。頼んだ」
「はい、兄上」
王子兄弟の揃った部屋を辞し、深く息を吸い込んでから、赤い絨毯の敷かれた廊下をファレスの後について歩く。
そうしている間に体の変調は治まり、安堵の溜息がこぼれる。
それを見計らったように頭上から降ってきた。
「……リオナさん、私の兄弟はどうでしたか?」
柔らかな声に顔を上げれば、半径一メートル程の位置にファレスが歩いていた。約束と違うが、前を向いて歩いているだけなので許すことにした。
リオナって誰?と間抜けな疑問がよぎったが、もう訂正するのも面倒なのでそこもスルーしてあげることにしたわたしは寛大だ。
しかし質問の意味は頂けない。あの王子たちがどれだけイイ男だろうと二次元の存在ではないのだからどうもこうもないのだが、一応思い返してみることにする。
第一王子、ウォーレウヌス=ル=アルディアは二四歳だという。かなりの長身で、がっしりとした体つきをしていた。流石次期国王といった風格が身に付いていた。
短く刈上げた髪はダークブラウンで、鋭い瞳は濃いグレー。口数少ないようだが低音ボイスが渋かったと思い出す。
セイと呼ばれていた第三王子セイフィーラス=ル=アルディアは兄弟の中ではかなり小柄で一七〇cmあるかないかではないだろうか。ふわりとした癖髪は蜂蜜色で、瞳はダークブルー。
口調や雰囲気も幼い印象だったが、わたしと同じ一九歳だそう。お国は違えど、末っ子の印象は万国共通なのかもしれない。
「……けど、三人ともあんまり似てないな」