五ノ八.これからの自分
帰路、船の中でこれ以上ない程にあれこれと考えていた。
部屋を出て船内を歩く時、ウトゥヌ神はわたしの傍らに寄り添うように連れだっていたが、他の乗客や乗組員たちには一切彼の姿が見えず、声も聞こえないという事がハッキリ分かった。
当初、半信半疑だった「イサを持つ特別な存在」というのが、十分証明されたことになる。
ミアーノの仕えるヴィエナ神は神子が長期不在のために力が弱まり、人々の生活に影響が出ているというが、ウトゥヌ神も四六〇年前にリオナが居なくなってから、彼の神子もまた同様に見つからなかったらしい。
彼の方は力の影響が出ていないようだが、神子になることを拒否するには罪悪感が伴ってしまう。
だが、正式に神子として任命されるということは神の伴侶となるということ。神聖な確約であるそれに、生涯不純なものは一切許されない。
相当な覚悟がなければ簡単に引き受けられる役目ではない。
彼は私の意志を尊重してくれると言う。けれど、わたしにしか神子が務まらないのならば、その役目を放棄したら後悔はしないのだろうか―――?
*****
「どういうことです! 私たち兄弟のいずれかと結婚する約束だったでしょう!?」
「い、いや、約束はしてないよ、うん」
「しかし、ヴァーラとの申し合わせでは……!!」
「ちょ、どうしたのファレス、少し落ち着いて?」
ウトゥヌ神と共に神殿へと戻ると、三人の王子たちが待っていた。
神子になる決心はつかないが、自分にしか出来ない事がある。
わたしはそれを彼らに説明した。
「だからね、結婚しないって決めたわけじゃないの。ただ、ひとまず神官見習いとして神殿に務めてみたいなと思って」
「それで、神殿での生活が気に入った暁には、あなたは喜んでウトゥヌの妻となると!?」
形の良い唇を噛みしめながら、ふるふると拳を震わせて白い肌を赤く染め激昂するファレス。
彼が感情を剥き出すのをはじめて見た。
しかし不思議と怖くはない。
怒りをぶつけているというよりも、まるで駄々をこねて癇癪を起こしている子供のように見える。
「わたしさ、引きこもりだし、根性ないし、三次元の恋愛も分からないし、今はまだ結婚がどんなものか、考えられないんだ。今まで、ただ恋愛を夢見ているだけの子供だったから」
ゆっくりと、ファレスのブルーグレーの瞳を覗き込みながら、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。落ち着いて話せる自分が不思議なくらいだ。
「だけど、ファレスたちと会って、もっとちゃんと生きてみようって思うようになったんだ。わたしの時間は七歳の子供のままで止まっていたから、今から巻き返すつもりで色々知って、体験して、身体だけじゃなくて心も大人になりたい。少し時間が掛かるかもしれない。だけど、その時がくれば、恋愛についてもきちんと考えることが出来るんじゃないかと思うの」
何かを堪えるように綺麗な顔を歪めるファレスの後ろから、聞いた事のある声がした。
「里緒、アンタこの短期間でよく成長したねぇ。もう大丈夫だろう」
「ヴァーラ!?」




