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五ノ六.罪と愛

―――そうだ、思い出した。

 海を漂っている時、この声を聞いた。

 死にかけながら、まだ死にたくないという会話をした。


「我は生と死の神だからね。その境界を漂う君のオーラを見つけるのは容易かった。けれど、いくら我が君を欲しようとも、生きる気力のない者を救うことは出来ないのだよ。リオナ以降の君は呪いの影響とは言え、生に対する強い欲求を持てずにいたようだからね。この変化はあの魔女と王子たちのおかげかな? 妬けるけど、彼らには感謝しなければいけないね」


 神様は何でもお見通しのようだ。

 確かに彼らとの接触がなければ、グダグダと部屋にこもったまま短い一生を送ったのかもしれない。病気か事故で生死の境をさまよったとしても、生きたいと強く願うことはなかったと思う。



「さあ、共に我の神殿に行こうか。今の君なら、呪いを打破できるはずだよ」

「え? でも罪の意識を消すとか、結婚をするとかの条件は……?」

 結婚は置いとくにしても、わたしの奥深くで眠っているらしいリオナの罪の意識を消すために、目の前の彼―――ウトゥヌ神と会わなくてはいけなかったんだ。

 けれどわたしはまだ何もしていない。



「君には元より罪などないのだよ。反省しなければいけないのは、馬鹿な男一人だけ。いいかい、君は悪くないんだ」

 ゆっくりと、心に刻み込むように低く紡がれる言葉。

「わたしは、悪く、ない―――?」

 慈愛に満ちた笑みで、こくりと頷く彼の両腕が、ふわりとわたしを包み込む。

 回された大きな両手が、子を宥める母のように背をさする。


(あたたかい……)

―――足のつま先から両手の先までが、ほんのりと緩やかな熱を帯びてゆく。

 優しい感情で満たされてゆく身体に、脳内までもが夢うつつで忘我の境地に陥る。


 しかし、「それに」と耳元で聞こえる彼の声と共に強まった腕の力と次の言葉で、勢いよく現実に引き戻された。

「魔女が勝手に君と愛し合う男を限定したのだ。 けれど、恋愛の対象は自由に選ぶものだろう? 例えば、我とかね―――」

「ふぁっ?」

「既に心に決めた男がいるなら無理強いはしないよ。元の世界に戻っても良いし、アルディアで暮らしても良い。その時は、君が幸せに天寿を全う出来るよう見守ると誓うよ」


 身体を引き離したウトゥヌ神は、鼻先が触れ合うような距離でわたしの頬に手を添えた。

「けれど、君と幸せになる役割を担う者の選択肢に我を入れてもらえる余地は、もう残されていないのかい―――?」


 呆然とするわたしの手を取り、彼は自身の胸へと導き当てて、手と手を重ねた。

 そこに視線を落とすように伏せられた透き通る琥珀色の瞳が、切なげに揺れている。

「君は今も我の神子。ただそれだけの理由で、君に焦がれて焼け付くこの胸を知って欲しい―――」

 薄い布越しに、彼の体温と胸の鼓動が伝わる。

 爆走しっぱなしのわたしの心臓と同じくらいに、そこは激しく脈打っていた。

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