五ノ五.生と死の神
優しく諭すような声に顔を上げた。
絡む視線。
走る衝撃。
詰まる呼吸。
いつもの男性に対する恐怖感とは違う。
心の奥底から躍動する感じ。
この感覚は何?
青みがかった長めの銀髪に、すっきりとした一重の切れ長の瞳は琥珀色。
褐色のしなやかな肌に、ギリシャ神話に出てくるような白い布を巻き付けた男性。
激しく鼓動し続ける胸を抑えながら「誰?」と絞り出した声は掠れていた。
「やはり分からないのだね……」
その悲しげな声に、何故か胸が切なくなった。
「あ―――ご、ごめんなさい……」
「リオナ様? どうされました?」
ミアーノが心配そうに首を傾げている。
「ううん、大丈夫。ミアーノ、この人は……?」
「この人―――とは?」
「ここに居る、銀髪の男性」
掌を上にして指す。
「申し訳ありません、どなたもいらっしゃらないようですが……」
ミアーノは訝しげに首を傾げるが、突然「あ」と声を大きくして興奮したように立ち上がった。
「も、もしやリオナ様は今世でもイサをお持ちなのでしょうか!?」
「イサって神の印だっけ? よく分からないけど、どんなやつ?」
「私も詳しくは存じませんが、以前のリオナ様の胸には小さく星型のようなものが……」
「あ、ある」
ハッキリとした星型ではないが、物心ついた頃には胸の中央付近にそれらしい物があると認識していた。幼いながらに、カクカクした角張った感じの珍しいホクロだなと気になったからよく覚えている。
(ってことは……)
その意味するところに思い至り、胸のドクドクが殊更激しくなった。
「つまり……わたしは本当に神子候補ってこと―――? じゃあ、この人は―――」
呆然と銀髪男性を見上げると、彼はふわりと微笑み名乗りをあげた。
「我が名はウトゥヌ。生と死を司る神だよ」
(!!!!)
ど、どどどどうしたら良いの! ひれ伏したりするべき!?
とにかくじっとしてちゃいけない気がする。もてるだけの瞬発力を引き出して後退し、部屋の隅で縮こまった。
だが彼はそんなわたしに苦笑混じりで近づいてくる。
「そんなに急に動いてはいけないよ。まだ安静にしていなさい。折角元気になったのに、無理をしてまた倒れたりしたら助けた甲斐がないというものだ」
「え? 貴方が海から助け出してくれたの?」
彼はそれには答えずわたしの目の前で腰を折ると、乱れて目に掛かっていた髪を長い指先で掬いあげ整えてくれた。そのまま髪を梳くように撫でられる。
慈しむような仕草と表情にドクドクがドキドキに変わってゆく。
「四六〇年待った。君が生きることを願ってくれて、本当に良かった―――」




