四ノ七.旅路六
部屋に入ると、想像していたよりもずっと豪華な内装をしていて驚いた。
寝室の他にリビングとテラス、それに簡易的なお風呂。
リビングにはゆったり横になれる大きなサイズのソファーもある。ここで寝ても良さそうだ。
荷物を部屋に置き、四人で賑やかな食堂へ降りた。
海の幸をふんだんに使用した温かい夕食はかなり美味しい。
食材の名前は違っても、どれもあちらの世界の魚介類と似通った味をしているので抵抗はない。少し味付けが濃い目な気もするが、ぜんぜん許容範囲。
世の中にはグルメ目的で旅をする人もいるらしいが、その気持ちが分かった気がする。
一日ぶりに暖かい食事をとり、温かいお湯でお風呂にも入れた。
すっかりリラックスして、海に面した寝室からテラスへ出てみると一八〇度のオーシャンビューが広がっていた。
センスの良い観葉植物やテーブルとイスが用意されていてまるで南国リゾートだ。
雑誌やテレビで見るようなラグジュアリーな雰囲気に興奮していると、背後からファレスがやってきてテーブルに備え付けられた蝋燭に火を灯してくれた。
「気に入りましたか? でもあまり身体を冷やさないで下さいね」
微笑みながらそう言うと、ふわりと上着を肩に掛けてくれた。例の気遣いだ。
こういう紳士な姿と、真正の変態な姿とのギャップが激しすぎて対応に困ってしまう。
(紳士バージョンの笑顔は鮮やか過ぎて目が溶けるわ……)
この人と今日一日ずっと密着していたのだと思い出すと、顔や鼻から火が出そうだ。
「う、うん。ありがと」
視線を合わせていられなくなって、海に気を取られるフリをして顔を背けた。
「では、私たちは隣の部屋に居ますから、用があれば呼んで下さいね」
ファレスが立ち去る気配を感じながら、わたしは密かに溜息をついた。
それからあれこれ考えるのも疲れて、ぼーっと海に見入っていると、突然一階から怒鳴り声と激しい物音が聞こえてきた。
「喧嘩……?」
食堂では酒も提供していたから、酔った客が暴れているのかもしれない。
隣の部屋からウォーレンが顔を出し「下を見てくる。里緒は二人から離れるな」と言い残して出ていく。
なんとなく怖いし、部屋に戻ろうとした瞬間―――
目の前が真っ暗になり意識が遠のいた。




