四ノ六.旅路五
天井に吊したランタンの灯りが、天幕の中を放射状に照らす。
セイが真ん中で大の字になりスースーと寝息を立てている。まるで子供だ。寝顔もあどけない。
そんな三男を囲むように、ウォーレンとファレスは荷物を背もたれにして座ったまま目を瞑っている。
この二人は寝顔さえも美しい。逞しい男神と麗しい女神の彫像がそこにあるようだ。
わたしはというと、体育座りで腕と頭を膝に乗せ、ぼんやりしていた。
レディーファーストなのか、わたしのスペースだけは柔らかい布を敷いて寝床を整えてくれたのだけど、恥ずかしくて横になれずにいる。
セイの寝息と共に、獣の遠吠えや、鳥の声、虫の音、草木が風に揺れる音などが聞こえてくる。
微かに水が落ちるような、断続的な鈍い音もする。どこかに滝でもあるのだろうか。
(キャンプってこんな感じかな)
今まであまり自然というものに触れたことがなかった。
思えば、あちらの世界で体験したことのないものを、こちらで色々と味わっている。それぞれの形は多少違うのだろうが、人間として不足していたものが少しずつ埋まっていく気分だ。
わたし自身と王子たちの呪いを解くという目的がなければ、家とアルディア城から進んで出ることはなかっただろう。そこはヴァーラに感謝したい。
(そうだ、マルベナでお土産買いたいな……出店で賑わうらしいから、珍しいものも色々あるだろう―――あ、でもこの世界の通貨を持ってないや)
そんなことを取り留めもなく考えていると眠気が襲ってきて―――小鳥の囀りで目が覚めると、きちんと横になって毛布も掛けて寝ていた。何故。
二日目は薬が効いたのか、筋肉痛に悩まされることもなく無事に馬に乗ることが出来た。
ファレスのおかげだ。しかしそれとコレ(馬に同乗する支障。わたしの立派な段々畑のお腹に手を回して「柔らかい……」と悦に入ったり、良い匂いだと鼻をくんくんさせて恍惚としていたり)とは話が別。
あまりに変態過ぎて、いちいち反応する自分が馬鹿らしくなった。思考と抵抗をやめて好きにさせておくことにした。
同乗者への無心スキルを磨きながら昼前に山を抜けた。平坦な草原が続く道をひたすら進むと、遠くの方に青い物がちらついた。海だ。
視界いっぱいに広がる海に感動し、潮風を感じながら海岸に沿って進むと日が沈む頃には港町が見えた。
町に入った時にはもう夕方。
アルディア城下町ほどではないが、かなり規模の大きい町だ。
日が沈んでも人々の往来が多く、肌色や服装は様々で異文化が入り交じっている。
船で余所から来る客が多いのだろう、食事をする店や宿が軒を連ねている。
その中でも比較的規模が大きく、見た目も小綺麗な店に入ると、魚の焼ける香ばしい香りが充満していた。一階が食堂で、二階が宿屋になっているようだ。
かなりの賑わいなので、きっと評判の店なのだろう。
ウォーレンが店主らしき人に話しかけ、今夜はここに宿泊することになった。が、またしても四人一緒の同室だと言う。
「他に空き部屋があるのに何故! まさかの旅費削減?」
「旅費はあるよ。でも女の子が一人部屋使うのは物騒だからさ。じゃなきゃ、僕との二人部屋にする?」
「却下」
即断すると「つれないなぁ~」とセイが頬を膨らませる。かわいいけどダメ。
恨めしく思いながら三兄弟を見上げるとウォーレンが苦笑する。
「港町は人の出入りが激しい。目覚めたら船の中で他国へ売り飛ばされるところだった、というのは嫌だろう?」
「うぅ……四人部屋で良いです」




