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四ノ三.旅路二

 アルディアを出て、最初に越えた山は農村部からアルディア城下町への玄関口となっているようだった。人の往来が頻繁らしく、平坦で綺麗な道が続きピクニック気分で通過した。

 その麓で三つの集落を見かけたが、それぞれの部落で畑仕事や牧羊などに勤しむ人々に遭遇した。

 彼らはみな明るく、馬を休ませていると声を掛けてお茶を振る舞ってくれたりもした。

 出会う人々はのんびりゆったりとしていて、気さくで親切だ。日本の都市部とはぜんぜん違う。アルディアの国民性なのだろうか?



 昼過ぎに突入した二つ目の山はまるで印象が違った。テレビで見た富士山の樹海に似ている。

 鬱蒼と生い茂った木々に太陽が遮られ、どこまでも薄暗い獣道を進む。濃い緑色のシダや苔で覆われた湿り気のある土が、逞しい馬の足下で柔らかく弾けている。


 たまにどこからかガサリと音がして、何かが潜んでいるのが分かる。

(この世界って、獰猛な獣とかいないのかな?)

 二次元だとそういったモノに襲われて「キャー!」となったところを、王子サマが助けてくれるシーンがお決まりだ。


 でも王子も人間なわけで、もしライオンの性質を持って体格がその何倍もあるようなモンスターが出てきたら危険なはず。

―――にも関わらず、この旅にお供は一人も同行していない。不用心すぎはしないだろうか?


(穏やかに見える国でも危険はゼロじゃないはず。だって王妃にはSPが四人も付いていたし……)

 そう思い至ったら急に不安になってきた。ちょうど日も暮れて、今にも何かが飛び出してきそうな雰囲気が漂っている……。



 ちろちろと湧き水が流れる横に少し開けたスペースを見つけ、ウォーレンが馬を止めた。

「この辺りで野営にするか」

 ひらりと馬から降りた彼がそのまま両手をわたしへと差し伸べる―――もしや抱き上げるつもり?

「いや無理です、腕折れるからっ!」

「くく、折れたら看病してくれるか?」

 わ、笑ったー!! ウォーレンが声出して笑うの、初めて見た!

……と見惚れていたら本当に抱き上げられて、そのまま地面に下ろされた。

「う゛ぅ、自分で降りられたのに!」

「ほう」

 面白いとばかりに口角を上げるウォーレンの骨ばった大きな手は、未だにしっかりとわたしの太い腰をホールドしたまま。

 慌てて身体を引き離そうとしたとたん、意図せず足の関節がガクリと折れ曲がった。

「ぅあ!?」

 倒れかけるわたしを、なんなくウォーレンが受け止める。

(この肥満体を軽々と片手で支えるとは……)

 まじまじと目の前にある濃いグレーの瞳を覗き込むと、普段はあまり感情を表すことのない精悍な顔が、いつになく楽しげに揺らめいていた。

 わたしはこの瞬間、「真面目な次期アルディア国王」は「年相応の生身の男」でもあるのだと初めて認識した。


「―――で? 手を貸さずとも良いと?」

 ぷくく、と再び笑うウォーレンは絶対意地悪だ。

(足ガクガクで立っていられないの、分かってて聞いてるでしょ!)

 ウォーレンてこんな人だった!?

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