四ノ一.旅路一
*四章に入ります。
あー、お月様が三つー!
うわー、何あの花!
きゃー、可愛い獣ー!
うふふふ。異世界ってス・テ・キ☆
―――って現実逃避のためにきゃぴきゃぴはしゃいでしまうわたしを誰か許して。
わたしは今、馬に乗っています。
アルディアの馬は、あちらの世界でよく目にするサラブレットの二倍以上はあるかという巨体。いかにも丈夫そうなぶっとい四本の脚を持ちつつも、足の速さは勝るとも劣らずという驚異的な肉体を持った、なんとも頼もしいお馬さんです。
だからわたしの体重でも全く問題なく軽やかに山の中を駆けてくれています。
え、乗馬経験なんて勿論ありませんでしたよ?
じゃあなんで山道を疾走出来るかって? 一緒に乗っているヒトがそりゃもう華麗に手綱を握ってくれているからに決まってます。
……そう。わたしの背中は第一王子ウォーレンさまの胸にぴったんこ☆
わたしが馬の首のすぐ後ろに座り、その後ろにウォーレン。彼の逞しい両の腕で囲われるようにして乗っている形です。
奥さん、これは拷問ですよ?
男にまったく触ることが出来なかったわたしが、なぜ一日中馬上で男と密着しなければならんのだ!!
いやいや、原因は分かっている。これもすべて自分自身のためで、王子はむしろわたしに付き合わされている被害者とも言える。
でも……でも! もっと違う方法はなかったのだろうか、と重たい溜息が出る。
「……どうした? 気分でも悪いのか?」
(ぐはあぁあぁっ!)
悶えたいのに悶えられない! だって落馬する! 耳元で後ろから囁くの絶対ダメだから!
わたしより頭二つ分くらい背高いんだから、普通に話したら頭上から声が降ってくるはず。なのに耳元で声がするのが全く解せない。
初対面の時、ウォーレンの低音ヴォイスが好みでたまらんかったんだよ? もう耳が融解するわ!
彼からは悶絶するわたしの表情は見えないだろうが、耳まで赤くなっている自信がある。もしや心臓がバクバクしてるのも伝わったりするのだろうか? だとしたら、馬から降りてからもしばらくは恥ずかしくて顔見れない。
けれどここで黙っていると例の質問責めが待っているので、腹の底から短く太い声を絞り出して「いえ」と否定の言葉を口にするのが精一杯だ。
他にも困ることが―――倒木や岩やらがあったりすると避けるために馬体が揺れて、その度にウォーレンは腹部に手を回してぎゅっと抱き締めてくれたりするから―――お肉が……お肉がぁぁ!!
もう恥ずかしいやら、申し訳ないやらでその度に硬直してしまう。
すると、何故か、ますます腕に力が篭もるのだ。
ひょっとして落馬の恐怖で身を縮こませているのだと勘違いさせてしまっているのだろうかと思い、思わず後ろを振り向いて「大丈夫ですから」と言ったんだ。
―――これが最大の失敗だった。
誰に対しても常に厳しい顔を崩さない硬派なイケメンのウォーレンが、口元と目元を緩めて「分かってる」って優しく微笑んで答えたんだ! 至近距離で!!
破壊力は東京ドーム一〇個分、いや一〇〇個分!? 本気でくらりとして、落馬すると思ったから!
しかも「分かってる」って、もしかしてわざとギュッてしてるってこと……!?
(イジメ? からかって遊んでる!? でもそれなら優しく笑ったりするか??)
ウォーレンの心境がサッパリ理解出来ない。が、ともかく耐えるしかないだろうと、無反応を装うために心の中で般若心境を唱えてみるが、大して役には立っていないのが現状。
早く目的地のマルベラに着くのを祈るしかないのだが、旅は始まったばかり。
最速でも片道三日はかかるらしい。初日からこんな調子で、あと二日―――保つのだろうか……。




