三ノ三.死の呪い
昔話を終え、ヴァーラはわたしをじっと見据えた。その瞳は深く澄んでいて、感情を読みとることは出来ない。けれど、わたしの奥底に潜む何かを覗かれているようで、思わず目を逸らしてしまった。
「リオナは神子というものが存在しない世界に生まれ変わることを望み、それは無事叶った。でも何度生まれ変わってもリオナは女として男に恐怖感を抱くんだ。そして必ず自害した歳と同じ二一歳になると、原因不明の死に至る。
あたしはそれをウトゥヌの呪いだと考えた。裏切った妻を許せずにいるのだろうってね。ウトゥヌは生と死を司る神だし、そう考えるのも当然だろう? だからあたしは死ぬ度にウトゥヌに文句を言いに行ったんだ。ところがね、ウトゥヌは『何もしていない。それはリオナが自分自身に掛けた呪いだ』って言うんだよ」
ウォーレンが眉間に深い皺を寄せながらわたしに視線を向け、何か言いたげに僅かに口を開いたが結局言葉を口にせず、その険しい顔をヴァーラへと向けた。
「あちらで転生し続けること及び二一歳で死亡することを自ら課したと?」
確認に近い問いに、ヴァーラは苦々しく頷いた。
「あたしは当時、遠く離れた国に出掛けていたから一部始終を見ていたわけじゃない。けど、ウトゥヌ含めあちこちで聞いた話と調査結果、そしてリオナの転生体を見守り続けた結果をまとめると、そういう事になるだろうと思う」
「私たちの祖先が当時のリオナさんに無体を働いたせいで、『彼女』は自らの命を絶ち続けているということですね」
すぐ近くから聞こえる低い低い感情を押し殺したような声がファレスのものだと気付くのに時間が必要だった。
顔を伏せているから表情は分からない。けれどその膝の上に乗せられた拳がキツく握りしめられていて、彼が何かに対して感情を高ぶらせているのだと分かった。祖先の愚行が嘆かわしいのだろう……。
重い沈黙が落ちる中、わたしは自分のことであろうという話にまったく実感がわかずにいた。
そもそも前世がリオナだということさえ納得できずにいるというのに、近いうちに死ぬと言われてもまるでピンとこない。
でもきっとこれが「末期の病気です」と言われているのだとしても、同じ感情だったろうと思う。
死―――死か……。
わたしは確かに生きてはいるが、ただ毎日を無為に過ごしているだけで「生きている」という実感は少ない。
勿論オタク活動は楽しいけれど、それがわたしの「生きる意味」なのだろうか?
夢中でゲームの世界に没頭していても、現実に戻った時にはいつも虚しさを感じる。「わたしは何をやってるんだろう。もっと他にやる事があるんじゃないの? こんなの、ただの時間の無駄遣いだ」って。
でも人生なんて人それぞれで、自分の生き方を不満に思ったりはしていない―――けど「社会不適合」というレッテルに対し、常に劣等感が付きまとう。
自分がいくら気にせずとも、周囲からは異端視されるからだ。
だが、それが辛いのも最初だけ。わたしは引きこもり出してから一-二年程で、目と耳と心を塞ぐことを覚えたから。
けれどそんな私を育ててきた両親が悪く言われる事も少なくない。それだけが、どうしても慣れない。
わたしがこんな風になったのは「親の育て方が悪かったからだ」なんて言われるが、親は関係ない。
あの小二の出来事がきっかけで、わたしが自発的に閉じこもったんだ。誰かのせいだなんて、これっぽっちも思っていない。
けど―――けど、これが本当に呪いのせいだとするならば?
何度生まれ変わっても、ずっとずっとこんな思いを続けて、若いまま死ぬ事を繰り返すんでしょ?
「今の自分」の状態は自分の弱さのせいだと割り切れるけど、このままでは「次の自分」たちが不憫だ。
もし呪いの輪を断ち切ることが出来るのならば、どうにかしたい。




