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立体の男は異次元から  作者: 伊代
生きる
20/41

三ノ二.聖女と国王

*昔話になります。

 今から約五〇〇年前のこと。

 マルベナという国に、強力な魔力を持つ姉と、神殿で神子を務める妹の姉妹がおりました。

 姉はヴァーラ、妹はリオナといいます。


 ヴァーラは稀有な力を持つ魔女としてその名を轟かせ、リオナは生死を司る男神ウトゥヌに身を捧げ一生仕える清らかな存在として人々から敬愛されていました。


 神に愛された証である「イサ」という印を皮膚に刻み誕生したリオナの魂は穢れのない純白色。それが容姿をも美しく輝かせていました。


 そんな二人の噂が近隣の国々にまで届くのは当然とも言えました。

 しかし誇張された噂として笑い飛ばす者も多い中、姉妹に強い興味を抱いた男がいました。それがアルディアの二三代目国王、タージェラット=ル=アルディアです。




 常時門を閉ざし謎のベールに包まれている神殿ですが、年に一度だけ民の前で大きな祭事を行う日がありました。ウトゥヌ神の出現を祝う「降誕祭」です。

 太古より伝統的に続くこの祭りでは、神が好んで召し上がれるとされる「キヤル」という蜜菓子が振る舞われ、奉納演奏が響きわたり、辺りには出店が立ち並び、大人から子供までそれはもう大層な賑わいを見せるのです。



 日没と共に行われるフィナーレは、ウトゥヌ神に捧げる神子の舞で締めくくられます。

 その舞を見れば以降一年間を息災に暮らせるという伝承があり、民はこぞって神子の元へと集まります。


 数十名の楽士たちが奏でる静かな笛の音に合わせ、神子一人が立つ神聖なる舞台。

 時間を感じさせないゆったりと滑らかな舞いで、そこに神秘的で厳かな空間を生み出します。

 あれほど賑やかだった会場は水を打った静けさに包まれ、人々はただ感嘆のため息を洩らすのでした。

 リオナはこの年、二一歳。無垢な少女から一人の女性へと変貌する最中の彼女の美しさは正に頂点を迎えていました。



 この舞を誰よりも待ちわびていたのがタージェラットです。

 王は視察と称し、アルディアから山五つ越えた先にあるマルベナの神殿まで馬を飛ばしやってきたのです。

 そして、静かに凛と舞う神子を一目見た瞬間、彼は恋に落ちたのでした。


 リオナは人々から愛される神子です。

 そしてイサの印をその身に抱いて生まれた、ウトゥヌの妻です。

 ですから、いくらタージェラットが大国アルディアの王であっても彼女を妻に迎えることは叶いません。


 しかしその若さ故に血気盛んで愚かだったアルディア王は、リオナを妻にするため強硬手段を取りました。

 その結果、彼女は神子としての能力を失い、ウトゥヌ神を裏切った罪の意識に堪えきれず自害してしまったのです―――。

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