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立体の男は異次元から  作者: 伊代
王子という男たち
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二ノ五.セイ

*第三王子視点になります。

 夕食を終え、自室へは戻らずに城の最上階にある小部屋へと向かう。

 その扉には特殊なロックの魔術が施してあり、僕ら王室一家の他には限られたごく数名の者しか入室できないようになっている。魔術を掛けたのは僕。

 この世界の魔力持ちはその実力でSからEに分類される。僕は上から二番目のAランクだからこれくらいの術は朝飯前。ちなみにヴァーラは一番上のSランク。Sは別格すぎてAとは大人と子供程に差がある。

 だから最上クラスになると半ば伝説的な存在で、現在はヴァーラを含めこの世界に三名しか存在しないらしい。


「さてと」

 小部屋に取り付けられた何の変哲もない古い姿見の前に立つ。その冷ややかで曇りのない表面に指先を揃えて触れ「失礼するよ」と声を掛けてみる。僕以外には誰もいないのに、だ。もちろん返事もない。

(…………)

 なんだか自分が間抜けに思えて腹が立った。一息に姿見に突っ込む。



 鏡の向こうは、僕の自室に備え付けられたクローゼット程の面積しかない小さな部屋に通じていた。

 小綺麗にはしてあるが、僕らの美的感覚からすれば理解しがたい絵画(すべて男性をモチーフにしたもの)があちこちに飾られている。


「せ、セイ!?」

 背後で妙に甲高い声がして振り返ると、風呂上がりらしきリオナが酷い顔で硬直していた。

 ごく薄手の下着よりはマシという格好で、いつもぼさっと一つに括っているだけのロングヘアを緩くアップにしている。まだ濡れているせいかな。

「ふぅん、髪上げた方が良いね。可愛い」

「……へ? ぎあぁぁ、ぁあああ」

 赤くなったらと思ったら青くなって、ばっとデスクチェアに掛けてあった薄手の上着を羽織るリオナ。あまり容姿に気を配っているようには見えなかったけど、慎みはあるようで少し安心した。



 僕が知っている以前のリオナは「3代前の僕」が知っているリオナだ。「彼女」はアルディアから山を五つ程越えた先にある国で神子をしていた。

 当時から既にSランクだった魔女と、聖女のように謳われている神子の姉妹の噂は国境を越えて届いたから、暇つぶしも兼ねて姉妹を拝んでやろうと思ったんだ。


 ヴァーラの方は今と大して変わらなかったけど、妹の方は神聖な気を纏いストイックで清廉な雰囲気で、噂に違わぬ聖女っぷりだった。似ていない姉妹だなと思ったね。

 血のつながりがない今の方が、よっぽどよく似た姉妹に見えるのはどういうわけだろう?

 ともかく神子だった彼女と今のリオナがまったく結びつかなくて、初めて会った時はそのギャップに驚いたんだ。

 まぁ、普通は異世界に転生することはないはずだから、それが要因で彼女の中で何かが大きく変わっていたとしても不思議ではないんだけどね。



 ひきつった顔で部屋の隅へと後退し僕との距離をとるリオナは、少々大きめの体を小さくしてこちらを警戒している。

「あー、楽にしてていいよ? ちょっと個人的な話をしに来ただけだから」

 それでも警戒を解かない部屋の主の了解を得ず勝手にベッドの縁に腰掛けると、細い金属で出来た簡素な作りのそれがギシリと鳴った。すぐ壊れそうだなぁ。


「あのね、僕は兄たちと違って将来を誓い合った人がいるんだ。でも五歳上のウォー兄さえ恋人の影すらないのに、第三王子の僕が見せつけたり真っ先に結婚したりするのも悪いでしょ? だからみんなには秘密にしてるんだけど……僕の言いたいこと、分かる?」

「え? あ~……恋人の存在がバレないようにすることと、セイには間違っても恋愛感情を持たないこと、とか?」

「そそ、物分かりの良い子は好きだよ」

 あ、また赤くなった。反応が初々しくて嫌いじゃないな。

「そういうことで宜しくね。じゃ、僕帰るから」

「ま、待って!」

「……何? 誘ってるの?」

「んな゛っ!? ち、ちがっ! 色々聞きたいことがあって!!」

 さっきまでの剥き出しの警戒心はどこへやら。そんなにムキにならなくても、からかっただけなんだけどなぁ。

「まぁ僕に分かることなら教えてあげないでもないけど、見返りは?」

 リオナの口から漏れた小さな呟きは「王子のくせにケチくさ」。聞き逃さないよ、悪いけど地獄耳なんだからね。


「へぇ~、結構言うね? 不敬罪って言葉知ってる? ケチでもなんでも王子なんだけどね、僕」

 意識してすっと眼を細め顎をしゃくりながら見下して言ってみると、リオナは「くっ」だの「はぁ」だのと悔しそうに顔をしかめている。

(いいなぁ。こういう顔、好きだ)

「……お引き留めして申し訳ありませんでした。どうぞお帰りくださいませ、そしてもう二度と来ないでくださいませ!」

(うわ、なんだこの子、面白い!)

 ヤケクソで無理矢理な笑顔を作り苦々しく言い放つリオナの可愛げのなさが、かえって可愛い過ぎる。

 普通の令嬢はどうにかして僕の気を引こうと引き留めて「王子」に取り入ろうとする。

 僕が「王子」で「Aランクの魔力持ち」である以上、意見したり反発したりする人間は家族や重臣に限られていて、こんな風に噛みつかれたのは初めてだ。


「そっかそっかー。そんなに僕と話がしたいんだ? じゃあとりあえず紅茶を淹れてもらおうかな。焼き菓子もお願いね」

 再びミシリとベッドを鳴らして深く腰掛け、ニッコリと見上げるとリオナが頬をぴくぴくさせながら拳を震わせている―――ああ、なんて楽しいんだ!


 結局日付が変わるまでじっくりと質問に応えてあげた。

 見返りなんて元々期待していなかったけど、充分楽しませてもらったから大満足。

 女嫌いのファー兄がリオナを気に入った理由もよく分かった。また来ようっと。


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