二ノ三.穏やかでないティータイム
「うん、旨いな」と豪快にドーナツを頬張るアルディア国王。
「へー、これ野菜が入ってるの? 普通に美味しいよ」と無邪気な第三王子(愛称セイ)。
「優しい味がしますわね」と上品にフォークで口に運ぶ王妃マリエッタ。
「悪くない」とやはり口数少なく眼光鋭い第一王子(愛称ウォーレン)。
「良い物選んだじゃないのー」と感心する魔女ヴァーラ(仮の前世姉)。
「勿論ですよ、リオナさんのアドバイスを頂きましたから」と胸を張る優男風なドS第二王子(愛称ファレス)。
「は、はぁ……」と、どうにかして逃げたいわたし(リオナ疑惑の成瀬里緒)。
麗らかな陽射しの中、咲き誇るバラに囲まれていただく上等なはずのお茶は緊張マックスで全く味がしない。高スペック過ぎるご一家はキラキラ眩しすぎて、あまりの場違い感に自分と同じ一市民風のヴァーラが居なかったら逃げ出していただろう。
―――というわけで、何故かわたしはアルディア城の庭園にて上品なティータイムを過ごしております。
きっちり「ドーナツ七個」という指定だったのは、最初からこの状況までもが含まれたミッションだったということだ。嵌められた感が半端ない。
あの後、ドーナツの入った箱を突きつけて即「はいサヨナラ」を切に希望したのだが叶わなかった。
「国に連れて来るよう言われています」「急病だって言っといて」「婿候補達がツルツルになっても良いと?」「いや結婚しないし。てかしたくないし!」「いえ、私としてもらいますよ」「いつどこでそういう話に!?」「つい今し方、私の中でそう決定しました」「意味分からんっ! 結婚反対!」「では貴女のせいでアルディアが滅ぶのですね(ニヤリ)」というファレスとのやりとり(脅迫)に屈してしまったのだ。
そんなプレッシャーをかけられて平気でいられるほど図太くはない。
ただでさえ偏執性を放射しまくりの色気のあるネチっこいビームに絡めとられて、ただその視線のみによる断続的な精神ダメージを与えられドーナツが逆流しそうになるのを必死に堪えているので、これはもう魂を削っての抵抗だったのだが……。
ファレスの言葉自体は今まで通り丁寧なままなのに、言葉の端々に意地の悪さが含まれていて彼の俺様ドSっぷりがさらけ出されている。表情も今までの「ふんわりにこり」から「いじわるにやり」に変わっていてそれを隠そうともしていない。
そんな大変身を遂げた男とこれ以上遣り取りを続けるのもイヤだし、一刻も早く二人きりの状態を回避したかったこともあり仕方なく着いてきてしまったものの……。
(どういう図なの、これ)
わたしがここに居る理由も不明だが、国王の血筋を絶やそうとしている元凶の魔女も仲良くお茶って。
(ほんとに国の危機? わたし騙されてない?)
今にもこの一家と魔女が「はーい、実はドッキリでしたぁー!」なんて言い出すんじゃないかとドキドキしている。
「はーい、これでツルツルの刑は無しにしとくわねー」
「ヴァーラ、あんまり戯れにうちの男たちを困らせないであげてね?」
「あら、大丈夫よー。命とったりはしないから」
……、やっぱり戯れなのか。それに付き合う程暇じゃないんだけど。
基本的にわたしの仕事は二四時間可能だがサボった分だけ収入が減ってしまうし、それより何より二次元に萌える時間がなくなってしまうのが痛い。ああ、二次元に逃げたい(遠い目)。
「でもうちの子たち、もうみんな良い歳なのにまだ誰も決まった相手が居ないじゃない? はやく呪いを解いてもらわないと、どんどん婚期が遅れていくわぁ」
(あ、それ、わたしも気になっていたんだよね)
二次元のこういったファンタジー世界では大抵ハタチ位でもう子供がいたりするものじゃないだろうか。実際国王も王妃もかなり若く見える。おそらく四〇代前半だろう。こんな大きな子供たちがいるとは到底思えない。
「それはー、リオナ次第よねぇ」
(今はともかく、これまで女が居なかったのはわたしのせいじゃないだろっ!)
と声を大にしてツッコみたいのは山々だが、ここで王族一家と強大な魔女に向かって否定や言い訳をぶつけるほど馬鹿ではない。
怒りを抑えて黙り込むわたしをよそに王妃とヴァーラはなにやら目配せしたかと思うと、ふと立ち上がり左右からわたしを囲んで「ちょっといらっしゃいな」とテーブルを離れ、薔薇園の中程にある東屋へ。
(今度は女子会ですか……)
まぁ先ほどまでの状況よりは多少マシ……か?




