テロ6 メンバーその6は危険人物
「ねー、まだメンバー集めするのー? もう十分じゃないのー?」
「うるせーな。帰りたいならさっさと帰れよ」
「何言ってんのさー。この俺がアゲハちゃんを置いて帰るわけないじゃないか」
銃撃のプロにして突っ込み要員――ライリ・ベルゲオンを第五のメンバーに加えた俺たちは、夕日に赤く染まった空を見上げながら、そんな会話をしていた。
ここは一応情報棟四階の廊下なのだが、周りにはもう生徒はほとんどいない。そろそろ夕飯時だから、食堂か自室で食事でもしているのだろう。
いつもだったら今の時間は寮の部屋に戻って、ムカつくけど旨いミナトの飯を食ってPCをいじっている頃合いだ。(俺とミナトは同室だ)
だが、俺はどうしても今日中にメンバーを揃えたいと思っていた。そしてまだ、メンバーが足りないと俺は思っている。
「アゲハちゃんはどんな子がお望みなんだい? もうあらかた揃ってると俺は思うけど?」
「いや、まだだ。最低でもあと一人はいる」
「えー、どんな子?」
ミナトはうんざりといった表情で俺を見下ろした。
「バイオテロ対策ができる奴だ」
***
この学園には前述した通り、陸軍、海軍、空軍、情報部、科学部の五つのクラスに分かれている。だが、実はもう一つの特別クラスが存在する。
それは医療クラスである。科学部から派生した特殊なクラスだ。軍属には軍医というものが存在するのだから、医療クラスがあるのは必然だと言えるだろう。
「――ここだね。特殊医療室」
「ああ。ここに来るのも初めてだ」
「俺は二、三度来たことがあるよ。ここの責任者さんがスゴくってさー。俺の従姉なんだけど」
「それは初耳だぞ!?」
「だって言ってなかったし」
俺とミナトは、その医療クラスがある科学棟5階のある一室に来ていた。真っ白な扉がなぜか光り輝いているように見えるのは気のせいだろうか。
俺はミナトとどうでもいい会話をしながらも、その扉に"貼られて"いるものに目が釘付けだった。そんな俺に気づいたミナトは苦笑していた。
「やっぱり気になっちゃう? "それ"」
「……気にならない方がどうかしてるんじゃないのか?」
「だよねえ」
ミナトは相変わらず笑っているが、ちっとも愉快ではない。
扉に貼ってある"それ"は、何てこともない真っ白な紙だった。
だが、書いてあることは何てこともなくはない。面倒な言い回しだが、そうとしか言いようがない。
「……"イケメンお断り"ってどういうことなんだ」
「そのままの意味だよ?」
……要するに、少なくともミナトはお断りということだな。
「アゲハちゃん、念のために言っておくけど、この部屋にいるのは今までの面子とは比べものにならないぐらいの危険人物だからね? アゲハちゃんなんか、ペロリと食べられちゃうよ?」
「……はあ? まさかとは思うが、食人家なのか?」
「ここでそんな天然発言はいらないよ!?」
珍しくミナトに突っ込まれてしまった。
ミナトはなぜか目を血走らせて俺の両肩を掴んでいる。
「……俺は入るぞ、止めても無駄だ。今さっき思い出したんだが、あのクソジジイがメンバーは七人以上にしろって言ってたんだよ」
「えー、じゃあ他をあたろうよ。あと一人でいいんだよね?」
「せっかくあと一人で終わるんだから、もうここの奴でいいだろ」
俺はそう言ってミナトの制止をふりきると、ノックもそこそこに開閉ボタンを押した。と同時に扉が開いて、ミナトを無視して中に足を踏み入れた。
中は流石は医療室と言ったところか。床も壁も天井も、設置されているベッドや医療設備も全て真っ白だった。
……この学園、白が多いよな。
そんな中で一際異彩を放っている女が一人。身長は百七十センチぐらいはありそうだが、椅子に座っているから正確な数字は分からない。
輝くばかりの、腰まであるカールされた金髪が眩しい。瞳の色も金色。化粧をバッチリしているせいか、目元がやたらとキリッとしていて、マスカラがのった睫毛が異様に長い。
彼女は科学部の白いブレザーを身に纏っていると思いきや、医者らしく白衣を着ていた。だがその下はなぜか真っ赤なパーティードレス。それは胸元が大きく開いていて、やたらと豊満な谷間が覗いている。
彼女は突然現れた平凡(俺)とイケメン(ミナト)に目を見開いたが、すぐに気を取り直し、立ち上がった。そして俺たちのほうにヒールをカツカツと音をたてながら歩み寄り――
「――何、この美少女」
と、俺に顔をめいいっぱい近づけた。
……おいおい、近いぞ。
「……えっと……あの……」
「あら、何? 子猫ちゃん? もしかして緊張してる? かわいー」
「……」
彼女は真っ赤な口紅が塗られた唇をニイッとつり上げて笑った。……恐いな。
「……ルーシー、落ち着きなよ。アゲハちゃんが怯えてるじゃないか」
「うるさいイケメン。……子猫ちゃん、アゲハっていうの? いい名前ねー」
「……どこから突っ込めばいいんだ」
彼女……ルーシーは、俺に対しては猫なで声を出すくせに、ミナトにはぞんざいな態度を見せていた。どうやら本当にイケメンが嫌いらしい。珍しい女だな。
「まず始めに言わせてもらうが、俺は男だ。女ではない」
「……ふうん。別にいいじゃない。要するに男の娘ってことでしょ?」
「変換が間違ってる!!」
開き直ってんじゃねえよこのケバ女!! どいつもこいつも俺を女扱いしやがって!!
「だから言ったじゃないか、アゲハちゃん。こいつはものすごい危険人物だって」
「……何でだろうな。命の危機は珍しくないが、貞操の危機を感じたのは生まれて初めてだ」
俺は肩をがっくりと落としてうなだれた。
「――と・こ・ろ・で。自己紹介をしていなかったわね。私はルーシー。ルーシー・ミドラー。科学部医療クラス所属よ。好きなタイプは可愛い女の子と男の子。嫌いなタイプはイケメンとブサメン。よろしく」
ルーシーは軽くウインクと投げキッスでそう自己紹介をした。
……お前の好みなんかどうでもいいんだよ。
「どうでもよくないよ、アゲハちゃん。君はルーシーの好みドストライクなんだからね?」
「最悪だな!!」
それって本気でヤバいんじゃないのか俺!? 女にモテるのは嬉しいが、何でこんな肉食系女子なんだよ!?
俺はさらにうなだれた。するとミナトは苦笑しながらも、俺を庇うように前に立った。
「ルーシー、君がイケメン嫌いなのは承知の上だけど、アゲハちゃんの頼みを聞いてみてくれないかな?」
「あんたみたいなイケメンに言われなくても分かってるわよ。子猫ちゃん、私に何の用なのかしら?」
……俺の呼び名は子猫ちゃんで決まりなのかこんちくしょう!! 大体、イケメンは悪口じゃなくて誉め言葉だろうが!! 俺だって一度くらい言われてみたいよ!!
俺は心の中でそう突っ込むと、大きく溜め息をついて話し始めた。
「……俺はテロ対策クラスの指揮官アゲハ・フェザードだ。バイオテロ対策ができて、尚且つ医療知識がある奴を引き抜きたいと思っている。
――ところでミナト、このケバ女……ルーシーの実力はどうなんだ? 使えそうなのか?」
「まあ、実力はもちろんあるよ。最近出現した新型ウイルス"ゼロ"の抗ウイルス剤を開発したのは彼女だし」
……新型ウイルス"ゼロ"なんて初耳だな。
最近のニュースに疎い俺はそう思って首を傾げた。
「その"ゼロ"ってどんなウイルスなんだ?」
「あれ、知らないの? "ゼロ"ウイルスは、感染した人間や動物の皮膚に直に触れると感染する、非常に危険なウイルスだよ。
何でも、感染するとじわじわと"0"って数字がダルメシアンの黒ぶちの如く大漁に浮かび上がってきて、最後には体中が真っ黒になって息絶える恐ろしいウイルスなんだって」
「恐っ!!」
想像しただけで鳥肌がメチャクチャたっちまったじゃねえか!!
俺は思わず自分の体を抱き締めて身震いした。
その一方で、ルーシーはどうでもよさそうに腕を組んで、じっと俺を見つめていた。
「あらあら、そんなに怯えなくてもいいのよ? そのウイルスなら全滅させておいたから。そんなんじゃ、バイオテロには勝てないわよ?」
「そ、そんなことは分かってる! だからお前が必要なんだ!!」
「……」
からかうルーシーにそう訴えると、なぜか目を見開いて俺を凝視する二人。……なぜだ。何か変なこと言ったか?
「……ねえ、イケメン」
「……何だい? ルーシー」
「この子、食べちゃってもいい?」
「駄目」
「……チッ!」
意味不明な会話をし、最後には火花を散らしながら睨み合う二人に挟まれ、俺は何となく縮こまってしまった。
……お前ら実は仲がいいんじゃないのか?
俺はそう思いながら、なぜか疎外感を感じていた。俺を無視するミナトに特にムカついたから、膝に蹴りを入れてやった。
「……ちょ、痛いよアゲハちゃん」
「うるさい。俺を無視した罰だ」
「あら可愛い。もしかして嫉妬? そんなイケメンなんかやめて、私に乗り換えない?」
「俺にそんな趣味はない!!」
俺はそう怒鳴ったが、ルーシーはニヤニヤと笑ってばかりいた。従姉弟揃ってムカつくな!!
「――どうでもいいけどアゲハちゃん、結局どうするの? ルーシーをメンバーに入れるの?」
「……ルーシーの意思による」
「私は別に構わないわよ?」
ほとんど即答に近い形で了承の返事が返ってきた。……決断早いな。
「いいのか? 本当に?」
「もちろん。可愛い子猫ちゃんのためならどうってこともないわよ」
「一言多いんだよ!!」
本っ当に一言多いな!! やっぱりお前らそっくりだよ!!
俺はそう悪態をつきながらも、ある達成感でいっぱいだった。
「……ミナト」
「何?」
「お前をサブリーダーに任命する」
俺の言葉に、ミナトは一瞬驚いた表情を見せた。だがすぐに、いつも通りの人を食ったような意地の悪い笑顔を見せた。
「いいの? 本当に?」
「ああ。ムカつくが、俺の背中を任せられる奴はお前しかいない」
「それは光栄だな」
ミナトは嬉しそうにそう言った。そんなミナトを見て、俺は何となく安心していた。
これで必要な人材は全部揃った。
――爆弾処理のロゼッタ。
――パイロットのシルバー。
――戦闘員のゴールド。
――スナイパーのライリ。
――医者のルーシー。
――そして、情報処理と交渉のミナト。
俺のメンバー編成に死角はない。後はこの俺が本気になれば完璧だ。
俺は顔がニヤけるのを抑えることができなかった。それぐらいに、心の中で興奮していた。
あまりの興奮に、心臓がひどく高鳴っている。これから対峙することになるであろうテロリストたちのことを考えると、沸き立つ興奮を抑えることができない。
俺はこれでも一級サイバーテロリストだぞ? その俺が、ある意味では同胞とも言えるテロリストたちと対立する――楽しみすぎる。
ジジイに最初、テロ対策クラスを作れと言われた時は、正直面倒だと思っていたのだがな。よくよく考えてみると、悪くはないな。
「――さあ、楽しいゲームの始まりだ」
医療のスペシャリストにしてバイオテロ対策の責任者、ルーシー・ミドラー獲得――。
それと同時に、世界最強のサイバーテロリストにして天才技術者、アゲハ・フェザード始動――。
第1章終わり