テロ5 メンバーその5はツッコミ要員
「――このままじゃヤバいぞミナト」
「何が?」
「ツッコミがいない」
陸軍Aクラス最強にして戦闘狂――ゴールド・ウォーリアを第四のメンバーに加えた俺は、今非常に焦っていた。
なぜなら、突っ込み要員が激しく不足していることに気がついたからだ。
「なあんだそんなことか」
「てめえ、これは死活問題だぞ!? 俺のライフがどれだけ削られるか分かってんのか!?」
どうでも良さそうに半笑いを浮かべるミナトに、俺は必死の形相でそう訴えた。廊下のど真ん中でそんなやり取りをしているものだから、偶然通りかかった生徒たちは俺たちを興味津々に見物していた。
「仕方ないなあ。じゃあ、俺の友達で実力者の突っ込みくんに会いに行こうか」
「いるのか!? そんな完璧な奴!?」
「いるよ。海軍にね」
ミナトのその言葉を聞いて、俺は期待に目を輝かせた。
……ん? 待てよ? 海軍の奴ってことは……。
「全クラスコンプリートだな!」
「あ、ほんとだ。それじゃあ狙撃訓練室に行こうか」
ミナトはそう笑って目的地を変更して歩きだした。だが俺はミナトのおかしな台詞に突っ込まずにはいられなかった。
「……待て。何で海軍なのに狙撃訓練室なんだ」
「彼、いつもそこにいるから」
「……」
本当にそいつはツッコミ要員にふさわしいんだろうな!?
俺はミナトの後について行きながら、早くも不安にさいなまれていた。
***
「――はい、着いたよ。ここが狙撃訓練室。俺たちとは縁も所縁もない場所だよねえ」
「……まあ、それには同感だ」
俺たちはあの会話から約十分かけてこの狙撃訓練室にたどり着いた。この学園、無駄に広いんだよ!!
入るのに特別な許可などは無いから、ノックもせずに開閉ボタンを押して中に入った。途端にうるさい銃声が途切れることなく耳に響いた。
「……うるさい」
「我慢してよ」
軽く手で耳を塞ぎながら目的の人物を探そうと試みたが、よく考えてみればまだどんな奴なのか聞いてなかった。
「おい、ミナト。目当ての奴はどいつだ?」
「見れば分かると思うよ」
ミナトのニヤニヤした顔は気に食わないが、俺は言われた通りに、訓練中の生徒たちを観察してみた。
この狙撃訓練室は、主に陸軍の生徒たちによって利用されている。室内は照明で照らされているものの、壁はコンクリートだからあまり明るくは感じない。
そんな室内に設置された、真っ黒な壁で二メートル間隔にしきられた狙撃台は、全て赤いブレザーに身を包んだ陸軍の生徒たちに占領されている。
……と思ったが違った。一番奥の狙撃台に、青色のブレザーを着た少年がいた。青色のブレザーは海軍の生徒である証だ。
その少年以外に海軍の生徒がいないことが分かると、俺は迷わずそいつに近づいた。
そいつは、自分に近づいてくる俺たちに気づいていない。いや、それともあえて無視しているのか――真剣な表情でハンドガンを構え、五十メートルは離れているであろう小さな人型の的を狙っていた。
外見はいたって普通……と言っては失礼だな。まあ中の上とでも言っておこう。ダークブラウンの長髪を後ろでひとつに束ねており、狙撃訓練には欠かせない透明のゴーグルをしている。全体的に整った顔をしているが、まだ幼い顔つきをしていた。おそらくは俺たちよりも年下だろう。
まあ、うちの学園は入学試験をパスすればいくつでも入れるから、年は関係ないだろう。
問題は実力だ。
「……」
少年は何も言わない。というか、何か言ってたら引くけどな。
驚いたことに、少年は片手で銃を構え、連射しまくっていた。乾いた銃声が一気に九発。俺は見えにくい的を目を凝らして確認した。
「……マジか」
俺は驚きのあまり、そう呟いて唖然とした。
的には、一発の穴しか空いていなかった。それも人型の的の頭のど真ん中に。普通に見れば、一発以外全て外したのだと思うだろう。だが、それは違う。こいつは全弾的のど真ん中に当てやがった。
それはこの狙撃訓練室にそれぞれ設置されている判定器――ジャッジスナイパー1号(ミナト命名)が大当たりだと軽快な音楽を大音量で流しまくっていることから、明白だった。
……我ながらウザい機械を作ったものだな。あのジジイ(理事長)がどうしても作れって言うから作ったんだが……改良が必要かもしれないな。
「――何の用っスか。ミナト先輩……とブラッキー先輩」
俺が少年の腕前に感心していると、そいつはめんどくさそうにしながら俺たちに視線を移していた。なんだよ、やっぱり気づいてたのか。
「やあ。久しぶりだね、ライちゃん」
「その呼び方はいい加減やめてくれないっスか」
少年……ライちゃん? はウザそうに眉間に皺を寄せながら、空になったハンドガンにまた弾を詰め込み始めた。相当慣れているのか、その作業はあっという間に終わった。
「……ミナト、紹介しろ。こいつはどうやら俺のことも少しは知っているようだが、俺はこいつのことは全く知らない」
俺がそう言うと、ライちゃん? は再び銃を構えようとしていた手を止め、俺を少し高い目線から見下ろした。
「俺は先輩のこと結構知ってますよ。情報部始まって以来の天才。IQ200の超人的な頭脳に加え、機械系にめっぽう強く、あの判定器を作ったのも先輩だとか。情報部所属のクセに戦闘能力も高いって聞いてますよ。
何よりスゴいのは、ハッキングの腕前だそうっスね。三カ月前に国連の情報管理局にサイバーテロを起こして完璧に屈服させ、しかも各国の首脳陣に土下座までさせたって話じゃないっスか。とんでもないっスね」
「……何でそこまで知ってんだよ」
一瞬寒気がしたぞ。そこまで細かく知ってるのはミナトとジジイぐらいだと思ってたのに……。
「あ、申し遅れました。俺は海軍Aクラスのライリ・ベルゲオンです。よろしくっス」
「……」
今、俺は聞き捨てならない単語を耳にした気がするぞ。
ライちゃん……もといライリは、軽くお辞儀してそう挨拶したが、俺の思考は完全に別のところにいってしまっていた。
「……まさかとは思うが……いや、もし間違っていたら全力で否定してくれ。お前はあのクソジジイの……」
「孫っスよ」
「……」
あのジジイ孫いたのかー!! あのジジイの孫ってことは性格は最悪のはずだ!!
「いや、そんなことはないよ? ライちゃんはかなりまともな子だし」
「……お前、いつの間に読心術なんて身に付けたんだ?」
「え、声に出てたけど」
「……」
どうやら俺は、ジジイのせいでまともな思考がストップしているらしい。ムカつくから後で殴りに行こう。
「そういえば、先輩たちは何でこんなとこに来たんスか? 俺をテロ対策クラスに入れてくれるんスか?」
「……お前は入りたいのか?」
「できることなら。海軍めんどいし」
……なぜ海軍に入った。大体、あれほどの銃の腕前をもっておきながら、何で海軍にいるんだよ。普通は陸軍だろ。
「ライちゃんは坊主頭になるのが嫌だったんだってさ」
「なんだよそれ。そんなに嫌なら理事長の孫の権限使えばいいじゃねえか」
「職権乱用っスよそれは」
お、すかさず突っ込みがきた。なんか、こう冷静に突っ込んでくれる奴って貴重だよな。
「よし、決めたぞ。ライリ、お前仲間になれ」
「……いいんスか?」
「ああ」
俺がそう肯定すると、ライリは嬉しそうに無邪気に笑った。
「嬉しいっス。俺、ブラッキー先輩に憧れてたんスよね」
「へ?」
「だって、スゴいじゃないっスか。まだたったの十五歳なのに、テロ対策クラスのリーダーに指名されるなんて、普通じゃないっスよ」
「そ、そうなのか?」
「そうっスよ。それに……」
ライリはそこまで言うと、一旦言葉を切ってニヤリと笑った。そして、こう言った。
「ケーキに釣られてテロリストを止めるなんて、平和なテロリストもいたもんっスね」
ライリの嘘偽りのないその言葉に俺は赤面して、おそらくチクった張本人であるジジイを呪った。
銃撃のプロにして突っ込み要員、ライリ・ベルゲオン獲得――。