テロ4 メンバーその4はホスト野郎
「赤ピクミ〇は~火に強い~、青ピクミ〇は~溺れない~、黄ピクミ〇は~高く跳ぶ~」
「……」
「……」
何だこいつ。
***
天才パイロット――シルバー・ウォーリアを第三のメンバーに加えた俺たちは、あの後シルバーと別れて特大イチゴパフェを完食して、陸軍の教室に向かった。
強い奴が多いに超したことはないと思っての行動だ。何でも、ミナト曰く陸軍にとんでもなく強い奴がいるとのこと。
「――たださあ、ものすごーく変人なんだよね……。ツッコミが追いつかないかもしれないよ」
「……それはある意味死活問題だな」
不安げにそう言ったミナトに、俺は適当に返した。
……あのミナトが不安になるような奴って……。
「あ、着いたよ。ここに"彼"がいるんだよ」
「……なあ、俺は初めて陸軍の教室に来たんだが……ここって訓練所じゃないのか?」
「そうだよ?」
ミナトはさも当然そうに応えた。
俺たちがたどり着いたのは、どういうわけか屋上の訓練所だった。……教室ではないな。
中……というか外? に出ると、坊主マッチョの集団がラジオ体操をしていた。
……やべえ、キモい。
『一、二、三、四、五、六、七、八!!』
生徒たちはひたすら大声でリズムをとりながら体操を続けていた。奴らの前頭で一際大声を出しているのは教官か? 俺とミナトは、生徒たちを無視してその教官に近づいた。
「おい、おっさん。あんたがここの教官か?」
「……は、はい!! ご用件は何でしょうか!!」
「……」
その教官は、俺が声をかけると同時に体操をやめ、その場でキリッと敬礼をした。驚いたのか、被っていたキャップがずれ落ち、ハゲがあらわになった。
……頭が眩しいな。
「俺はベルゲオン三世の勅命により、テロ対策クラスのリーダーを任せられた、情報部のアゲハ・フェザードだ。この陸軍Aクラスから一番強い奴を引き抜きたい。さっさとそいつを出せ」
「……は、強い奴……ですか……」
教官は暑いのか、ハゲ頭をタオルで拭きながらそう言った。なんだか嫌そうな顔をしている。
「……早く出せって言ってるんだが」
「いや、それはその……少々無理があるというか……」
「……ミナト、強い奴はどいつだ」
「一番奥にいる彼だよー。ほら、細身な」
なかなか答えようとしないハゲに痺れを切らした俺は、手っ取り早くミナトに聞いた。するとミナトは、半笑いしながら集団の後ろの方を指差した。そこにいた……というか"座って"いたのは――
「赤ピクミ〇は~火に強い~青ピクミ〇は~溺れない~黄ピクミ〇は~高く跳ぶ~」
「……」
「……」
懐かしの歌を歌う、ホストみたいなスーツ姿の金髪美形だった。
「……ミナト」
「……なんだい、アゲハちゃん」
「あれは何だ」
「あはっ」
「あはっじゃねえ!!」
俺は乾いた笑いを浮かべるミナトの胸ぐらを掴んで激しく振った。それでもミナトの表情は変わらなかった。
「――だから、彼が陸軍最強の戦闘狂にして軍隊格闘の達人、ゴールド・ウォーリアくんだよ」
「……まさかとは思うが、あいつはシルバーの……」
「双子の弟らしいよ」
「……」
俺はしばらく沈黙し、そのままいつまでもピクミ〇の歌を歌い続けるホスト野郎に向かって走りだした。そして、
「紫ピクミ〇力持ち~白ピクミ〇には……毒があぐふぉっ!!」
迷わずホスト野郎の腹にローキックをかました。もちろん手加減無しで。
奴はその衝撃でぶっ飛び、背後のフェンスにガシャーンと大きな音を響かせてその場にうつ伏せに倒れた。が、すぐに起き上がった。
「……何すんだてめえ!!」
「そりゃこっちの台詞だ!!」
上半身だけ起こし、そう怒鳴ったホスト野郎に、俺も負けじと怒鳴り返した。
「てめえのせいで、シルバーがどれだけ苦労してると思ってやがんだこのホスト野郎!!」
「……は?」
「あの才能溢れるシルバーが、お前を初めとした家族を養うために日夜バイトに励んでるってのに!! てめえは訓練もせずにピクミ〇歌ってんじゃねえ!!」
俺がそうマジギレしていると、ホスト野郎は目を白黒させ、呆然としていた。が、すぐに立ち上がると、何を思ったか俺に近づいてきた。そしてなぜか、俺の右手を掴んで恭しくお辞儀した。
……なぜだ。
「これはこれはとんだお転婆さんだな。せっかくこんなに可愛らしいのだから、もっとオシャレをして大人しくしたらいいんじゃないのかい? お嬢さん?」
「……お前、頭大丈夫なのか」
このホスト野郎、男をマジで口説いてるぞ。痛い、痛すぎるぞお前。
ホスト野郎は色は違えど、シルバーと同じくらいにサラサラで光を反射して輝く金髪だ。身長はシルバーより少し低いぐらいだから、百八十前後ってところだろう。すらりと細身で足の長いモデル体型が、真っ白なスーツによく似合っていてかっこいい。
……これで性格がこんなに軽くなければ完璧なのに……。残念過ぎる奴だ。
「念のために言っておくが、俺は男だ」
「……はあ? 何を言ってるんだお嬢さん。冗談も程々にしてほしいなあ」
ホスト野郎……いや、いい加減名前を呼んでやるか。ゴールドは俺の言葉を本気で冗談だと思っているらしく、楽しげに笑っていた。
……この野郎……マジでシメるぞおい。
「ゴーくん、そのへんで勘弁してあげてくれないかな?」
「……んだよ。ミナトか」
チッと舌打ちして、ゴールドは横槍を入れてきたミナトを睨んだ。ミナトはニッコリと笑っているように見えるが、残念なことに目が笑っていなかった。
……ゴーくんなんて呼んでるのかお前は。
「どうでもいいが、早く本題に入るぞ」
俺が不機嫌さを隠さずにそう言うと、ミナトとゴールドは睨み合うのをやめてこちらを向いた。
「ごめんねアゲハちゃん。やっぱり俺、ゴーくんを仲間に入れるのは反対だよ。今からでも遅くないから、別の人を探そう」
「……珍しいな。お前がそこまで誰かを嫌うなんて」
「嫌いなんじゃないよ。君に変な虫がつくのが嫌なだけ」
「……ふうん」
そういう口説き文句は女に言えよ。俺は男だぞ。
「……へえ。ミナトの親友ってのがこの可愛らしいお嬢さんか。お前、いい趣味してるじゃんか」
「うるさいなあ。言っとくけれど、俺はものすごく卑怯だよ。だから、いくら君が強いからって俺は負けたりしないよ」
「言ってくれるじゃねえか」
なぜこんなにも火花が飛び散っているのだろうか。俺を挟んで睨み合ってるんじゃねえ。
「ミナト、自分の言葉に責任を持て。お前がこの馬鹿を推薦したんだぞ。さっさとこいつを紹介しろ」
「仕方ないなあ」
ミナトは嫌々ながらも睨み合うのを止め、説明を始めた。
「えっと、彼はシーくんの双子の弟であり、陸軍Aクラス最強の戦闘狂、ゴールド・ウォーリアくんだよ。陸軍は基本皆坊主なんだけど、彼だけ特例で好きな格好をさせてもらってるみたい。
身長一七九センチ、体重七十キロ。特技は軍隊格闘とナンパ。趣味はピクミ〇と歌を歌うこと。ちなみに前回の学内総合試験では総合最下位という偉業をたっせ「ちょっと待て!!」何?」
俺は中盤まではミナトの長ったらしい説明を聞いていたのだが、後半部分で思わず制止した。
「おい、ゴールド。お前、マジで最下位だったのか?」
「ああ、あれか。全く分からなかったんだよなあ。シルバーも一応教えてくれたんだけど」
「こいつ本物の馬鹿だ!!」
あのシルバーに教えてもらっておきながら、その成績は一体何なんだ!!
俺は自分よりもずっと目線が高いゴールドを見上げて睨み付けた。ゴールドは少し驚いた様子だったが、すぐにまた笑った。
「……ゴールド」
「何だい? お嬢さん?」
「……お前、俺のクラスに入れ。その馬鹿な頭を叩き直してやる」
「うわ、アゲハちゃんマジだ」
ミナトはやれやれと言わんばかりに溜め息をついたが、俺はそれを無視してゴールドを睨み続けた。
するとゴールドは何を思ったか、俺たち3人を遠巻きに見つめていた陸軍の奴らとハゲ教官に向けて笑いながら手を振り、こう言った。
「俺、このお嬢さんに誘われたから、陸軍辞めるわ」
……気持ちがいいぐらいに笑顔だな、お前。
「あ、ところでお嬢さん、まだ君のクラスを聞いてなかったんだけど?」
「そういえばそうだな」
ゴールドの問いかけに、俺は納得して頷いた。そして質問に答えた。
「テロ対策クラスだよ」
陸軍Aクラス最強にして戦闘狂、ゴールド・ウォーリア獲得――
「……あれ、ピクミ〇は一体何の意味があったんだ?」
「え、かわいいし面白いじゃん」