テロ2 メンバーその2は爆弾魔
俺は情報収集のスペシャリスト――ミナト・ウォルフォームをメンバーに加えた。そして今は、ミナトと共に第二のメンバーを探している真っ最中だ。
「アゲハちゃんはさあ、どんな子が欲しいの?」
「……そうだな……。テロ対策に必要なのは、情報、頭脳、交渉力、戦闘能力……あと、爆弾処理とかだろ」
「爆弾処理!」
ミナトはなぜか嬉しそうな表情でそう言った。この様子から、何か心当たりがあるようだ。
「友達の少ないアゲハちゃんのために、俺がいい子を紹介してあげよう!」
「友達が少ないは余計だ!!」
俺はそう怒鳴ったが、ミナトは笑いながらスルーした。……この野郎、いつか絶対泣かせてやる!!
「――はい、着いたよ」
いつの間にか、ミナトの目的の場所に着いていたらしい。真っ白の自動扉には、"科学開発室"と明記されていた。
「科学部の奴が候補なのか?」
「そのとーり! きっと気に入るよ!」
そうテンション高めに答えると、ミナトは軽く三回ノックして開閉ボタンを押した。と同時に扉が開き、ミナトが躊躇うことなく入ったので、俺もそれに続いた。
中に入ってすぐに目に入ったのは、これまた真っ白な机に大量に置かれている、スルメイカだった。
……ん? スルメイカだと? ここにいるのはオヤジなのか?
俺は不思議に思いながらも、おそらくはこの大量のスルメイカの持ち主であろう人物を探した。キョロキョロと辺りを見渡してみたが、何やらわけのわからない機械の一部や電線などが床に転がっているだけで、人は全く見当たらなかった。
「ロゼッタちゃーん、今日はどこに隠れているんだい?」
「隠れてないのだ!!」
あ。足下にいた。
ミナトのウザい呼びかけに憤慨した様子で応じたのは、小さな可愛らしい美少女だった。
腰ぐらいまである雪のように真っ白なふわふわヘアーに、同じく白い肌。瞳の色は赤で、まるで白ウサギのようだ。真っ黒なゴスロリドレスを着ていて、それがいい具合に髪と肌の白とのコントラストを演出している。
……だが、ひとつだけ言っておきたいことがある。こいつは……
「幼児じゃねえか!!」
「誰が幼児か!! この女顔め!!」
「うるせえ!! それを言うんじゃねえ!!」
身長百六十センチの俺の腰に辛うじて頭が届くぐらいの位置から、その美少女は頬をめいいっぱい膨らませて怒鳴った。ていうか、こいつ何気に俺の禁句を口にしやがったぞ。
「アゲハちゃん、この子、一応俺たちと同じ十五歳だよ?」
「はあ!? どうせつくならもっとマシな嘘つけよ」
「嘘じゃないのだー!! このロン毛め!!」
「一言多いんだよこの小娘め!!」
確かに俺は男の割には髪は長いけどな、いちいちそんなこと指摘されるまでもねーよ!!
「まあまあ、二人とも落ち着いてよ。アゲハちゃん、さっさと本題に入ろうか」
「……まさかとは思うが、爆弾処理ができる奴っていうのはこいつのことじゃねえだろうな?」
「そのまさかだよ」
疑わしげな目を向けた俺に、ミナトは妙に得意気に笑って見せ、両手でこの小娘を持ち上げた。
「この子が俺のお薦め! 科学部所属にして、天才爆弾魔のロゼッタ・ストームちゃんだよ!!」
「……意味が分からないのだ」
小娘……もといロゼッタは、不機嫌そうに頬を膨らませながら足をぶらぶらと振っていた。
「……俺が欲しいのは爆弾処理の専門家であって、爆弾魔ではない。そもそも、こいつは本当に使えるのか?」
「む! 嘗めるなこの女顔め!!」
「女顔言うな!!」
俺は再度怒鳴ったが、ロゼッタはそれを無視してミナトの手から脱け出し、床に無事着陸した。そして意味不明な機械類が置いてある机に向かうと、何やら灰色の箱のような物を突きつけてきた。
「……何だよこれ」
「君は、つい先日起こった爆弾テロを知っているかね?」
「? ああ、結局未遂で終わったって聞いたがな。確か、謎の美少女が突然現れてチャッチャと爆弾処理をして去って行ったとか……って、ん? 謎の美少女?」
待て待て待て。まさかとは思うが、その謎の美少女っていうのは……!?
「その謎の美少女は私なのだ!」
「自分で美少女なんて言うな!!」
ロゼッタは、無い胸を精一杯張ってふんぞり返った。うぜえな。
「ところでロゼッタちゃん。この箱みたいな物は一体何なのかな?」
「見て分からないのかね。私が処理した件の爆弾なのだ。かなり改良してあるが」
「改良って何だよ!?」
俺がそう突っ込むと、ロゼッタは箱を開けて中身を見せてきた。中には、意味不明な色とりどりの電線と数字が点滅中のタイマー、そしてダイナマイトが三つ繋げられていた。
……タイマー、動いてないか?
「ニトログリセリンの量を十倍にしたのだ。因みにあと五分で爆発するのだ」
「ふざけんじゃねえぞこの野郎!!」
馬鹿か? こいつは本物の馬鹿なのか? それとも自殺志願者なのか?
「心配するななのだ。これは練習なのだ」
「練習?」
妖しい笑みを浮かべながらそう言うロゼッタに、ミナトは首を傾げた。
……お前ら、妙に冷静だな。
「私は毎日色々な種類の爆弾を自作し、制限時間を五分に設定して処理の練習をしているのだ。今日のこの爆弾はいつも以上にスペシャルに、この学園全てが吹き飛ぶぐらいの威力なのだ!!」
「最悪じゃねえか!!」
もしもそれが爆発しちまったら……!
「ジジイからケーキ貰えなくなるだろうが!!」
「あれ、心配するとこそこなんだ」
ミナトはそう言って苦笑したが、そんなことはどうでも良かった。問題は俺のケーキ!!
「……君、爆弾処理の専門家が欲しいと言っていたな」
「ああそうだよ。それがどうした」
そんなことより、早く爆弾処理しろよ。
「この私が君の仲間になってやろう。ただし、」
ロゼッタはそこまで言うと、爆弾を乱暴に机に置き、スルメイカを手に取った。そしてこう言った。
「一生分のスルメイカと取引なのだ!!」
「……」
「……」
俺とミナトは、互いに顔を見合わせて、絶句した。ほんの数秒の間、痛すぎる沈黙が続いたが、俺はやっとのことで口を開いた。
「……じゃあ、さっさとそれ始末しろよ」
爆発物処理のスペシャリストにして天才爆弾美少女、ロゼッタ・ストーム獲得――。