テロ1 メンバーその1は愉快犯
「最強のテロ対策クラスを作ってくれたまえ」
俺はあのクソジジイ……ベルゲオン三世の頼みに、ケーキと引き換えという条件を付けて頷いた。ゆえに今の俺は、ジジイの学園……リードネット学園の廊下をひたすら歩いていた。
この学園は、軍事国家クロマーニュがより優秀な軍人を育て上げるために創設した特殊な学校だ。クラスは大きく分けて五つある。陸軍、海軍、空軍、情報部、科学部の五つだ。
これらの中で最も優遇されているのが陸軍なわけなのだが、今現在ではその地位が揺らぎ始めているとのこと。
その原因は、この俺であった。
「失礼するぞ」
俺はある部屋の前で立ち止まると、ノックもそこそこに開閉ボタンを押して、自動扉を開けた。するとなぜか、
「うおおおっ!?」
書類の山が崩れ落ちてきた。それはもう、ドサドサーッと気持ちがいいぐらいに。
俺は逃げることもできずに、雪崩れこんできた書類に埋もれてしまった。最悪だ。
「あれ、その声はアゲハちゃんかな~?」
「……っ!! ミナト!!」
書類に埋もれて身動きができないでいる俺の頭上から、ムカつく声が聴こえてきた。俺がなんとか上半身を起こすと、そこには情報部の黒のブレザーを着た無駄美形――ミナト・ウォルフォームがいた。
ミナトは俺と同じ情報部の生徒だ。それでいて幼馴染み兼親友。深い緑色の短髪に黒の瞳。耳には星のピアス。スラリとした長身モデル体型で、チャラいがかなりの美形だ。ムカつくぐらいに。
そんなミナトは、書類に埋もれたままの俺を見てひとしきり笑った後、やっと俺を助け起こしてくれた。
「アゲハちゃんも本っ当に学習能力がないよねえ。いっつもこうやって引っ掛かる」
「う、うるさいこのバカ! ちゃん付けするな!」
「あれ、怒るとこそこなんだ」
ミナトは肩をすくめると、散らばっている大量の書類をかき集め始めた。
俺もなんとなく手伝って片付けること約五分。ミナトはかき集めた書類を特大シュレッダーにかけて処分してしまった。
「おい、処分してもいいのかよそれ」
「うん。全部目を通し終わってたし、アゲハちゃんに仕掛けるために持ってたようなものだから」
「てめえふざけんなよ」
俺はそう言いながらも、やっとキレイに片付いたこの"特殊情報室"を見渡した。
この部屋は、ほとんどミナト一人が貸しきっている情報室のひとつだ。そんなに広い部屋ではないが、ソファーやテーブル、テレビ、冷蔵庫などが揃っている。
特筆すべき特徴は、壁一面に敷き詰められた画面だ。学園内のあらゆる場所に設置されている監視カメラの映像がここに映し出されている。
なぜこんな重要な部屋をミナトが貸しきっているのか。それは、ミナトも俺と同じサイバーテロリストであり、この学園の裏の権力者だからだ。
「ところでアゲハちゃん、今日は一体どうしたんだい? なんだか妙にテンションが高いような気がするけど」
ミナトはニコニコしながら俺にそう聞いた。こいつはおそらく、分かっていて聞いている。この学園内で、ミナトが知らないことなどあるはずがない。
「ジジイがテロ対策クラスを作れって言うんだよ」
俺がそう答えると、ミナトはなぜか嬉しそうに瞳を輝かせた。
「だから俺のとこに来たんだ」
ミナトは本当に愉快そうに笑う。こいつの笑みには確実に裏がある。こいつは味方につければ最強だが、敵に回すと最悪な存在になる。
だからこそ、早めにこいつを味方にしなければならないのだ。
「……ミナト・ウォルフォーム、貴公に命じる」
俺は努めて無表情に、かつ真剣な表情を作って言った。ミナトもやっとふざけた表情をやめ、真剣な目になった。
「この俺、アゲハ・フェザードのテロ対策クラス――"S"クラスへの転科を要請する。返事は?」
「仰せのままに――リーダー」
ミナトは恭しくお辞儀をした。
情報収集のスペシャリストにして裏の権力者、ミナト・ウォルフォーム獲得――。