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王道的始まり


「人って言うのは何と言うか、羨ましいもんだな、おい」


眼下の光景を城壁より見て呟いた言葉を横にいる魔王軍のナンバー2が拾う。


「それは謀反とみなすぞ、ディアクタ・・・」


銀髪に紅い瞳、(人間的に)美しい顔立ちだが無表情すぎて全く愛想がない魔王軍のナンバー2。


「そりゃないっしょー、ソリア様ー、てかどうしてそんなに落ち着いてられるんですか?10万ですよ、10万・・・ヤバくね?こっち1万も居ないですよ?」


眼下に広がる灰色の蠢く人間たち、歩く音がまるで地鳴りのように聞こえる。


「ふん、魔族の恥さらしが、魔族としての誇りが足らん」


「いやー、あれ見ると誇りとかどうでもよくなって逃げ出したくなりますわー」


十数年前、勇者が生まれ、そこから始まった我ら魔族の敗走劇。


あー、ありえね・・・マジありえね。


「はっ、逃げどきを誤ったなディアクタ」


どうしてこの魔族は馬鹿にするときだけいい笑顔なんだろうな。


「ソリア様もなー」


やってられなくなって人間の作り出した叡智とも言っていい煙草を取り出して吸おうとすると、ソリア様に掠め取られた。


「私はもとより魔王様と最後まで命が尽きるまで戦うつもりだ」


ニギニギと煙草を手で握りしめて、次にその手を開くとタバコの代わりに灰がこぼれ落ちた。


俺のタバコ・・・。


「でたよこの戦闘狂・・・はぁ・・・俺なんでこんな生物に生まれてきたんだろ・・・」


魔王軍の中にもチラホラ逃げ出した兵士が出てきている。

確かに逃げ出したくもなるよな・・・コレ。


「ソリア様は玉座の間で?」


「ああ、手前の足止めは頼んだぞ」


「任された・・・痛いのは嫌だけど」


「くくっ、諦めろ」


「諦めまーす・・・」

















石畳に俺の靴の音が響いていく、ここは魔王城の地下牢である、殆ど役に立ったことはないが。


「やぁ聖女様、お元気?」


一番奥の牢屋にひとつだけ使われている牢屋があった、数年前俺が勇者一行から奪取してきた人間、人間たちの旗印のようなもの、まあ代理人が出来てからもう存在としての価値はほとんどないが。


「・・・・・・」


両手を鎖につながれて首には魔力封じの首輪を付けられた聖女様がこちらを睨んでいる。


「嫌だなぁ、そんなに睨まないでくださいよ・・・」


黄金のような金の髪に深い青色の瞳、切れ目で少し怖い顔がこちらを睨んでくるのでさらに怖い。


「聞こえますか?この音、あなたの勇者様が迎えに来た音ですよ、よかったですね?」


「ええ、あなたがこれから死ぬと思うとすっきりするわ・・・本当に」


すっきりとした笑顔が似合う聖女様、ああひどい。


「ひっどいなぁ、俺も好きでやったんじゃないんですよー、やらなきゃ魔王様に殺されちゃうんですよー」


「どうだか・・・私がここから出たら魔族なんて根絶やしにしてやる・・・耳長エルフも鉄くさい小人ドワーフも獣人も全員殺してやる」


「どーぞ、ご勝手に、寧ろやってほしいですわー、あいつら人間の味方になっちゃってるし・・・はぁ、萎える・・・」


「・・・・・・何しにきたの?」


「上司に勇者の仲間の足止めを頼まれましてね・・・あなたの御髪を少しばかり貰おうかと」


「下衆が・・・」


「ひどくね、なんかひどくね?」


なんで下衆呼ばわりされなきゃいけないの?鬼なの?鬼畜なの?


「まあこれでお前と話すのが最後だと思えばせいせいするし、勝手にするがいい、後飯はもういらんぞお前らのまっずい飯を食うのはもういやだ」


「はいはい、じゃあ失礼しますよっと」


聖女の髪の毛を少しだけ頂戴する、握れるぐらいだよ?それだけだよ?


「それじゃこれで、さようならですね、サラダバー」


「死ねカスが」


「・・・・・・」


最後までこの口調だったな、この聖女・・・勇者ってドMだったのだろうか・・・。


ゆっくりと歩いていると聖女が声をかけてきた。


「ミーシャだ」


「?」


「私の名前だ、冥土の土産に持っていけ・・・」


それってただのツンデレにしか見えないんだけど・・・どういえばいいのかわからなくなり頬を指で掻く。


「な、なんだその目は?」


「いや、別に・・・可愛いところあるんだなぁと」


「で・・・・・・」


「で?」


「出てけええええええ!シネ!二度とその顔を見せるな!」


「はいはい・・・」


















魔王様が居られる玉座の間に行くには三つの広間を通らなければならない、俺はそのうちの一番目の部屋で足止めをしなければならないらしい・・・どうしてか?そりゃあ魔王軍の四天王の中で一番弱いからですよ。

魔族学校で成績は中の下、ルックスは下の下―ただし魔族視点から―、魔力上の下。

はい、そうです、親の七光りなんです、実はそこまで強くないんです、しかも馬鹿なんです、先生僕頭が悪いです!


同期のソリア様なんて幼少期から紅き殲滅者とか訳の分からないやばげな名前を付けられて何というかもう、あれですよ・・・泣けてくるね。

落ち着く部屋の隅で煙草を吸う、後四本しかない・・・これ吸ってたら他の魔族に馬鹿にされたなぁ。


下級兵士にも馬鹿にされるし・・・あ゛ー憂鬱だー。

死にたくないなーあー死にたくない。

光魔法とかじわじわといたぶられる痛みがマジ痛い。

風魔法しか使えない俺まじバロス、なんで他の四天王全部使えんだよ、ありえねえだろ。


重苦しい音と共に扉が開き始める、きょわーお、マジ勘弁。

いつの間にか三本の吸殻が地面に落ちていた、それを靴ですり潰して、広間の真ん中に進む。


「やぁ久しぶりだね勇者殿、後その他、新聖女様は初めましてかな?」


「ディアクタ、ミーシャの仇っ!」


勇者の剣が頭を掠る、怖っ!マジ怖い!マジやばい!死ぬ!死ぬって!

慌てて聖女の髪の毛を見せる。


「これが見えるかな?勇者殿?」


「ミーシャの、髪の毛か・・・?」


「その通り、聖女様の、おっともう唯のミーシャだったかな?ミーシャの居場所を教えてやろうか?」


必要のなくなった髪の毛を捨てる、怖い怖い、殺気がヤバイ、俺の命がマッハでやばい。


「・・・どこだ?」


「俺も魔王様に命令されちゃってねぇ、聖女様とかあとその他の仲間とかには口を滑らせちゃうかもなー、あー、勇者殿だけはこの先に進めるんだけどなぁー」


勇者以外は足止めしとくよ、うん、それくらいしかできなさそうだよ俺。


「・・・・・・分かった、俺だけ先にいけばいいんだな?」


物分りのいい勇者で助かる、まじで。


「勇者様!?」


後ろで聖女含め数人が喚いているが、勇者の考えは変わらないようだ。


「本当に生きてるんだろうな?」


「当然当然、当たり前、さっきも暴言を吐かれてきましたよ」


「・・・よかった・・・ミーシャ・・・」


安堵の表情を浮かべる勇者、どうでもいいから早く行ってくれないかな。


「しかし勇者様、お一人では・・・」


「大丈夫だ、それよりも後は頼んだぞ?」


「・・・・・・分かりました」


あーでもなー、勇者一人消えてもこの戦力は変わりようないよな。

一撃か一撃じゃないかの違いだよなぁ、これ。


俺の横を素通りしていった勇者は次の扉に手を掛けた、次の四天王はノルマンデス様かぁ・・・大丈夫だろ、多分!

扉がしまって、ここには俺と勇者のいない勇者一行だけとなった。


「聖女様はどこへおられるんですか?」


新聖女様が俺に問いかける、その顔をよく見ると。


「んー、よく見たら君、ミーシャちゃんとよく似てるねぇ、妹かなんか?姉妹揃って可愛いね」


等とふざけたことを言ってると、勇者の右腕の女剣士が剣を抜いて俺に最終通告をした。


「貴様、さっさと答えろ」


「あー怖い、地下牢だよ、地下牢、早く人間の飯が食べたいって言ってたから早く行ったほうがいいんじゃないか?」


ケラケラと答えるとそのまま用は済んだとばかりに剣を振られる。

また髪の毛がバッサリと逝ってしまった。


「おわっち、あぶないなぁ」


「用が済んだら貴様はもういらん!」


「なにそれ外道!」


他の人間も魔法や矢を放ってくる、もうやだこの外道。


「あー嫌だ嫌だ、人間てぇやつは・・・友情努力勝利ってか?強すぎだろお前等・・・」


このままだと俺ハゲになる・・・どうしようハゲになってから死んだら。


「お前は今まで戦ってきた魔族の中でも一段と弱いなっ!卑怯な手段ばかり使う卑怯者め!」


心にずきっとくることを言ってくれるよ本当に、マジ泣ける。

逃げるだけで精一杯である、転がったりジャンプしたりおおよそ全魔族の恥さらしのような格好でよけまくる俺、そんな俺を勇者一行は哀れみの目で見る。


「あー泣きそう、いいんだよ死なないからさぁ、いいじゃん時間稼ぎしろって言われただけなんだからさぁ・・・」


「何をっ!ブツブツ!言っている!」


だんだん早くなってきた攻撃を紙一重で避けながら腕時計をチラチラ見て、何分経ったか数える。


「いやぁ、三十分しか経ってないのが悲しくて・・・せめてあと十分くらいは粘りたいんですけど、もー限界」


ついに女剣士の剣が俺の体を捉え、ついでとばかりに幾つかの魔法と矢に打ち付けられ、壁に叩きつけられる。


「あ゛ー、いってぇ・・・まじいてえ・・・目が霞む」


確認する手間も惜しいのか勇者一行は直ぐに門の先に行く、あーダメだ、もう死にそう。


誰もいなくなった部屋で自分の流した血の池に横たわる経験があるなんてびっくりだ、部屋が薄暗くてよかった、明るかったら何か色々と見えちゃうもんな・・・そう思いながらボロボロになったコートの内ポケットから最後の煙草を取り出す。


「・・・・・・・・・あの糞女め」


取り出したタバコは横にすっぱりと切られて、もう吸えそうになかった。


「あー最悪だこんな終わり方・・・」


愛しの煙草ちゃんの亡骸を血の池に捨てて、暗い天井を仰ぐ。


体、冷えてきた・・・。


俺が覚えているのはそこまでだった。


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