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「幸せ」  作者: 佐西ペコ
2/2

初対面


 4月。

 今日に相応しい8分咲きの桜が、祝福するように風に揺れている。



 「あった。……4組か」



 4枚目の名簿表で上から6番目に自分の名前を見つけた。つまり、4組ということだ。



 「では、教室で待機していてくださいね。

 時間になったら担任の先生がいらっしゃいますから」



 校門から少し歩いた所にある受付の生徒(生徒会とかだろうたぶん)に言われ、茶色の階段を登る。

 この学校は2階に下駄箱がある。


 4組の下駄箱集団から“6”と書かれた場所を見つけ、新しいリュックから出したスリッパに履き換えた。この学年は赤茶色だ。


 これから3年間履くであろうスリッパの履き心地を確かめながら、階上へと歩く。


 1年生は最上階である4階に教室が集まっていて、2年生は3階、3年生は2階と徐々に降りる仕組みだ。


 ひんやりした空気が漂う階段を登りきると、左右には富士山が見えるという屋上が広がっている。

 出入りは自由なので、ぜひ行きたい。


 教室は西に4つ、中央に教科室と多目的室を挟み、東に4つある。

 要するに1学年に8クラス。


 最上階から見える遠くの景色を眺めながら教科室で左へ折れると、すぐに自分の教室があった。


 少し緊張しながらドアを左へスライドさせて中に入るが、集合時間に大分早いためか誰もいなかった。


 取りあえず安堵し、黒板に目を向けると


 『ようこそ北山野高校へ。入学おめでとうございます!』


 と白いチョークで書かれたものと、席順が印刷された紙が貼ってあった。


 「んー……。1番右の1番後ろだ」


 “お”の名前にしては珍しい場所だなあと思いつつ席につく。前を向いてもほぼ教室全体を見渡せるので、最後列は嫌いではない。

 ただ、プリント回収は面倒極まりない。特に入学直後は回収物が多いし。


 さてこれから何をして担任が来るまでの約40分間過ごそうかと考えていると、教室前方のドアがゆっくり開いた。その隙間から、大人しそうな男子の顔が出てきた。明らかに新入生である。


 目が合うと、彼は人がいたことにびっくりしたようで


 「あっ、どうも……えっと、おはようございます」


 何故か敬語だった。


 「お、おはよう……」


 変わったやつだ。同年齢なのに敬語なんて。


 その男子が教室へ入り暫く黒板をじっと見たあと、くるっと体をこちらに向けた。


「お、大森くんですか?」


少しぎこちない笑顔でそう聞いてきた。


「あ、うん。」


「ぼく、長田誠(ながたまこと)です。1年間、よろしくお願いします。」


 「こちらこそ……」


 長田と名乗った彼は、挨拶が出来たことに安心したような顔で自分の席へ歩きはじめ、ちょうど剣人の3つ隣の席に座った。

 そのまま椅子を引く音と机に荷物を置く音が続き、静かになった。



 カチ、カチ、カチ、カチ、



 今までこんなに秒針がうるさく感じたことはないだろう。

 初対面なうえ、相手がものすごく緊張しているのがよく分かる。


 いつまでこの沈黙……なんだかこの状況に笑いそうになって、必死に我慢する。


 「あのっ」


 と、彼が話しかけてきた。笑っちゃいけないゲーム終了。



 「ふっ、ふふふ……あははは!」


 いきなり笑い出した剣人に慌てて、その顔がおもしろくて余計に笑ってしまう。

 どんな人がいるのか、登校初日だから自覚はなくても緊張していたのかもしれない。その糸が切れたようだった。

 

 「ごめん、沈黙が長くて笑うの我慢してた」


 素直にそう謝ると、一瞬ぽかんとして、でもすぐニッコリ笑って


 「なんだ、ぼく変なことやらかしたのかと思った!」


 

 それから少し話をした。

 中学はどこだとか、兄弟はいるかとか、初めて会う人に聞く典型的なものだけれど、距離が縮まったような気がした。


 「大森くんとはうまく付き合っていけそうだなあ」

 「おれもそう思うよ。」

 「……あのさ」


 笑顔から一転真剣な顔になったので、何だと思ったら



 「け、剣人って呼んでいいかな?」

 「……は?」

 

 え、そんな真面目な顔して言う事か?


 「え、え、だだダメだった? ごめんなさい!」


 即座に否定するのが面白くて、また笑い出してしまった。



 「よろしく、誠」


 誠の顔がパッと輝いた瞬間だった。


 

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