病室で
ああ。
死ぬんだな、ぼくは。
朦朧とする意識の中、誠はそう思った。
嫌でもなく、怖くもなく、ただ事実を受け止めただけだった。
目が覚めた時から、今日が自分の命日になるんだと、そう直感的に感じたから、覚悟はできていた。
だって。
雨が降っているから。
病室の中にいても、危篤状態になりかけていても、雨の音が聞こえてしまうほどの悪天候。
――いつもそうだった。
生まれた日も雨、心臓に欠陥があると分かった日も雨、酷い喘息で倒れた日も、高熱による呼吸困難になった日も……。
辛い日は、必ずと言っていいほど雨だった。前日も翌日も快晴なのに、その日だけ。
だから、雨は大嫌いだった。自分が苦しい上に、家族の笑顔までをも奪ってしまったから。
でも、今となっては過去形だ。
天候が優れない日はいつも以上に体調に気をつけることができたし、ましてや自分の死期まで分かるなんて、なんて親切なんだろう。
何も怖くない、恐れることはない。
死んだらそれで終わりなのだから。
もう、タイムリミットは近い。
徐々に遠くなる音や声を聞くと、あの人の顔が浮かんでくる。
剣人、もう一度だけ、君に会いたかったな。もう無理かな。
『今出来ることをやれば、どんなことだって未来へ通じるんだよ』
今のぼくに出来ること――。
そばで見送ってくれる家族へ。
最後の力を振り絞って。
「ありがとう……」