それは約束の指切りです
――白い建物の、白いその部屋で、少女の泣き叫ぶ声が聞こえる。
「やだっ、やだよ、だって恐いもん! なんで私だけこんな恐い目にあわないといけないのよっ!」
少女の名前は大和ナデシコ。少女はとある難病に体を冒されており、早急に手術をしないと命に関わる。幸いな事に症状はまだ初期段階であり、手術をすれば助かる可能性は今ならまだ高いと言えるのだ。
少女の両親と、医師の説得もむなしく、その場の話し合いはお流れとなる。あまり泣き叫ばせて、体力を消耗させるのは良くないと判断された為だ。落ちついた時に再び説得しよう、その時はそれで終わった。
「……っすん。何で私だけが……」
白い扉を開けて、一人の少年が部屋に入ってくる。
「ナデシコ……泣いてるの?」
「義兄さん!? ううん、泣いてなんかない……!」
ナデシコは自分の顔を、布団に埋もれさせ顔を見えないようにする。
「……ふぅ。辛いかもしれないけど、でも手術は受けないと……」
「だって恐いんだもん……」
「それはわかるよ、でも受けないと死んじゃうかもしれないんだよ」
「わかってないよっ、義兄さんは。手術を受ける人の気持ちなんて……あっ、ごめんなさい、そんなつもりじゃ……」
少年は気にもしてないといったように、ニッコリと微笑む。
「大丈夫、僕は全然ヘッチャラさ。……でも、僕にも何かナデシコにしてあげられたら良いんだけど、何か勇気があげられるような」
少年はその、いかにもおとなしそうな顔つきで、天井を見上げ必至に考えている。
「じゃあ優勝……」
「優勝? 何に?」
「あのリトルウォーズっていう大会。義兄さんも去年、出場したんでしょ? 私にも内緒でユウラさんと、ゴウさんと一緒に」
「うっ……一体誰からそれを!?」
少年は痛いところをつっこまれたという風に、苦笑いを浮かべる。
「義兄さんが、その大会に優勝できたんなら、私も手術受ける。なんでも野蛮な大会って聞いたよ。そんな恐い人達が参加する大会で、兄さんが優勝できたら私もがんばって受ける、どう?」
「どうって……優勝は、無理じゃないかなぁ」
「じゃあ私も手術受けないもん」
「……わかったよ。もしも僕が優勝したらナデシコも手術を受ける。約束だよ、ナデシコ」
少年はナデシコに小指を突き立てている。その小指にナデシコも自分の指を絡ませる。
「うん、約束。義兄さんが優勝したら私も手術を受ける。ゆびきった!」
少年とナデシコは、約束をする。少年はリトルウォーズ優勝を、ナデシコは優勝した後、手術を受ける事を。
――もう一つの物語が静かに幕を開けていた。