追放
追放された最弱召喚士、実は『神々の遺産』を継ぐ唯一の存在だった
~封印されし最古のスキルで無双ダンジョン攻略~
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第一章 追放
「お前は今日でクビだ。荷物をまとめて出て行け」
低く響くその声に、俺は思わず耳を疑った。
ギルドマスターのドワーフ、ガルム・アイアンハンマー。筋骨隆々の体に、顔の右半分を覆う古傷。その無骨な風貌からは想像もつかないほど緻密な采配で、この商業都市『ルクスリア』の冒険者ギルドを三十年以上にわたって支えてきた男だ。普段は温厚で、下っ端冒険者にも分け隔てなく接してくれる――そんな印象があっただけに、今の冷たい口調に戸惑いを隠せない。
「……は?」と、俺は間抜けな声を漏らした。「クビって、どういうことですか?」
ギルドの応接室。重厚な執務机を挟んで、ガルムと俺が向かい合っている。窓から差し込む夕日が、部屋に長い影を落としていた。いつもなら「今日の依頼ご苦労さん」と声をかけてくる時間帯だというのに、その雰囲気は明らかにいつもと違う。
「言葉通りの意味だ。お前は今日をもって、このギルドから除名する」
「ま、待ってください! 僕、確かにランクは低いですけど、今日もちゃんと依頼を達成してきましたし、ここ一ヶ月で失敗した依頼なんて一件もありません。それに、次回のランク昇格試験も間近で――」
「ランク昇格? 笑わせるなよ」
執務机の隣のソファから、鋭い女の声が遮った。
そこにだらりと腰掛けていたのは、Sランクパーティ『紅蓮の刃』のリーダー、レイナ・クリムゾンだった。燃えるような赤い長髪に、琥珀色の瞳。細身ながらも鍛え上げられた体躯は、数多の修羅場をくぐってきた証だ。彼女が率いる『紅蓮の刃』は、このルクスリアで最強と呼ばれる五人組で、ギルドの看板とも言える存在。
ただ、その実力とは裏腹に、レイナの性格は――こう言ってはなんだが――かなりキツい。特に、弱い者に対しては容赦がない。
「あんたの召喚する雑魚スライムじゃ、Aランクの依頼なんて足手まといなんだよ」とレイナは吐き捨てるように言った。「この一ヶ月で何度ピンチになったと思ってる? 先週のオーク討伐だって、あんたのせいで時間稼ぎに失敗してボロボロになったじゃない」
「あれは……確かに僕のスライムではオークの将軍を食い止めきれませんでした。でも、そのおかげで罠の位置を全部特定できたんです。もしスライムが先に罠を探知していなければ、パーティ全体が落とし穴に落ちて――」
「だから何だってんだ?」
今度は、ソファのもう片方に座っていた男が口を開いた。弓使いのカルロス・ウィンドフェザー。銀髪をオールバックに撫でつけた、一見すると貴族のような風貌の男だが、その実、裏路地育ちの生き残り。計算高く、損得でしか物事を判断しないことで有名だった。
「罠探知? アイテム運搬? 囮?」カルロスは指を一本一本折りながら言う。「そんなの、使い魔がいなくてもできることだ。お前をパーティに入れてるのは、単なる同情と……まあ、雑用係としてだ。勘違いするな」
「カ、カルロス……」
「レイナもそう思ってただろ? 実際、こいつが入ってからパーティの戦闘効率が落ちた。Sランク昇格のチャンスを三回も逃したのは、こいつのせいだ」
レイナは無言だった。それが答えだった。
俺は唇を噛んだ。
確かに、俺の召喚術は『劣等』と評価されていた。大抵の召喚士は、契約を結んだ強力な魔物を従える。ドラゴン、グリフォン、フェンリル――そんな伝説級の使い魔を操る召喚士たちが、この世界にはゴロゴロいる。最上位になれば、古龍や聖霊すらも従えるという。
しかし、俺が呼べるのはたかがスライムだけ。しかも、通常のスライムよりもさらに小柄で、攻撃力も防御力も最低ランク。戦闘なんて夢のまた夢。パーティ内での役割は文字通りの『雑用』だった。
それでも、俺なりに頑張ってきたつもりだ。
スライムの体液には微弱な治癒効果があることを見つけて、ポーション代わりに使えるように改良した。粘着性のある体を利用して、罠の起動部分を塞ぐ簡易的なトラップも開発した。分裂する特性を活かして、広範囲の索敵も可能にした。
どれも、地味で泥臭い。派手さはない。でも、確実にパーティの役に立てていたはずなのに……
「お前のせいで俺たちの評価まで下がるんだよ」とカルロスが仕上げた。「過去の実績があるからまだいいものの、もう限界だ。さっさと消えろ」
ガルムが重々しい口調で言い添える。
「レイナたちの言い分も一理ある。我々としても、ギルドの看板パーティの戦力を考えれば……やむを得ない判断だ。すまないが、これはもう決まったことだ」
机の上に、紙が一枚置かれた。『除名通知書』――すでにギルドマスターの印が押されている。
つまり、最初から話し合う余地はなかったということだ。
「……わかりました」
これ以上居座っても、時間の無駄だろう。俺は立ち上がり、その紙を受け取った。
「お前なら、また別の道がある。例えば商業ギルドの荷運びとか――」
「結構です」
ガルムの言葉を遮って、俺はドアへと向かった。
振り返らずに言う。
「お世話になりました。お元気で」
最後に聞こえたのは、レイナの小さな鼻で笑う声と、カルロスの「やっと片付いた」という呟きだった。
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ギルドを出ると、夕暮れの街が広がっていた。
ルクスリアは、大陸有数の商業都市だ。広場には露店が並び、どこからかバードの軽快な音楽が聞こえてくる。川沿いの石畳は、夕日に照らされて黄金色に輝いている。子供たちが笑いながら走り回り、恋人たちが寄り添い合って歩いている。
――そういえば、この街に来てから三ヶ月か。
俺はふと、記憶を辿った。
正確に言うと、俺はこの世界の人間ではない。俺は――ラルク・フォレスターとして生まれたのではなく、『神宮寺頼人』という、別の世界の人間だった。
二十歳の大学生。特に何の取り柄もなく、平凡な日常を送っていたある日、信号無視のトラックに轢かれて死んだ。目が覚めると、そこは見知らぬ森の中。そして、目の前に浮かんでいたのは、よくある『異世界転生』のシステム通知だった。
『ようこそ、第二の世界へ。あなたにはスキルが一つ与えられます』
ワクワクしながら確認したスキルは――『スライム召喚』。
チートでもハーレムでもなく、まさかの雑魚スキル。
あの時の落胆は、今でも鮮明に覚えている。
それでも、腐らずにやろうと決めた。与えられたカードで戦うしかない。スライムでも使い道はあるはずだと、あらゆる可能性を探ってきた。
最初の一ヶ月は、野良スライムを観察しながら生活した。よくよく調べてみると、俺のスライムは『眷属召喚』という特殊なタイプで、触れた魔物の性質をほんの僅かにコピーできることがわかった。ただし、コピーできるのは『五感』や『移動特性』など、ごく限られたもの。戦闘力に直結する能力はほとんど移せない。
例えば、毒針を持つスコーピオンに触らせれば、スライムの体表から微弱な麻痺成分を分泌できるようになる。ただし、殺せるほどの毒性はない。ただの痒くなる程度。
例えば、飛行能力のあるバタフライに触らせれば、スライムは数秒だけ空中に浮くことができる。ただし、ただ浮くだけで方向転換もできない。風に流されるだけ。
そんなチンケな能力でも、工夫すればなんとかなる。そう信じて、俺は最低ランクの依頼から一つずつこなしてきた。
そして、二ヶ月目で『紅蓮の刃』にスカウトされた。『雑用係としてなら使える』と。誇りは傷ついたが、それでもSランクの実力者から必要とされるならと、承諾した。
三ヶ月間、本当に頑張った。
ギルドの連中からは『ゴミ召喚士』と呼ばれ、レイナやカルロスからは罵倒される日々だった。それでも、自分の役割を果たせば、いずれ認めてもらえると信じていた。
だが、結果はこれだ。
「……はぁ」
石橋の欄干に寄りかかって、流れる川をぼんやりと眺める。
もうすぐ日が暮れる。宿はどうしようか。冒険者ギルドを追放されたという事実は、他のギルドにすぐに伝わるだろう。この街で仕事を得るのは難しくなった。かといって、資金はほとんど残っていない。
「どうすりゃいいんだ……」
誰に言うでもなく呟いたその時だった。
「おや、君は……もしかして『刻まれた者』かね?」
しわがれた声が、後ろから聞こえた。
振り返ると、そこにいたのは――
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路地裏の薄暗がりに、ぼろをまとった老人が座り込んでいた。
背中は丸まり、頭にはボロボロのフード。灰色のひげは手入れされておらず、栄養失調を思わせる痩せ細った体。一目でホームレスとわかる風体だった。
しかし、その目だけは違った。
深いシワの間から覗く瞳は、吸い込まれそうなほどの深い金色。若者のような鋭さと、賢者のような落ち着きを同時に宿している。一言で言えば――普通じゃなかった。
「あの……どなたですか?」
「私のことは気にしないでくれ。それよりも、君の左手の甲を見せてごらん」
左手の甲? 言われるままに自分の手を眺める。だが、特に何も――
その時、うっすらと文様が浮かび上がるのが見えた。
「なっ……」
思わず、まばたきをする。一瞬のことで、もう消えてしまった。幻覚だろうか?
「見えたかね?」老人がにやりと笑う。「そう、それだ。君は『刻まれた者』。神々に見初められた、数百年に一人の選ばれし存在だ」
「まさか……」
「驚くな。お前のそのスライム召喚も、ただの雑魚スキルじゃない。それは『模倣』――この世界の全ての魔物の能力をコピーし、蓄積する力を持つ、最古のスキルなのだよ」




