騎士様とのお見合いに割り込んだ謝罪女が気持ち悪い
性暴力の表現があります。
令嬢エシディア・アルヴェーヌは、今日という日を3年間、指折り数えて待っていた。
相手は王国最強クラスの有望騎士、ガルフレッド・ヴァン・レオンハルト。
家格も武功も申し分なく、しかも顔が良い。
これ以上ない完璧な縁談だった。
この日のために、ガルフレッド様は私が職業婦人だったのを辞めろといい、ずっと家にいて、その間にピカピカに体を磨き上げろと言われたからそうした。まあ、今思えばただの洗脳だ。
つまり、私がこのお見合いを逃すと無職の鳥籠のお嬢さんが出来上がりというわけ。
ここまで来れば婚約破棄も何もないはず。きっと、ガルフレッド様も私にノーを言わせないため本気なのだろうーー
なのに。
当日、ドレスを着ようとしたその朝、エシディアは膝から崩れ落ちた。
ここ最近毎夜のように見ている夢。
いや、あれは夢なんかじゃなかった。
騎士様の逞しい腕に抱かれ、熱い吐息を耳元で感じながら何度も達する甘美な夜 ……まではまだ「フライング婚前交渉」で済むかもしれない。
でもその次に現れたのは、冷徹な宰相令息の細い指が私の肌を這う感触。
さらにその次は、ショタ顔の技官が無表情で私の脚を開き、機械みたいに正確で容赦ない律動を刻み込んでくる。
全部、全部、現実だった。
そういえば、ガルフレッド様は軍医の資格を持っていて、麻酔薬を自由に持ち出せるらしいからーーだから、現実。
私は毎夜、知らない間に誰かに犯されていた。
昏睡させられ、記憶を抜き取られ、ただの肉人形のように使われていた。
騎士様だけなら……まだ言い訳ができたかもしれない。
実際にお見合いが決まっていたのだから、多少の時間は誤差だ。
でも、騎士様は筋肉質のいい体をしているのに、他の人は細かったり、体格が小さかったり。眠らされてても流石にそれくらいはわかる。
あの体つきはーー騎士様とよくいる宰相令息様と、あの技官かしら?
私を意識がない間に他人に勝手に貸し与えるって、どういうこと!?
でも宰相令息にまで手を出され、技官の餌食にまでなっていたら、もう完全に傷物だ。
しかも共同事業の契約も、婚姻に伴う莫大な政治的・経済的取り決めも、全てパー。 慰謝料どころか、家名が地に落ちるレベルの大損害。
私は実は転生者だけど、一部の乙女ゲームに逆ハーレムを作る聖女キャラはたまにいるけど、あんなのフィクションだ。普通の女は大体一人の強い男に愛されたいに決まってる。欲求不満な既婚者は知らないけどーー
アルフレッド様はどうしてこんなことをーー?
まさか、ただ自分の浮気がしたいために私に浮気を強要しているの?
そういえば、この結婚には我が家とアルフレッド様の事業提携が関わっていたはずだ。その契約には、私もアルフレッド様の子供が事業を引き継ぐとあったはず。
でも、もし生まれるのが私とアルフレッド様以外の子供だったらーーー?
震える手で鏡を見た。
首筋に残る薄い歯形。
太ももの内側に残る青黒い指の痕。
全部、私の意思じゃないのに。
ああ、でも今日はお見合い当日だ。
私は、意地でも今日のお見合いに行こうとした。
ドレスを着て、3時間かけて足元からピカピカに磨き上げた。
でも、怖い。行けなかったーー不安が足をすくめる。
なんて言ったらいいのだろう。
騎士様が他の人を動員して、私を汚したから?
私とお見合いがしたくなかったから、こんなことを?
彼は、この関係を秘密にしろとずっと言ってきていた。
相手から無理やりしたとはいえ、令嬢に婚前交渉なんてありえないもの。当然口止めするし、自分が傷物にされたことを話す淑女なんかいない。
でも、親同士の事業提携や資金援助は?
慰謝料が発生したら?
私たちの子供が継承予定の事業がもし、騎士様の子供じゃなかったら?
でも、行かなければ不敬になる。
考えれば考えるほと頭が真っ青になる。白粉を叩いた肌から冷や汗が止まらない。
お見合いは外のレストランを予約していたが、その日は使者も間に合わなかったのでドタキャンし、ドレスのままベッドに寝ていた。
騎士様とは遠征がない間は半分同棲していた。
だから帰ってきたら、騎士様にだけは、真実を話して許しを請おうと。
なのに。
翌日、見たものは――
「ガルフレッド様! この度は私の主人が大変な粗相を! 私でよければ……私と結婚してください!」
馴れ馴れしく訪れた騎士様の腕に絡みつく、見たことのない侍女。
名前も知らない、地位も知らない、メイド服を着た女。
……は?
「エシディア様が不貞を働いて、複数の男性と関係を持ってしまったって……もう結婚は無理だって聞いたんです。だから私が――」
お前、何を。それに誰なの、あなた。
お前がどこでそんな話を。
私が誰にも――誰にも言っていないことを。
どうして知っている?
周囲から聞こえてくる囁き。
「やっぱり悪役令嬢だったのね……」
「騎士様をたぶらかしてただけじゃなくて、宰相様にまで……」
「技官の坊やまで手を出してたって……最低」
違う。
違う違う違う違う違う――!!
私は被害者だ。
私は何も選んでいない。
毎夜、眠らされ、開かれ、犯され、汚され続けただけなのに。
なのにこの女は。
この薄汚い横入り女は。
私の傷を、まるで自分が正義の味方のように広めて、
騎士様の隣の席を奪おうとしている。
耐えられなかった。
エシディアは震える声で、しかしはっきりと、会場中に響く声で叫んだ。
「――いい加減にしろ」
静まり返る広間。
「私が毎夜、眠らされて何をされていたか、全部話してやろうか? 私は断ったけど、騎士様は子供と既成事実を先にしたいと言ってきた。騎士様だけならまだ『婚前交渉』で済むかもしれないと思っていたけど、 宰相令息の冷たい指が私の奥まで抉って、 技官のガキに奥まで機械みたいに突かれて、 何度も何度もイかされて、意識が飛ぶまで犯され続けたんだよ?」
ざわめきが一瞬で凍りつく。
「全部、私の意思じゃない。 これは政略がらみの結婚なんだ。どんな工作があっても主人を守るのが侍女の役目だろう。まさか、ドアの外で見張りもしていなかったと?」
「ち、ちが……」
「いいか。東洋の古代の逢引だって、侍女は和歌を選び、家格を選び、娘の部屋に通す男を厳選していた。通婚に一妻多夫なんかない。お前は私を多情な情婦にしたかったか? それともお前が掻っ攫えそうな男の厳選だけをしていたか?」
「ちがっ…」
「これはしかも家同士の結婚だ。お前は家の顔か? 警備担当はどうした? 私が襲われるのはどうでもよかったか? お前がすべきことはただ私が意識を失ってた間に因果関係を調べることだけだろう。 夜わざと騎士様以外を部屋に通していた人間がいるはずだ。全部、誰かに仕組まれた工作だな。でもお前は――」
エシディアは一歩踏み出し、侍女の顔を真正面から睨みつけた。
「お前はそれを知ってて、わざわざここに来たんだろ?
私の汚された体を笑いものにして、
騎士様を横から奪おうとしたんだろ?
だったらもういい。
ここまでやったんだから、もう誰も近づくな。
他の女は全員、
消えろ」
最後に吐き捨てるように。
「――特に、お前みたいな気持ち悪い横入り謝罪女は、二度と視界に入るな」
侍女の顔が真っ青になり、膝から崩れ落ちる。
エシディアはもう一度、騎士様の方を振り向いた。
「――婚約破棄は応じません、でもお会いすることもありません。あなたはこの女性を選びますか?そのプライドは、私の死体を足蹴にして横取りするこのハイエナ女どもと同等なのですか、あなたは?」
涙も、羞恥も、飲み込んでーーその瞳は、燃えるような怒りと、壊れそうなほどの脆さを同時に宿していた。
「謝罪」と称して、因果関係を無視して割り込む人が大嫌い。
周囲がやるべきことは割り込みじゃなくて因果関係を調べることに尽きます。
当事者じゃないんだから




