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8 準備はオーケー?

 森を抜け、林をくぐり、山を越え。そして最後に臭い森を越えた。海千山千とはいかずとも、南端島まで幾つもの村や町を経由して。

「辿り着いたぞ!《南端島(やべーやつがいるとこ)》!」

「ここまで長かったわね...」彼女の銀髪が、暖かい風に吹かれてふわりと揺れる。あぁ、かわゆい。

待て待て。今から俺たちは、化け物に会いに行くのだ。

全てを知っている化け物に。


「兄様は自由奔放な方で...南端島に城を構えていてもおかしくない、といったところね」

城?それは自由奔放というのか?もう住む気まんまんじゃん。

「...一応、ゾルダート・アンドルドの使う魔道具を教えてもらっても?」

「多分大体使えるわね。」 マジかぁ。

兎に角、今見える南端島に行くためには、まずは海を渡らねばなるまいて。この世界で海を見るのは初めてだ。やっぱり海は青かった...と、俺は人類初めて地球を見た人のようなセリフを言った。


「海を渡るには、船が必要ね。『マッド』。」 彼女の掌から次々と粘土のようなものがあふれてくる。

まさかこれで船を造るっていうのか...?泥船じゃねぇか。

安全性が気になるな。不安を感じたため、スキルを発動した。

《沈む確率:87%》 悪いことは言わない。今すぐそれを造るのをやめてください。

「あの...シーララさん。ちょっと確率が悪かったので、材料を変えませんか?」

「え?そうなの?でもほかに何かあったかしら…」

うんうんと二人で唸っていたところ、後ろから気配を感じた。

「何かお困りごとがありましょうか?」

振り向くとそこには、老爺がいた。


この老爺は、ゾルダート・アンドルドの執事だそうだ。ゾルダート・アンドルドの命を受けて、わざわざこちらまで転移してきたらしい。どうやら『未来視』で、俺たちが海を渡れないことを予期していたんだとか。

...転移魔法は高等技術のハズなんだが。このジジイ、絶対タダ者じゃねぇ。

シーララさんは、どうやら面識があるらしくリラックスして話していた。

「こんなところまで、何の用なの?」

「ゾルダート・アンドルド様より、伝言をお預かりしております。お聞きになりますか?」

俺とシーララさんは、迷うことなく頷いた。


「城まで来る必要はない。ゾルダート・アンドルドの名において命令する。近々、我が牙城を襲撃するものが現れる。その名を、ブラッデッド・コスモという。俺は現在、諸事情によりこの城から離れることができん。であるため、ヤツの侵攻経路である《大蛇巣食う悪食の森》において、メルト・ロジック及びシーララ・アンドルド両名には、ブラッデッド・コスモを撃退していただくこととする。...以上です」


城まで来なくてもいい、だぁ?だったらわざわざ南端まで来た意味ねぇじゃねぇか!

「私めの転移魔術は、この海岸までが限界であります。来ていただき、恐悦至極の極みでございます。」

なるほど。では無駄じゃなかったのか。

「兄様は、他に何か言っていたの?」

老爺は首を振った。「いえ、何も仰られておりませんでした。」

...おそらく、《大蛇巣食う悪食の森》って、シーララさんが重力でぶっ潰したあの蛇がいたところだろうな。あそこは障害物が多いし、かなり有利な戦闘も、できなくはない。


「万が一のために、使い捨て高度魔法(ロップスクロール)を一つお渡しします。《転移魔法・零式》と呼ばれ、対象の二名を任意の場所まで転送するものでございます。使えるのは一度きりですので、ここぞというときにお使いください。」

そう言って渡されたのは、昔の映画のフィルムのようなもの。表面には、複雑な文様が描いてある。きっとこれは、《転移魔法・零式》とやらのイメージ、なんだろう。

一仕事終えた老爺は、くるりと背を向けて転移魔法の準備を始める。きっと南端島に帰るつもりなのだろう。

「襲撃は二日後であると、ゾルダート様は言っておられました。情報源は《未来視》であるため信頼できると思われます。では。」

別れの挨拶を言う前に、老爺はフッと姿を消した。


さっきからシーララさんが黙りこくっている。そんなにお兄さんと会えなかったのがショックなのか?

「あの、シーララさん?取り敢えずあの森に戻りましょうよ」

よく見ると、彼女は少し震えているようだった。

「...よ...」

「え?」

「ブラッデッド・コスモは...」

彼女の緊張している様子につられ、俺も緊張してくる。彼女の震える唇が、必死の言葉を吐き出した。

「ブラッデッド・コスモは、《帝戒位》の序列6位よ...」

...ん?...は?


翌朝。スズメ型の魔物の鳴き声で目が覚める。うーんいい朝。今日も一日頑張ろう。隣ですやすやと眠るシーララさんをチラッと盗み見る。見るだけなら合法。触ったら逮捕だ。

...とはなれない。なんと明後日は、《帝戒位》序列六位、ブラッデッド・コスモとの撃退戦なのだ。

俺たち二人だけで撃退だって?そりゃあちょっとねぇ兄さん、無理ってもんじゃないですかい?

生憎、俺はゾルダート・アンドルドの意図を見抜くほどに洞察力があるわけではない。しかも昨日の依頼も、「お願い」じゃなくて「命令」だったし。序列四位を敵に回したくはない。

しかし、何の対策もせずに六位と()っても勝てる気がしない。

俺が真っ向からぶつかり合うとして。もって2秒だ。俺のスキルは攻められた時には発動しないから、相手が先手を仕掛けてきたら2秒もたない。保証できる。

だから対策するのだ。

起きしなの態度がめっさ悪いシーララさんを起こさないように気を配りつつ、俺は速やかに思考を巡らせる。序列六位による侵攻を諦めさせるために。いわば、最適解を弾き出すために。


昨日シーララさんから聞いたところによると、ブラッデッド・コスモはとんでもないスキルを有しているとのこと。

それが、《不死と再生(アンデッドリユース)》。文字通り、死なない。そして傷を負っても即回復。その回復速度は、最高位の回復魔法モストヒールの比にならないくらい速いらしい。

だから無理ゲーなのだ。こっちも不死なら何とかなるかもしれないが、生憎残機は一人一つまでと来ている。なので、昨夜の取り決めにより、俺たちは明後日の撃退戦、これまで様々な町や、そこにいた行商人から買った魔道具をフル使用する。俺たちのタルタ銀貨はもうほとんどない。


魔道具一覧:

再鼓動の恩寵:心肺停止状態において効果を発揮。心臓を再び鼓動させ、死の一歩手前から蘇らせる。

なお、完全な死においてはその効力を発揮しない。 所持数10。


前借の鴻鵠:一時的な消耗感、気力を消費する代わりに、脈拍の増加、動体視力の向上、身体機能の飛躍的増加を得ることができる。 所持数2。


超高度回復魔法《モストヒール改》のロップスクロール:四肢の欠損及び《モストヒール》での再生・回復が不可能な場合、いかなる外傷も全快させるという、龍族秘伝の魔法。 所持数20。


不死の刀:折れても折れても再生する刀。持ち主はメルト・ロジック。 所持数1。


魔導書:索敵魔法・及び気力探知魔法、気力測定魔法習得可。持ち主はシーララ・アンドルド。 所持数1。


転移魔法・零式のロップスクロール:ゾルダート・アンドルド製。膨大な製造者本人の気力消費と引き換えに、対象を二名のみ設定者(製造者以外)の任意の場所に転送する。 所持数1。


無底の革袋:説明不要の四次元ポケット。


こんなものか。南端に来るまで、合計5つほど町を経由した。そしてその辺をうろつく行商人とかからも買い占めたりした。金は足りた。なぜかって?普通の冒険者ではありえない数の魔物を倒しまくったからだよ。でももうお金はないよ。


シーララさんが目覚めるのを待つ。数分後、うっすらと彼女が目を開けた。

「おはようございます。今日は、あの森まで戻って、地形を徹底観察しますよ。」

「分かった..行きましょ」

朝食はいらないようだ。緊張感があるな。仕方がないか。

そこから半日ほど歩いて、先日激闘を繰り広げた《大蛇巣食う悪食の森》に戻って来た。まぁ実際、すでに大蛇は巣食ってないわけだし、ここはただの悪食の森だが。

「シーララさんの重力操作って、細かいことはできるんですか?」

シーララさんは、恥じるように俯いた。

「私の重力操作はまだ未熟で、細かな動作はできないの...ごめんなさい」

細かなことができたらしたいことがあったが、できないならしょうがない。あるもので闘うしか、ない。

生い茂っている木は、元の世界でもよく見た広葉樹だ。幹もしっかりしているから、戦いの足場としても上出来かもしれない。俺のスキルが先制攻撃至上主義として成り立っている以上、今までの戦いでも環境を利用したバトルスタイルを展開してきた。

スキルばかりを使って逐一環境を確認する。今のところ、最適解ばかりだ。いいぞ。


日が暮れるころには、すでにほぼすべての準備が整った。森の各所に罠を設置し、魔道具も二人で分配した。《再鼓動の恩寵》はお互い5つずつ持っているから、どっちも5回まで死ねる。わあい。

ちなみにブラッデッド・コスモは∞回死ねる。どないなっとんねん。


「ここまでくれば、もう何もすることはありません。撃退戦は明日です、今日はゆっくり休みましょう」俺の提案に、シーララさんも頷いた。彼女は少し、緊張しすぎなように思える。

「シーララさん、緊張しすぎじゃないですか?肩の力を抜いたほうがいいですよ」

シーララさんは今意識が戻ったかのように俺の声に反応する。

「えっ、えっ..あ、そうだよね、ごめんなさい...緊張して」見ればわかるっつの。

「兄様に何かを期待されるの初めてで、うまくできるか心配で...」

期待は緊張を呼ぶ。「応えないといけない」という呪縛もかかるわけで。

「すごく...すごく強い人と戦うなんて...」

まぁそうだろうなぁ。《帝戒位》と会ったことはあるが、戦ったことはない。実戦経験がないことに加え、あちらは序列六位と来ている。

「失うのが、負けるのが、怖くて...」 ...まぁ、そうだよな。

「あなたを、失い、たく、なくて...」 緊張から震える声は、今や嗚咽に変わっていた。


俺は負ける気はない。どう転ぶにせよ、最適解は果たした。

やるなら思い切りやる。そして勝つ。

俺は勇気を出して、恐怖と緊張に震えるシーララさんの肩を抱いた。


そして、翌朝。決戦が始まる。


作者のテンションはサイコーチョーです

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