6 MVPはオバチャン
「町が見えたわ!」シーララさんの歩く速度が上がる。置いて行かれないように、自然と俺の歩調も上がる。確かに町があった。最初の町から随分離れたところにあったな。
「着いたわ。南の町、《ベルデットの町》よ!」俺はテンションが上がる。南の町は、最初の町に比べてかなり大規模だ。しかしあの町のように、農業に秀でているわけでもない。
ベルデットの町は、果物が美味しいらしいのだ。 魔物を狩ると、時たまに銀貨を落とすことがある。ゴブリンやら何やらが人間を襲った際に奪ったものだろう。それを奪い返す形で、俺たちはそれなりに日銭を稼いでいた。
「早く行きましょう...宿でゆっくりと休息をとりたいです...」 俺の意見。正直、毎日毎日野宿で身体が参っていたのだ。まだ若いのに、俺の背骨はひいひい悲鳴をあげている。シーララさんは平然としている。どこか頭がおかしいとしか思えない。 「そうね。取り敢えず宿を見つけて、それからこの町を探索しましょ」 大賛成だ。なぜって?俺はフルーツが大好物だからだ。
宿は少し、騒がしかった。人が多い故の当然のことかと考えていたが、どうやらとある話題で盛り上がっているそうだ。 誰かに聞くのが最適解としても、俺とて見知らぬ土地の見知らぬ人に話しかけるほどコミュ力があるわけじゃない。一応前世では、陰キャの部類だったからな。 シーララさんがずいっと前に出て、その辺の丸耳族のオバチャンをとっ捕まえた。 「すみません、何かあったんですか?」 オバチャンは周囲を謀るようにして、こちらに顔を寄せた。半ば無意識に、俺たちもオバチャンの方に顔を寄せる。 「それがねェ、この辺りで、《帝戒位》を名乗る人が現れたらしいわよォ!」
《帝戒位》。シーララさんの身体がぴくりと反応する。冒険者の中でも頂点に君臨する10人。 シーララさんの兄、ゾルダート・アンドルドもランクインしているらしいけど。 俺はついつい身を乗り出して、オバチャンに聞いた。 「ど、ど、どんな人だったんですか?」 オバチャンはフリフリと首を振った。年齢に合わず、可愛らしい動作だ。 「それが分かんないのよねぇ。ほら、《帝戒位》の方たちは、滅多に人目に付かないでしょう?噂の子は自分から喧伝してるらしいけど、どうもねぇ...」 どうやら、
《帝戒位》の人らは幻ポ〇モンの扱いらしい。 シーララさんが尋ねる。 「自称《帝戒位》ってことですか?」 オバチャンは頷いた。貴重な情報を提供してくれたオバチャンに感謝を述べ、俺たちは宿にチェックインした。
部屋に入るとすぐに先ほどの話となった。 「シーララさん、《帝戒位》の人がこの町にいるっていう情報、正しいんですかね...」 シーララさんはうーんと唸って首をひねる。 「どうなのかしらね。《帝戒位》の人たちには、決まって体のどこかに《帝印》という紋章があるはずなの。
あと帝戒位の人は、ホンッットに人目に付かないところで生きてるから、その件の自称《帝戒位》の人の行動は帝戒位のソレとは矛盾している気がするし」 「じゃあ、フェイクだということで考えてよさそうですね。」俺が話を終わらせようと、明るい声を出す。シーララさんも、「そうね。じゃあ、市場に行きましょうか」 俺は喜んだ。さっきから腹が鳴ってしょうがないからな。
南の果物は、甘かった。銀貨1枚で買うことのできる《アブロミの実》は、元の世界で言うところのオレンジのような味だった。色は緑色だが。 ほどよい酸味と甘みを堪能した後、シーララさんの提案で、その自称《帝戒位》のヤツを探すことにした。 街を歩いていると、薄暗い路地で一人の男が他の男たちに絡まれているのを見つけた。
「いや、ちょ...困りますて」 「あぁん?そっちからぶつかってきといて何だよ、こら!」 どうやら当たり屋に遭遇したらしい。気の毒なことだ。男は3人、絡まれている男は貧弱そうで、前世の俺を思わせる。 ちらりとシーララさんに視線を送ると、頷いてきた。 かつての俺なら無視しただろう。なぜならそれが最適解だったからだ。しかし今なら立ち向かう。なぜか?強く成った今、それが最適解だからだ。 俺は無言で、ずんずんと男たちの方に歩いてゆく。 絡まれている男が、こちらに助けを求めるような視線を送る。
「あっ、あの...助けてください...」 俺は久々にスキルを発動する。 『攻撃成功率:右フックで攻撃した場合 19%』『攻撃成功率:左フックで攻撃した場合 83%』 俺は躊躇いなく左で一撃を繰り出す。魔物との戦いではもう少し慎重になるが、相手は俺と同じ人間。..いや、多分こいつらは獣耳族だが。
「ぶがらっ!」男が吹き飛ぶ。もう一人の男にも攻撃を加え、身動きをとれなくする。 シーララさんは戦いの様子を静観している。手を下すつもりはないのだろう。
「ちっくしょ...覚えてろよ!この詐欺師が!」 捨て台詞を残し、男たちは去ってゆく。勝利の余韻はない。 ...ん?詐欺師?シーララさんがこちらに歩みを進めてくる。 そして絡まれていた男に、「大丈夫だった?」と声を掛けた。 特に特徴のない男だ。平凡な容姿。そして先ほどの男に絡まれても抵抗できなかったのは、力も平凡かそれ以下だったから...なのか?
「で?なんで詐欺師って言われてたんだよ」俺はそう聞く。助けてやったんだから、これぐらい聞く権利はあるだろう? 「あぁ...それは、俺が嘘ついてるって思われてるからなんだ...通るたびに言われるよ、自称《帝戒位》だ、って」 すると、こいつが。 シーララさんが厳しめの口調で詰問する。「なんで帝戒位を名乗ったの?身分の詐称なんて恥ずべき事よ」 男はへらりと笑って返した。 「え、そうだったの?悪い悪い、次から気を付けるよ」 シーララさんがハァ...とため息をつく。俺もこいつの態度に、若干の苛立ちを感じた。
「..ほんとに《帝戒位》なら、あなたには《帝印》が押されているはずよ」 その一言に、男は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。 「あぁー...ああ、それね、うん...今切らしててね、ははは...」 気まずい空気を振り払うように、男は明るい声を出した。 「まぁ、助けてもらってお礼をしないってのは忍びないからね...」そういうと彼は、自分の《無底の革袋》に手を突っ込んだ。
「お礼に、二人に俺の魔道具をあげようか?」 願ってもないことだ。
俺は二つ返事で応じた。 「マジか、それは助かる!」シーララさんが微妙な顔で呟く。「どちらかというと、魔導書が欲しいのだけれど...」 「じゃあ君には魔導書をあげるよ。どういう系のやつがいい?」 魔導書。魔法のイメージが分かりやすく書いてある書物らしい。おおよそ、魔導書は次の3種類に分類される。 《攻撃魔導書》、《索敵魔導書》、《回復魔導書》。 「索敵魔導書はあるかしら?」 男は首肯。
「俺の魔道具は、どんなのがあるんだ?」 「そうだね、例えば、折れても再生する、不死の刀とかはどうかな?」 折れても再生!?素晴らしいじゃないか。 一応スキルを使って、安全性を見極める。 『魔道具の安全性:100%』 よし、なら安心だ。 「分かった、それで頼む」 「私も魔導書、頼むわ」 男はごそごそと革袋をまさぐり、中から一本の刀を取り出した。
鈍色に光る刀身、癖のない形状。俺にとって扱いやすいモノであることは、一目瞭然だった。 次に取り出したのは、淡く緑色に発光する魔導書。 「ほれ、この二つ。受け取ってくれ。」 俺は男に礼を言って、《不死の刀》を俺の《無底の革袋》に入れた。愛称ゴブリンハンマーとは、ここでお別れだ。 彼女も男に謝意を示して、魔導書をしまった。
「じゃあ、俺はそろそろ。この町に君らがまだ滞在するなら、また会うかもしれないね。」 そう言って、彼はその姿を消した。
平凡な男。目を離した瞬間から、俺は彼の顔を忘れかけていた。
話していたらすっかり日が暮れていたので、宿へと戻る。 部屋に着くなり、彼女は魔導書を読み始めた。チラッと覗いてみると、複雑なイメージ図が書かれていた。索敵魔法や気力探知魔法、相手の実力を測るのにおあつらえ向きだ。
俺は《不死の刀》を取り出し、鞘から抜いた。 「あの、シーララさん」 「何?」 「この刀、折れても再生するんですよね」 「らしいね」 「珍しいんですか?」 「まあまあ」
返事が素っ気ない。魔導書に集中してるのか。悪いことをした。
夜になり、俺は眠りについた。彼女は、夜中まで魔導書を読み耽っていた。 翌朝。俺は窓から差し込む日差しに目を開けた。彼女はすでに起きている。いつもは起きるのが遅いところから見るに、もしかしたら徹夜したのかもしれない。
「おはようございます、シーララさん」 シーララさんはこっちを向いて挨拶を返してくれた。 この世界では、徹夜はそこまで影響を及ぼさない。眠気は、魔物の能力でない限り回復魔法で霧散するからだ。だからシーララさんは今日も元気なのだろう。喜ばしい。 「もう発つわよ」どうやら次の町に行きたいらしい。しかし、俺はまだ、最後にこの町でしておきたいことがあった。 「分かりました。...でもその前に、果物を買い込んでいいですか?」これだけは譲れない。
ありったけのタルタ銀貨で果物を買い込み、ほくほくした様子で店から出てきた俺を、シーララさんは呆れた目で見てきた。 「もういい?行くわよ。」そう言うや否や、彼女は町の出口門に向かって歩き始める。 俺も慌ててそれについていく。果物を落とさないように、《無底の革袋》に詰めるのも忘れない。
町の出口に辿り着くと、そこにはすでに先客がいた。 平凡な容姿をした男。昨日のヤツだ。 まるで俺たちの到着を待っていたような気さえする。 「今日出発するのかい?」彼はニヤニヤと笑いながら聞いてくる。 「ああ。お前もか?」俺は問い返してやった。ヤツは答えない。
「まぁ、気を付けて冒険しなよ。メルト・ロジックとシーララ・アンドルド。」 ゾクッ、と背筋に冷や汗が走る。それもそうだ。俺たちはヤツに名乗っていない。 シーララさんが低い声で尋ねる。 「あなた、何者なの?」威圧感マシマシシーララさんだ、惚れるね。
すると男はニコッと笑い、自らの顔に手を添えた。
彼の顔にミストのようなものがかかり、顔が判別できなくなる。 ミストが晴れるとそこには、紫色の目をした、中性的な見た目の男がいた。
「初めまして。《帝戒位》序列9位、フェイン・ルルシアンと申します。」 奴は、そう名乗った。
噂は本当だったって訳だ。いやんなっちゃうね、まったく。
名前:フェイン・ルルシアン
年齢:23
スキル:万視の変装
最近の悩み:みんなに嘘つき呼ばわりされる




