4 女の子と二人旅...だと?
翌朝。俺は朝起きてからすぐに、ある変化に気づいた。
確率が視えない...」これはアレか。昨日シーララさんが言っていた、「慣れ」なのだろうか。
ちなみに俺はベッドで寝ている。「疲れてるだろうから」とシーララさんが率先して床に寝たのだ。ありがたい。きっとこれは確率が視えなくなったのではなく、確率を意識的に視認できないようにしているだけなのだろう。
試しにシーララさんの方を向いて、「今シーララさんを起こした場合の安全率」を視たいと念じる。すると感覚が戻り、昨日散々見てきた確率が表示される。
『殴られる確率:100%』どうやらシーララさんは寝起きは不機嫌になるタイプらしい。ここで起こしてはならないというのは、最適解というよりも暗黙の了解だろう。
...起こしてはならない。つまり俺は、行動の選択肢がない。することがないというのはあまり好かないので、昨日知り合ったばかりの、シーララさんを観察することとする。キモい意味じゃなくてだぞ。
長い銀髪だ。異世界では、髪色豊富なイメージがあるがその通りのようだ。背はすらっとしていて、出るところは出ているといった感じだ。...胸がでけぇ。俺の脳内で、間抜け面をした前世の俺が「わーい、アルプス山脈だー」とかなんとか宣うほどには。
あとお尻も大きい。決して嫌らしい意味ではござんせん。生憎俺は尻フェチの扉を開いていないので、感じるところはあまりないが。
と、俺が下卑た視線を送り続けていたせいか、シーララさんが目を開けた。起こしてしまったか、と背筋に悪寒が走ったが、どうやら自然に起きただけのようだ。
「...何見てるの?」俺は、ゴホンと咳払いでごまかした。
「い、いえいえ。お綺麗だなぁーと思いまして。」
彼女は疑わし気な視線を俺に向けてきたが、ついと視線を逸らして伸びをした。
「朝食を食べたら出発するわよ」そう言って床に敷いてある簡素なマットから腰を上げる。
「はい!」俺もベッドから重い腰を上げる。
どうやら、この世界の主食は我らがライスではないらしい。もっそもっそとパンをかじる俺に、シーララさんは呆れた目を向けてきた。
「そんなに急いで食べなくても、パンは逃げないわ」はもはもはも、とパンを口に詰め込む。
『喉に詰まらせる確率:45%』便利だ。実に便利だ。
「おみふふははい」「え?」ごくり、とパンを飲み下す。
「お水ください」ウォーターサーバーがあればいいのだが、生憎この世界にはそんな気の利いたものはなさそうだ。なにせ、インターネットすらも存在しないし、電化製品のでの字もないんだから。
「分かった。『スプラッシュ』」その掛け声と共に、彼女の手から水が出てきた。慣れた様子でコップに注ぎ、俺に差し出してくる。
「はい」 はい、と言われましても。
全く俺の知らない文化だ!お水はセルフで、とはよく聞くけどここまでセルフとは思わねぇよ...。
というか、ええんですか?美少女の掌から出てきた水、飲んじゃってええんですか?
一応スキルを使っておく。
『この水が安全である確率:99,1%』よかった、どうやら安全らしい。残りの0,9%が気になるが。
ごくり、と意を決して一口飲む。冷たいのど越しがしみて美味い。
「美味しいです」率直な感想を言うと、彼女は黙って頷いた。まあそうだろう。ただの水を美味しいと言われても、の顔だ。
朝食を終え、俺たちは宿を出た。眩しい日差しが、旅立ちにうってつけのように思える。
「さて、行くわよ」彼女は身を翻し、町の出口へと向かう。俺もそれについていく。
ちなみに、この世界には『魔道具』なるものが存在するらしい。それは日常に役立つ便利アイテムだったり、戦いに役立つ武器だったりする。
冒険家たちに愛用されているのは、『無底の革袋』という魔道具だ。効果は、某アニメの四次元ポケットと思ってくれればいい。
重さを感じないため、シーララさんも重宝してるんだとか。
だからこの世界の冒険家は、皆軽装備らしい。
...待てよ、俺はシーララさんと二人で世界を回ろうと言うのか?こんな美少女と二人っきり...?うへへ、俺の理性が持つか心配だぜ。
町から離れて少しすると、街道が途切れた。ここからちゃんとした冒険が始まるらしい。先ほどの町には武器屋がなかったので、武器は買えなかった(そもそも金を持っていなかった)。
シーララさんも武器を持ってないらしい。勝手に熟練の冒険者だと思っていたが、実はまだ旅に出て一年ほどしか経ってないそうだ。
「あまりいい武器を持ってないのよ。悪いわね。」いえいえ、謝ることはありゃせんよ。
にしても...俺は横眼で、ちらりと隣を歩くシーララさんを見つめる。本当に整った顔だ。ちょっと切れ長の瞳、長い睫毛、シュッとした頬に大きくも小さくもない口。元の世界にいたなら、間違いなくモテモテだっただろう。
「あそこを見て。」シーララさんがおもむろに指を指す。その方向を見ると、そこには魔物が二匹いた。
緑色の肌、禿げあがった頭。腰布一枚だけを身に着け、その顔の平たさの割には大きな双眼がついている。手には棍棒。切れ味は悪いだろうが、殴打を目的としたのであれば一級品。
そして前世、何度も何度も異世界漫画で見てきた魔物。ゴブリンだ。
俺たちがゴブリンに気付くと同時に、ゴブリンも俺たちに気付く。
そして俺はスキルを発動する。確率が表示される。
『勝率:98%』
このスキル、相手の行動が予測できない代わりに結果だけならある程度予想できるようだ。変なところで便利だな。
しかし俺は魔道具やら武器を持っていない。あちらが棍棒を持つ分、リーチはあっちの方が上。俺は勝てない戦いはしない。それが最適解だからだ。
シーララさんもそれは承知の上のようで、素早く動いた。
『無底の革袋』から何かを取り出した。それは異常に刀身が反っている武器。剣だ。
「はぁぁっ!」美少女の雄たけびが響く。ゴブリンも警戒して叫ぶが、もう手遅れだった。
ザンッ!瞬く間に、二匹のゴブリンの首が宙を舞った。血しぶきが飛び散る。
シーララさんの見事な戦闘を目の当たりにして、俺は言葉を失った。
しかし、シーララさんがさらりと歩いてきたその後ろには、まだ血しぶきが舞っている。あんなにすごい戦闘を繰り広げた後でも、彼女の顔に一切の疲れも、動揺も見えなかった。逆に、ちょっとだけ顔をしかめているのが印象的だった。なにか不満でもあるのだろうか。
「うーん。なんか、少し物足りないわね」
「物足りない…?でも、あれだけ一瞬で…」
シーララさんは、まるで手のひらで水を掬うようにしながら、「ゴブリン程度なら、正直練習みたいなものよ」と言って、軽く笑う。その笑顔に俺はまたちょっとドキっとしてしまった。
「それより、メルト君。あなた、少しは自分のスキルを活かすべきよ。『視認式最適解』って、正直かなり便利なスキルなんでしょう?」と、彼女は言ってきた。言われてみれば、その通りだ。
確かに、今の俺のスキル「視認式最適解」を使えば、戦闘においてかなりのアドバンテージが取れるはずだ。けれど、なんだかそのスキルを使うのが怖い気がする。確率が視えるということは、戦闘の「結果」が先に見えてしまうことだろう? それじゃあ、面白くないじゃないか。ゲームのように、すべてが見えている世界で戦うことに興奮は感じられない気がする。...とまぁ強キャラムーブをかましたが、結局のところ、怖いのだ。確率は万能だが、万能さがゆえに俺の首を絞めることも、あるかもしれない。
それに、シーララさんのように華麗に戦う姿を見ていると、どうしても自分の力の無さに落ち込んでしまう。
「確かに、でも…俺にはまだ自信がないです。」正直に、そう言った。スキルを使うのも、まだ不安が残っていた。
シーララさんは、少しだけ目を細めて、それから優しく言った。「そんなこと言っている場合じゃないわよ。これからの世界は、何が起こるか分からない。自分を信じて、少しでも成長しないと、すぐに死んじゃうわよ?」
ああ...すごいなぁ、と、俺は彼女に素直な尊敬を抱く。勝ったのに。余裕のよっちゃんで勝てたのに。まだ彼女は上を目指す。勝利に甘んじることなく、最適解を見つけ出そうとする。
だからこそ、彼女から学ぶべきだ。真似を厭うな。それがきっと、俺の最適解だ。
「はい...努力します」うなだれた俺の言葉に、彼女は笑った。
前世で散々味わった嘲笑ではなく、素直な笑みだった。
「よろしい」そう言って彼女はまた、先を歩き始めた。彼女と足並みをそろえることができるようになるのは、一体いつ頃なのだろうか。
ちなみに、武器がないと困るので、棍棒を二本とも頂くことにした。一本は常備しておくとして、もう一本はシーララさんの『無底の革袋』に入れさせてもらった。
彼女の背中は、遠かった。
名前:シーララ・アンドルド
年齢:20
スキル:不明
最近の悩み:ちょっと寝不足




