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3 スキルはきっと裏切らない

 町は活気づいていた。市場のようなものが立ち並び、人々の粋な掛け声が響いている。ちなみに、どうやらこの世界にも通貨という概念が存在するらしく、《タルタ銀貨》で取引が行われているらしい。タルタ銀貨一枚の相場は、元の世界で言うところの500円くらいか。

「この町は、農業に定評がある町なの。農作物が他より安く買えるから、結構人気があるのよ。」

...しかし、目的は食物ではない。適正技能付与石だ。

「あの、適」

「適正技能付与石は町の奥よ。行きましょ」先読みされてしまった。

町の奥。喧噪から少し離れた、静けさのある場所。そこに、ポツンと一つの祠があった。

「ここに触れるだけよ。そしたら精霊様があなたの性格を読み取って、あなたに合ったスキルを与えてくださるわ。」

精霊様が何かは分からないが、どうやら触るだけでいいらしい。よかった、変な儀式とかがなくて。

胸の高さほどの石がある。手入れが行き届いているのか、鈍い光沢すら放っている。

「よし、触ります」言葉として出すことで覚悟を決める。いざ。


その石に触れた刹那、脳に《何か》が刻まれた。言語化するなら、《概念》といったところか。どうやらこの世界では、ゲームのように空間にスキルを表示するものではないらしい。

全ては脳内で処理されるようだ。

そして言われずとも、脳に刻まれた概念のお蔭で理解した。俺のスキル。


物事の《確率》を視ることのできるスキル。 『視認式最適解』だ。


「初めて聞くスキルね...」付与石に触れた後、俺たちは町の宿に立ち寄った。

「何かをしようとすると、その時その時に《選択肢》が視えるんですよ。例えばさっきの市場でも、『リンゴを買って損する確率』なんてものが視えましたし。実際、あの中にあるリンゴのうちいくつかが腐っていたのでしょう。」

俺の説明に、シーララは少し理解したように頷いた。「なかなか便利なものだと思うわ。いいスキルね」

そういえば彼女のスキルは何なのだろう。...また地雷を踏むのが怖いし、自分からは聞かないでおこう。


というかこのスキル、ずっと発動している。おかげで気分が悪くなってしょうがない。何をしようとしても確率が付き纏ってくる。これは本当にいいスキルなのか、甚だ疑問だ。

「一日もすれば身体が慣れて、スキルを制御できるようになるわ。もって今日の辛抱ね。」

唐突に、新たな確率が浮かんできた。

『この世界で生きられる確率:0.00025%』

ははっ。やっぱり最高のスキルだ。

シーララは少し考えてから、静かに言った。


「たしかに、最初はうまくいかないかもしれないわ。でも、スキルってそういうものよ。何度も試していけば、少しずつコツが掴めるものだし、逆にそれができないなら、きっと他のスキルも使いこなせないでしょう。」


「...なるほど。」俺は少し気を取り直した。こういう助言をしてくれる人がいるというのは、ありがたいことだ。

確かに、今のままでは確率に翻弄されっぱなしだ。どれだけ動いても、選択肢が浮かび上がる。それに強く依存してしまえば、思考が鈍くなる。まずは視覚化された選択肢に捉われず、自分の直感を大切にするべきだろう。

しかも、明日になると制御可能になるらしいのだ。明日が楽しみでしょうがない。


「ちょっと、外の空気を吸ってくる」俺は席を立った。

「気を付けて。治安は悪く無いけど、厄介な輩がいないとは限らないから」

どこの世界にも不良っているんだな。


もう夕暮れ時なのに、町はまだにぎわっていた。しかし賑わいに目を向けるとまた確率確率で頭がパンクしそうになるため、人気が少ない路地裏に歩を進める。

『路地裏を安全に抜けられる確率:31%』

その確率の低さに、自らの歩みを止める間もなく、真正面から声がかかった。

「おう兄ちゃん。不思議な服着てんな。ちょーっと寄越せや」

齢19歳。初めての不良に遭遇。


その不良は、見た感じ、俺と同じ《丸耳族》だ。しかし《獣耳族》の血が少しだけ入っているのか、体格が一般人とは比べ物にならないほどいい。

「ぶっ!」俺の鼻に不良の拳が直撃し、後方に吹っ飛んでしまう。受け身をとる間もなく、俺は情けなく地面に転がった。

そう。このスキルの重大な欠陥を、たった今発見した。

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確率はあくまで確率。「俺がどうするか」は俺自身の意思で決められることであり、「俺がした行動の結果」、その可能性の分岐こそが「確率」なのだ。

対して、相手の行動はすべて相手の意思によって行われるものであり、俺の意思はそこに反映されない。

だからそれは「確率」の管轄外なのだ。だから確率を見て、相手が行動する前に手を打たねばならない。よって相手の行動によって自分がどうなるかなんて、確率には現れない。きっとそういうことなのだ。


「おいおい、たった一発でこれかよ。貴族はこんなによえーのか?」

貴族...?ああそうか、俺の服はまだ元の世界のもの。不良の目には物珍しく映ったろう。

だから俺を貴族と思い、金品を踏んだくろうとしたのだ。

しかし、残念だがここでやられるわけにはいかんのだよ。間違えないって決めたんだから。

俺は立ち上がり、拳で応酬する。拳を握り相手に振るう直前に、また確率が表示された。

『顔面への攻撃成功率:80%』『胴体への攻撃成功率:52%』

半ば条件反射で顔面へ拳をお見舞いする。

「ぐわっ!」予想外の反撃に男がよろめく。その隙に、脱兎のごとく俺はその場から逃げ出した。


息を切らせて宿にたどり着いた俺を出迎えたのは、驚いた顔をしたシーララだった。

「どうしたの!?鼻血なんて出して!」

「石段で転びまして...ちょっと打ちどころが悪かったようです」

ため息をついて、シーララが手招きをした。

「治したげる。こっち来て」言われるがままにシーララの方へ向かう。

彼女は俺の顔面に手を近づけ、こう唱えた。

「ヒール」

みるみるうちに鼻血が止まってゆく。鼻の血管が修復されるような、そんな感覚が走る。いくら俺でも、これが何かは分かる。

魔法だ。

「えっと...ありがとうございます」「いいえ」

「シーララさんのスキルは、回復ということですか?」

その質問に、シーララはフッと笑みを浮かべて首を振った。

「違うわ。今のは魔法。私のスキルは別にあるわ。」

なるほど。どうやらこの世界では、魔法とスキルは別物らしい。先天的に持っている技術が「スキル」で、後付けで得られるのが「魔法」なんだとか。

しかし、一握りの強者は複数のスキルを所持していたりするらしい。恐ろしい世界だ。


「今日はこの町で夜を明かすわ。明日の朝、出発ね」

あれ?なんか、一緒に冒険する流れになっちゃってませんかね。

「えっと...?一緒に、冒険するんですか?」

シーララは、「そんなことも知らなかったのか」といったような顔で首肯した。

「あなたは何も知らなそう。このまま出たらすぐに死ぬ。強制はしないけど、私と一緒に来た方がいいわ。」 確率が視えた。

『断った場合の翌日死亡率:89%』『断らなかった場合の翌日死亡率:0%』

一も二もなく俺は大きくうなずいた。

「分かりました。ふつつか者ですが、よろしくお願いします。」

シーララは、出会って一番の笑顔で手を差し出した。

「よろしくね、メルト・ロジック」

こうして、俺の異世界生活一日目は幕を閉じた。

...ちなみに、異世界でも風呂は混浴ではなかった。すごく残念だ。


名前:メルト・ロジック

年齢:19

スキル:視認式最適解

最近の悩み:異世界での不安

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