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2 はじめてのいせかい

 どうやら文明は中世止まりだな。文明の申し子、つまり俺は、気づけば平原のど真ん中に寝転がっていた。なぜそう判断したかというと、まず空気がキレイだ。排気ガスとか温室効果ガスとか、前世では身近だったものが感じられなかったからである。


「...はて。ここはどこかな」しかし問題が一つ。地図が分からない。そして地図が分からないと、どうなるか。間違いなく餓死。あるいは、この世界にそんな概念があるか分からないが、魔物に襲われる。

異世界転生一日目にヨークシャと再会することになる。それは避けたい。

ならばどうするか。情報はない。事前知識もない。自ずと解法は限られてくる。選択肢が少ないのは良いことだ。合理主義者にとっては、だが。

ええい、ままよ。俺は恥を捨て、肺に大量の空気を送り込んだ。

「すーみーまーせーん!誰か、いませんかぁぁ!」慣れない大声に、喉が悲鳴を上げる。それから二度三度、同じ言葉を叫び続けた。

すると、三回目の呼び声に、誰かが答えた。


草むらがガサガサと音を立てる。ヒュッと息を吸ってしまう。そうだ、何を勘違いしていたんだ。仮にこの世界に人間がいるとして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

もしかしたら、鬼のような異形かもしらん。言葉が通じるかどうかも怪しい。今はただ、ヨークシャが音声パッケージを付属してくれたことを祈りたい。

草むらから、長い耳がひょっこりと顔を出す。さぁ、吉と出るか、凶と出るか。


「どうしたの?」


ああ、ヨークシャ。音声パッケージを付けてくれたのか。そして確信した。

間違いなく俺は、最適解を引いた。


俺を拾った長い耳の女性。どうやら、名をシーララ・アンドルドと言うらしい。

「どうして、こんなところにいるの?ここは大陸一の平原よ。何も持たずにここにいるなんて、その...とても正気とは思えないわ」

俺はざっくりと自己紹介をした。初対面の相手には、出来るだけフレンドリーに接することが最適だと、俺は前世の経験より知っている。

...さすがに、異世界から来ましたとは言えないが。

「メルト・ロジック…このあたりでは聞かない家名ね。」さいですか。どう説明すればよいのだろうか。

俺が答えられずに黙っていると、シーララ・アンドルドはフッとため息をついて明るく言った。

「話せない事情があるのなら、追及はしないわ。」

理解ある女性はモテるぜ。沈黙は金。はっきり分かんだね。

「とりあえず、安全な場所に連れて行こうか。このあたりは強い魔物こそいないものの、蛇が多くて厄介よ。」

それは有力な情報だ。であれば、彼女の言う《安全な場所》まで、ご同行させてもらおう。

「ありがとうございます。お願いします。」

「そこに馬が止めてあるわ。後ろに乗ってもらっていいかしら。」


馬にゆらゆら揺られながら、俺たちは親睦を深めるディスカッションをした。

どうやらこの世界に国籍という概念はあまりなく、耳の形状によって種族が分けられているらしい。

シーララ・アンドルドのような長い耳を持つ人型は、《長耳族》。

ケモナー大歓喜のような耳を持つ人型、または動物は《獣耳族》。

硬く尖った耳を持つ人型、ないし動物型は《龍族》。

そして俺のような丸い耳を持つ人型を、《丸耳族》。

主にこの4つの種族に分類され、おおよそ序列も決まっているらしい。

一番偉いのは《龍族》だとか。彼女曰く、そういった身分格差の風潮は昨今は殆ど見られないらしいが、一応覚えておこう。

この4つの種族以外は、全て魔物と分類されるらしい。だから今乗っているこの馬は、言い換えるなら

《馬型モンスター》といったところか。そう考えるのが自然だ。

「にしてもあなた、本当に何も知らないのね。もしかして、教育を受けてなかったりする?」

「そうですね。今この年まで家の中に閉じこもって過ごしていたもので...浅学ですみません」

「謝ることはないけど...」そう言いながらも、彼女の態度は少し軟化する。

とりあえず謝ること。倫理的にどうかと思うが、状況が状況。これが最適解のハズだからな。


「ところで、シーララ・アンドルドさんは、どういった方なのですか?」

フルネームで呼んだら、キッと睨まれた。何故だ。地雷を踏んだか?...この世界の常識を知らない以上、このミスは仕方がないと思うんだが。

「私は...冒険者よ」

なるほど、冒険者。...リアルにその職業をしている人がいるとは思わなんだ。しかし、ここは異世界。冒険者という職業は、さほど珍しくはないのかもしれん。

そして、一つの学びだ。彼女は本名で呼ばない方が、よさそうだ。


「あなたのスキルは何?」唐突に聞こえる専門用語。スキル?そんなものがあるのか。さすが異世界、もう何でもありだ。

「えっと...スキルって、何ですか...?」

俺の返答に、今度こそ彼女は目を見開いた。

「嘘でしょ?あなた、もしかして《適正技能付与石》に触ってないの?」

てきせいぎのう...何だって?

「適正技能付与石よ!一応、全員が触れるしきたりなのに...」

するってぇとあれかい、俺にもついにスキルというものが手に入るかもしれないってことかい。

「えっと...それについて、教えてもらえますか?」

彼女は嫌々ながらも、説明してくれた。

どうやらこの世界では、生まれたばかりの子供に《適正技能付与石》を触れさせるのが当然らしい。その性格によって、それぞれ固有のスキルが手に入るそうだ。

どの町にも必ず一つは適正技能付与石が存在するため、触れてない俺はかなり異質なんだという。

「例えば、食欲が旺盛な人には、《健啖家》というスキルが付与されるの。熱血な人には《炎使い》、冷酷な人には《氷使い》、とかね。そして、大体の人が生まれ持った魔法プラスαで、独自に魔法を習得していたりするの。」

なるほど。個人の性格によってだけじゃなく、後付けの努力でも決まるのか。それは楽しみだ。俺のスキルは、一体何になるのか。

「ちょうどいいわ。もうすぐ町に着くから、そこでスキルを獲得しましょう。」


数分後。彼女はピッと細い指を立てた。

「見えたわ。あの町よ。」

彼女の指先を追ってみると、そこには確かに町があった。西洋風のレンガ造り。ここからだと良く見えないが、水車のようなものも回っている。

異世界に転生した初日にして、町を見つけた。最適解を導き出すことができた。そう思うことにする。

空気がキレイな世界って、いいよね。

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