表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/14

 幕間 シーララ・アンドルドの孤独 下

 重力弾丸(グラビティガン)と名付けられたそれは、確かに絶大な威力を誇っていた。一点集中砲火で放出される押し出す重力は、そこらへんの魔物なんて一撃で貫けるに違いない。

しかし慢心するな私。今日も、ただただ重力弾丸の威力、速度調整、または魔法に時間を費やす。

魔法を究めた人は、超高度魔法というものを使う。でも、さらに上が存在する。それがスキル。

生まれてすぐに適正技能付与石に触れてもらえるスキル、あれだ。

実はあれは魔法の完成系みたいなものだ。超高度魔法をさらに磨き上げたもの。

でも、実際スキルを二個以上持っている人なんて、それこそ《帝戒位》くらいしか知らない。


生まれてすぐ持つスキルは、精霊様の加護によって、《概念》を伴って脳に刻まれる。本来、複雑なイメージを想起しなければいけないものを、特別に《概念》という外殻を持つのだ。

でも魔法は管轄外、魔法を究めて得たスキルの扱いは魔法と同じく、気力を伴って発動される。


だから、スキルをたくさん持つ人ほどより異常であるという話だ。

兄様も、スキルをいくつも持っている。多分、6個は越えているはずだ。未来視を除いて。

兄様は確かに天才だったが、それ以前に努力家だ。私が遊び惚けている間も、兄様は修行を欠かさずに行っていた。その努力の結晶が、長耳族唯一の《帝戒位》という栄誉なのだろう。彼は天才だ天才だと持て囃されるけど、本当は違う。...いや、確かに天才ではあったけど、天才であることに胡坐をかかずに、常人以上の努力をしたのだ。なのに、彼を「努力家だ」と称賛する人間はほとんどいない。

家族…アンドルド家の人たちもだ。だから兄様は、あまり家に戻らないのだろう。そういう理由もあるかもしれない。私も、兄様の努力を知っていた。知っていたけど、知っていたうえで兄様を天才だと誉めそやした。なぜか。きっと私は、兄様を認めたくなかったのだろう。私にはない才能だったから。私はとんでもなく、愚かだった。


他の人たち...《不死戒将》ブラッデッド・コスモは純粋な龍族、《千変億化》フェイン・ルルシアンは獣耳族と丸耳族のハーフだ。長耳族のハーフなら二人くらいいたハズだけど、純粋な長耳族での《帝戒位》は紛れもなく兄様だけ。龍族や獣耳族は、人間より寿命が長い。だから、より多くの戦闘経験を積む。そのために、《帝戒位》の殆どは龍族ないし獣耳族の血が混じっている。

獣耳族は100年ほど長く、龍族に至っては2000年以上生きる個体もザラにいる。それに対して長耳族と丸耳族の平均寿命は同じくらいだ。


私は、基本戦いに武器は使わない。だから、今回《重力弾丸》という飛び道具を習得できたのは、素晴らしいことだった。やればできるんだな、としみじみと感じ入る。

滞在する期間は、予定だとあと2か月ほど。もう少し早くこの町を発ってもいいかもしれない。

修行が終わると、その次は実戦という修行だ。

目的地は今のうちに決めておこう。今は北端にいる。ここから東に行こう。東にめぼしいものと言ったら、私の家だったところしかない。あそこには近づきたくない。

だったら、あそこへ行こう。私とメルトが初めて会った草原に。 ここで移動に重力を使ったら、あまり意味がない気がする。私の努力と成長の妨げになる気がする。

だから歩いて行こう。どれだけ時間がかかっても、私はあそこに辿り着いて見せる。


夜。私は宿の部屋で、ぼんやりと窓の外を見ていた。

月がきれいだ。今日は満月、夜もいつもより少しだけ明るいように思える。

何かをしなくなった時、頭に浮かぶのはメルトのことだ。

今、彼は私と同じ月を見上げているのだろうか。生きていたら、見上げているだろうか。彼は風情といったものに、大して興味がないのかもしれない。根拠はないけど。

でも、今彼はあの月を見上げている。この大陸のどこかで。そう思いたかった。


ベッドに寝転がり、いつも通り思索にふける。思索といってもメルトのこと。今更、なぜメルトのことを考えるのかなんて疑問にも思わない。

おそらく、私はメルト・ロジックのことが好きなのだろう。異性として、私は彼に好感を抱いている。

でも、彼はそれを望んでいるのだろうか。

私に好かれることを、望んでいるのだろうか。

彼が時々私に向ける、何というか、ヤラシイ視線には気づいている。気づいている上で受容している。

視線の先にあるのは私の胸だということも、薄々察しがついている。

私は自分の胸に視線を落とす。先ほどまで見上げていた満月とは程遠い、可も不可もない双胸(ダブルオッペー)。見る価値のあるものとは思えないが。

ため息をつき、ベッドにぼすんと顔を沈める。枕に声を吸収されることを承知で、うーうー唸る。

私はどうするべきなのだろうか。

それすら考えが纏まらない中、私は眠りについていく。


夢を見た。私はメルトを見ていた。見ていただけで、遠かった。

彼は努力をしている人間だ。何かに急かされているかのように、彼はがむしゃらに努力を続けている。

剣を振り、魔法をうんうん唸りながら使い、スキルの弱さに嘆きながらも、歩みを止めることはない。

メルトはそのうち剣を振り終えて、私が見ていることに気付かず歩き去っていく。

彼の隣には仲間が二人いた。お互いがお互いを信頼し合っている様子で、あちらの方に歩き去っていく。

その瞬間、激しい感情が私の臓腑を刺激した。

そこにいるのは私。貴方たちじゃない。失せなさい。いいや、そこを退けぇ!

理不尽な怒り、嫉妬、独占欲。夢の中でも性格は健在、私は小さく自嘲の笑みを漏らす。

でも、隣の仲間が冗談を言ったのか、そちらに視線を向けて笑うメルトを見て、ちょっとだけ…


目が覚める。まだ特訓に出るような時間じゃない。長い間眠ったように感じたけど、その実小一時間ほどしか経ってなかった。


恐ろしい夢だった。そして、私が何に恐怖しているか分かった気がする。

彼がすでに死んでいるかもしれないこと?違う。彼に忘れられることが、何より恐ろしいのだ。

彼の歩みは、今に私を越すだろう。それも、そう遠くない未来に。

もし再会できたとして。

「え?…誰ですか?」 なんて言われたら。

ハッキリ言おう、立ち直れる気がしない! 重力が暴発すること間違いなし。

人の記憶が永遠だったら、こんな気持ちになることなかったのに。

正夢にならないことを祈りつつ、なんとか再び眠りの世界に落ちていく...


目が覚めた。今度は夢を見なかった。時間はおそらく、いつも特訓を始める時間。

宿の窓から、いつも通り外に出る。いつも通りではないところは、《無底の革袋》を持っていることだ。

私は、今日再び旅に出る。あんな夢を見たからには、もうここにいるわけにはいかない。しかし、急ぎはしない。道中気になるところがあればじっくりと見て、しっかりと学んで、けれどいつかは絶対に辿り着く。いつの日か、彼と肩を並べて戦えるように。彼に追い抜かれないように。

私もさらに歩みを進めるしかないんだ。


...いつか再会したときのために、私の隣はメルトの予約席にしておこう。


シーララ・アンドルドが修行で習得・進化した魔法一覧

上級回復魔法(改) 中級火魔法 上級水魔法(改) 中級風魔法 強化魔法・一式 強化魔法・二式

中級土魔法(改) 中級光魔法(改) 上級索敵魔法 上級気力探知魔法(改) 


改めて見ると、メルトのものと圧倒的なスペック差があることが分かる。





超高度魔法→スキルになる

という感覚は、分かりやすく言うとソシャゲで新規ダウンロードするだけで最高レアリティが一体無料、という感じに近いです。

初級からコツコツスキルまで積み上げる猛者もいますが、生まれた時点で一つスキルを保持しているので、大体の冒険者は一つのスキルで勝負します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ