幕間 シーララ・アンドルドの孤独 下
重力弾丸と名付けられたそれは、確かに絶大な威力を誇っていた。一点集中砲火で放出される押し出す重力は、そこらへんの魔物なんて一撃で貫けるに違いない。
しかし慢心するな私。今日も、ただただ重力弾丸の威力、速度調整、または魔法に時間を費やす。
魔法を究めた人は、超高度魔法というものを使う。でも、さらに上が存在する。それがスキル。
生まれてすぐに適正技能付与石に触れてもらえるスキル、あれだ。
実はあれは魔法の完成系みたいなものだ。超高度魔法をさらに磨き上げたもの。
でも、実際スキルを二個以上持っている人なんて、それこそ《帝戒位》くらいしか知らない。
生まれてすぐ持つスキルは、精霊様の加護によって、《概念》を伴って脳に刻まれる。本来、複雑なイメージを想起しなければいけないものを、特別に《概念》という外殻を持つのだ。
でも魔法は管轄外、魔法を究めて得たスキルの扱いは魔法と同じく、気力を伴って発動される。
だから、スキルをたくさん持つ人ほどより異常であるという話だ。
兄様も、スキルをいくつも持っている。多分、6個は越えているはずだ。未来視を除いて。
兄様は確かに天才だったが、それ以前に努力家だ。私が遊び惚けている間も、兄様は修行を欠かさずに行っていた。その努力の結晶が、長耳族唯一の《帝戒位》という栄誉なのだろう。彼は天才だ天才だと持て囃されるけど、本当は違う。...いや、確かに天才ではあったけど、天才であることに胡坐をかかずに、常人以上の努力をしたのだ。なのに、彼を「努力家だ」と称賛する人間はほとんどいない。
家族…アンドルド家の人たちもだ。だから兄様は、あまり家に戻らないのだろう。そういう理由もあるかもしれない。私も、兄様の努力を知っていた。知っていたけど、知っていたうえで兄様を天才だと誉めそやした。なぜか。きっと私は、兄様を認めたくなかったのだろう。私にはない才能だったから。私はとんでもなく、愚かだった。
他の人たち...《不死戒将》ブラッデッド・コスモは純粋な龍族、《千変億化》フェイン・ルルシアンは獣耳族と丸耳族のハーフだ。長耳族のハーフなら二人くらいいたハズだけど、純粋な長耳族での《帝戒位》は紛れもなく兄様だけ。龍族や獣耳族は、人間より寿命が長い。だから、より多くの戦闘経験を積む。そのために、《帝戒位》の殆どは龍族ないし獣耳族の血が混じっている。
獣耳族は100年ほど長く、龍族に至っては2000年以上生きる個体もザラにいる。それに対して長耳族と丸耳族の平均寿命は同じくらいだ。
私は、基本戦いに武器は使わない。だから、今回《重力弾丸》という飛び道具を習得できたのは、素晴らしいことだった。やればできるんだな、としみじみと感じ入る。
滞在する期間は、予定だとあと2か月ほど。もう少し早くこの町を発ってもいいかもしれない。
修行が終わると、その次は実戦という修行だ。
目的地は今のうちに決めておこう。今は北端にいる。ここから東に行こう。東にめぼしいものと言ったら、私の家だったところしかない。あそこには近づきたくない。
だったら、あそこへ行こう。私とメルトが初めて会った草原に。 ここで移動に重力を使ったら、あまり意味がない気がする。私の努力と成長の妨げになる気がする。
だから歩いて行こう。どれだけ時間がかかっても、私はあそこに辿り着いて見せる。
夜。私は宿の部屋で、ぼんやりと窓の外を見ていた。
月がきれいだ。今日は満月、夜もいつもより少しだけ明るいように思える。
何かをしなくなった時、頭に浮かぶのはメルトのことだ。
今、彼は私と同じ月を見上げているのだろうか。生きていたら、見上げているだろうか。彼は風情といったものに、大して興味がないのかもしれない。根拠はないけど。
でも、今彼はあの月を見上げている。この大陸のどこかで。そう思いたかった。
ベッドに寝転がり、いつも通り思索にふける。思索といってもメルトのこと。今更、なぜメルトのことを考えるのかなんて疑問にも思わない。
おそらく、私はメルト・ロジックのことが好きなのだろう。異性として、私は彼に好感を抱いている。
でも、彼はそれを望んでいるのだろうか。
私に好かれることを、望んでいるのだろうか。
彼が時々私に向ける、何というか、ヤラシイ視線には気づいている。気づいている上で受容している。
視線の先にあるのは私の胸だということも、薄々察しがついている。
私は自分の胸に視線を落とす。先ほどまで見上げていた満月とは程遠い、可も不可もない双胸。見る価値のあるものとは思えないが。
ため息をつき、ベッドにぼすんと顔を沈める。枕に声を吸収されることを承知で、うーうー唸る。
私はどうするべきなのだろうか。
それすら考えが纏まらない中、私は眠りについていく。
夢を見た。私はメルトを見ていた。見ていただけで、遠かった。
彼は努力をしている人間だ。何かに急かされているかのように、彼はがむしゃらに努力を続けている。
剣を振り、魔法をうんうん唸りながら使い、スキルの弱さに嘆きながらも、歩みを止めることはない。
メルトはそのうち剣を振り終えて、私が見ていることに気付かず歩き去っていく。
彼の隣には仲間が二人いた。お互いがお互いを信頼し合っている様子で、あちらの方に歩き去っていく。
その瞬間、激しい感情が私の臓腑を刺激した。
そこにいるのは私。貴方たちじゃない。失せなさい。いいや、そこを退けぇ!
理不尽な怒り、嫉妬、独占欲。夢の中でも性格は健在、私は小さく自嘲の笑みを漏らす。
でも、隣の仲間が冗談を言ったのか、そちらに視線を向けて笑うメルトを見て、ちょっとだけ…
目が覚める。まだ特訓に出るような時間じゃない。長い間眠ったように感じたけど、その実小一時間ほどしか経ってなかった。
恐ろしい夢だった。そして、私が何に恐怖しているか分かった気がする。
彼がすでに死んでいるかもしれないこと?違う。彼に忘れられることが、何より恐ろしいのだ。
彼の歩みは、今に私を越すだろう。それも、そう遠くない未来に。
もし再会できたとして。
「え?…誰ですか?」 なんて言われたら。
ハッキリ言おう、立ち直れる気がしない! 重力が暴発すること間違いなし。
人の記憶が永遠だったら、こんな気持ちになることなかったのに。
正夢にならないことを祈りつつ、なんとか再び眠りの世界に落ちていく...
目が覚めた。今度は夢を見なかった。時間はおそらく、いつも特訓を始める時間。
宿の窓から、いつも通り外に出る。いつも通りではないところは、《無底の革袋》を持っていることだ。
私は、今日再び旅に出る。あんな夢を見たからには、もうここにいるわけにはいかない。しかし、急ぎはしない。道中気になるところがあればじっくりと見て、しっかりと学んで、けれどいつかは絶対に辿り着く。いつの日か、彼と肩を並べて戦えるように。彼に追い抜かれないように。
私もさらに歩みを進めるしかないんだ。
...いつか再会したときのために、私の隣はメルトの予約席にしておこう。
シーララ・アンドルドが修行で習得・進化した魔法一覧
上級回復魔法(改) 中級火魔法 上級水魔法(改) 中級風魔法 強化魔法・一式 強化魔法・二式
中級土魔法(改) 中級光魔法(改) 上級索敵魔法 上級気力探知魔法(改)
改めて見ると、メルトのものと圧倒的なスペック差があることが分かる。
超高度魔法→スキルになる
という感覚は、分かりやすく言うとソシャゲで新規ダウンロードするだけで最高レアリティが一体無料、という感じに近いです。
初級からコツコツスキルまで積み上げる猛者もいますが、生まれた時点で一つスキルを保持しているので、大体の冒険者は一つのスキルで勝負します。




