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11 されど其れは、悠久などかくあらん

 目を開けると、そこは知らない天井だった。起き上がろうとすると、胸に鋭い痛みが走った。

なぜこんな傷がついたんだったか...?

あぁ、思い出した。《不死戒将》ブラッデッド・コスモと戦った時についた傷だ。

超高度回復魔法《モストヒール改》のロップスクロールが切れたときに受けた傷か。あのときは無我夢中だったせいか、先ほどまで失念していた。

というか、なんでこんなところにいるんだっけか。えーと、一発加えて、勝って、コスモが去って…

そうだ、誰かに拾われたんだった。誰だったか…嫌いな奴ってことは覚えてるんだが。


ガチャ。ドアが開いたような音が響く。胸の傷が痛むため、ドアの方に首を回すことはできない。

「お、起きてら」 そいつは、ベッドに寝転がっている俺の真上に、ひょいと顔を表した。

ああ。そうだったそうだった、こいつに拾われたんだった。

《帝戒位》序列九位、フェイン・ルルシアン。

「まったく、俺に感謝してほしいよ。君がなんでかあんな平野のど真ん中で死にかけてんだもん、知らない人だったら見捨てていたよ」

言い方はいちいち癪に障るが、助けてもらったことは事実だ。素直にお礼を言うことが最適解だと判断したうえで、俺は頭を下げる。

「助かった、ありがとう」

俺の殊勝な態度に、フェイン・ルルシアンの眉が少し下がる。

「で、聞かせてくれるよね?何があったか。」


俺は洗いざらい話した。

ゾルダート・アンドルドからの命令のこと。森での決戦開始のこと。ボコボコに、成すすべなくやられたこと。ゾルダート・アンドルドからもらった、《転移魔法・零式》のロップスクロールでここに飛んできたこと、条件付きではあるが勝利を収めたこと。

散歩の途中に俺を拾った(真偽不明)のフェイン・ルルシアンはうんうんと大して驚いた様子もなく聞いていたが、俺が戦ったのが

《帝戒位》の序列六位である、ブラッデッド・コスモだと話すと目を丸くして驚いた。

「コスモと戦ったぁ!?なんで生きてるんだよ、奇跡だよ..」

生きているというか、生かされているというか。 現に、コスモはいつでも俺を殺せたんだ。

「フルボッコでしたけどね。魔道具とか罠もフル活用したのに、関係なく蹂躙されましたから」

当たり前だというように、フェイン・ルルシアンは捲し立てる。

「そもそもね、《帝戒位》と戦うこと自体がイカれてるんだって。普通に考えて、君みたいな数字しか視えないヤツに敵う相手じゃないって。」

言い過ぎじゃね?

あとお前も帝戒位だろうが。


一番の心配は、シーララさんだ。彼女は強いから大丈夫なんだろうけど、うーむ。

ちょっとだけ下衆な欲を言うなら、もうちょっと俺がいないことに寂しがってもらいたいところだ。

なわけないか。

フェインの声で、現実に引き戻される。

「で、だ。君はこれからどうするわけ?」

俺が、どうするか。俺はどうしたいんだろうか。

そもそも、俺が強ければこんな選択、選ぶ必要なかったのだ。過去を悔やむのは最適解ではないことぐらい、分かっているつもりなんだが...


「強く成りたいです。今度はコスモに負けないぐらいに」

期待通りの答えだったようだ。彼はニヤリと笑って首肯した。

「じゃあ、俺が稽古をつけてあげよう。」

寝耳に水、俺はびっくり仰天した。この男が、俺に稽古をつけるとな。

「感謝しなよ?《帝戒位》直々に稽古を加えてもらえる機会なんて、殆どの人にはないんだから。」

そうだろう。《帝戒位》は冒険者の中での上位10人だけなのだ。

その中の、九位とはいえ一人に稽古してもらえるなんて、願ってもないこと。断る理由はナッシング。

「よろしくお願いします、九位さま」

「順位で呼ぶのやめーや」


かくして、俺は《帝戒位》九位、《千変億化》フェイン・ルルシアンの弟子となった。

翌朝から、フェインの猛特訓が始まった。

朝は日が昇る前に起きて、剣の特訓。互いに木刀で立ち会い...のハズなんだが、なぜかフェインだけ真剣を使っている。

アレは間違いない、殺す気だよ。

3時間ほど立ち会いをしたら、次は魔法の練習。確か魔法は、人の身体に流れるエネルギーの流動、《気》によって実現するんだったか。

だからこの世界には、気力切れはない。魔法を撃てる回数は無限大だ。

しかし魔法には、イメージを要する。俺は想像するのが苦手だ。フェインに、初級回復魔法以外使えない旨を述べたら、笑顔でぶん殴られた。

アレは間違いない、サイコパスの素質があるよ。

だって難しいんだもん。高度な魔法であればあるほど、イメージも複雑で難解になっていく。

イメージのイメージとしては、QRコードを頭の中で0から思い浮かべる感じだ。

とりあえず、バカみたいな難易度って思ってくれればいい。

剣が上達しない…次シーララさんに会った時、俺は彼女の隣に立てるのか…

でもまぁ、今はフェインを信じてみよう。あれでも帝戒位だ。


魔法の練習は、大体昼過ぎに終わる。

「強く成りたいなら、獲った魔物を喰らうべし」 というフェインの謎の持論によって、俺はゴブリンやらなんやらの肉を食べ続ける。ちなみにその持論の提唱者は、俺の横で焼いた豚肉を食っていた。

午後からは、再び立ち会い。しかし剣だけではなく、魔法もありの特訓だ。

腕とかがもってかれても治してくれるらしいけど、できればもっていくのは辞めてもらいたいところだ。


或る夜、俺はふとフェインに聞いた。

「あんたら《帝戒位》は、どういう基準で戦ってるんだ?」 フェインは俺に目を向けずに答えた。

「多数派の理想の世界にしたいからね。」 意味は分かるが、分からない。

「というと?」

「今、《帝戒位》は二つの派閥に分裂しているんだよねぇ。」 派閥。初耳だ。

「まぁ、俺も全員のこと知ってるわけじゃないけど」そういい、彼は続ける。

「この大陸を武力で併合し、権力を一点に集め、そこから国家全体に富を分配するべきと主張する派閥と、特に緊縛することなく、自由に生産性を高め、自然な形で富を分配すべきと主張する派閥だね」

なるほど。武力主義か、自由主義か、ということか。

「でも、富を分配するっていう目的は同じじゃないか。何が違うんだ?」

ちっちっち、と彼は指を横に振る。分かっていないなぁ、とでも言うように。

「結果何てさほど重要じゃないんだよ。大事なのはそこに至るまでの過程だ。結果は、行き当たりばったりでも出るもんだ。でも、過程なんてものは、それを考え続けていないと出ないんだよ」

その意見は、妙にストンと腑に落ちた。

「フェインはどっち派閥なんだ」半ば答えを予想しつつ聞く。

「俺が武力なんて扱えるガラだと思うかい?」 思わないね。


朝、起き、特訓。昼、特訓。夜、特訓、寝る。魔法と剣技とスキルの幅を、まんべんなく伸ばし続けて、いつの間にか半年が過ぎた。

俺はいつも通り、フェインとの立ち会いに臨んだ。

「行くぞ、フェイン。今日こそ一本取らせてもらう」今日は真剣だ。《不死の刀》を構える。

あの頃のような、不安定な構えではない。芯がはっきりと通った、まさしく剣士の構え。

一歩、踏み込む。足に力を充填し、推進力と爆発力で飛び掛かる。

フェインの攻撃パターンは知っている。いなしていなして、そしてこっちの動きが乱れた瞬間を見計らってキメに来る。

だから今日は、いなさせない。俺の一撃、初撃で決める。

この半年で広げた魔法の幅。今や俺が扱える魔法は、物理魔法では収まらない。

「強化魔法一式、《ブースト》」 気のイメージは、足に広がる血管の一本一本、その末端まで気力を巡らせること。

足から爆発的な推進力が生まれ、それは空気抵抗さえも振り切って地を駆ける。

「はっ!」

フェインの剣が、俺の一撃をいなそうと横に逸れる。

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あえて受け流しに沿うように。

受け流しは基本、相手がその流れに逆らうことでその真価を発揮する。

「む」 フェインがやりづらそうに眉を寄せる。

俺は床にゴロゴロと転がり、フェインの後ろをとる。

スキルを発動し、反応される確率を計算。23%と出た。ならば、いける。

俺は渾身の力で刀を振りぬき、


「一本…取りました」


俺はフェインから、ついに一本を取った。


その日の夜、俺はいつもの小屋の中で、フェインに勘当された。

いや、勘当というか、アレだ。巣立ち(強制)みたいなものだ。


「もう、君は《帝戒位》から一本取れたんだ。手加減の極みでもね。冒険者として上の下くらいの実力だと思うよ。まぁ、なんせ《帝戒位》たる俺が稽古したからに他ならないんだけどね!」

「俺は、どこに行けばいいんですか?」

フェインは、俺を嘲笑するように目を細めた。

「それは君が一番分かってるはずだよ、メルト・ロジック。だろ?君だって、《まだシーララさんに会えない》ってことくらい分かってるでしょう?」

その通りだ。確かに強く成った。強く成ったが、しかしそれでもきっと、俺はシーララさんに追いついていない。

まだ、シーララさんには会えない。俺がもっと強く成り、俺がシーララさんと肩を並べられるまで、会うつもりはない。

「今んとこの目標は、《不死戒将》コスモとの再戦だ。それまで気ままに旅をして、仲間を見つけて強く成るとするよ。」

俺はそういい、腰かけていた椅子から立ち上がった。

そして頭を下げる。他の誰でもない、俺を救い、俺を鍛えてくれたフェイン・ルルシアンに。


「お世話になりました。」


彼はふいっと顔を背けて言った。

「当然だよ」


俺は彼に背を向け、小屋の出口まで歩いて行った。もう振り返らない。そう決めていた。

「また会うかもな」 彼はポツリとそう言った。いつものヤツらしくない、真面目な声音だった。

俺は背を向けたまま言った。

それ(会うこと)が最適解なら、いつでも会いに行きますよ」

小屋のドアを開ける。冷たい夜風が身に染みる。


迷いを振り切るように、俺は《強化魔法・一式》を足にかけて走り去った。

あっという間に平野が見えなくなり、知らない森を追い越した。


そして息が切れ、足を止める。鬱蒼とした森。

俺は孤独になった。


第一章 『日は堕ち、又昇る』完


                   次章へ続く

一章おわたどー!

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