ロングコートアーミー 2 It is Tokyo.
西新宿オフィス。五階にある武器庫で天津と伊月は身支度をはじめていた。二人は抗弾ベストを二つテーブルの上に置き、弾薬保管ケースから五・五四ミリ×四五ライフル弾とOOバックの散弾を数ダース、箱ごとテーブルの上に並べた。
天津はベンチに腰掛けていつも履いているパンプスを脱ぎ、自分のロッカーから出したコンバットブーツに履き替えた。靴紐を結び終えると、天津は室内の一番奥にあるロッカーの鍵穴に自分用の鍵を差し込んだ。そして、縦長の堅牢な金属ロッカーから若紫色の布に包まれた刀を取り出す。
解かれた布から出てきたのは、日本刀を模した地味な拵えの軍刀だった。ステンレス製の柄にテニスラケット用のグリップテープを巻き、つや消黒に塗られた金属製の鞘に収められた、なんの意匠もない刀身二尺足らずの短刀である。
「そんなもの持っていくのか?」
ミニ14ライフルの弾倉に銃弾を押し込んでいた伊月が、刀を見て言う。
「備えあればよ。もしかしたら室内戦という事もありえるでしょ? いつも使ってるのは東北に置いてきちゃったから、すぐ使えればいいけど」
天津はそう言って柄に手をかけ、鞘から刀身をゆっくり引き抜いた。直刃の波紋が浮いた、合金製の刀身が現れた。機会研磨され、くすんだ金属色の光沢を放つその刃は、美しさや美術的価値など全く考慮しない、ただ人間を斬ることだけに特化したものだった。天津が刃筋を蛍光灯にかざすと、刀身に塗られた防錆用鉱物油が虹色の光を反射させた。
「しばらく使っていなかったけど、刃は綺麗ね。良く研がれてる」
天津は刀身を裏返し裏表の刃を検めると、刀を鞘に納めた。
「もしかしたらマシェット(山刀)を下げてく事になるかもしれないと思ったけど、よかった。装備課のおじさんに感謝しないと……」
天津はそう言って、ガンロッカーから黒い樹脂製のライフルストックを持つベネリM1スーパー90セミオート・ショットガンを引っ張り出した。臨時の報告のつもりでの帰京だったので、使い慣れているセミオート式のレミントンは刀と一緒に東北に置いてきてしまっていた。それ故、今回は同じくセミオート式のベネリ社のM1を使う事にしたのだ。
「本当に来る気か? せっかくの貴重な休養だ、家に戻ってゆっくりするべきだ」
ショットガンを抱えている天津に伊月は厳しい表情で言った。天津は笑う。
「ありがとう、伊月君。でもね、私もロングコートアーミーの端くれよ。それに今回の召集、きっと秋葉原事件のあれでしょ?」
伊月は返答しなかった。
「もしそうなら、笠木君にやれと言った私が行かない訳にはいかないわね」
伊月は益々不愉快になった。それと同時に、間の悪いタイミングで元特捜班のメンバーに非公式召集をかけた笠木に対して、いつにも増してふつふつと怒りが沸き起こってきた。
「ならば、好きにしてくれ……」
伊月は顔を背ける。
天津が腰に刀を下げ、ショットガンに装弾を終えると、二人は装備を手に足早に武器庫を後にした。
同じ頃、笠木も、関口を連れて晴海事務所の最も大きい装備保管庫へとやってきた。そこは連合保安局が保有する東京で最大の武器庫で、局員からは「ザ・トレジャーハウス(宝物庫)」という名前で呼ばれていた。
スチールのロッカーが幾列も並ぶ間を、二人は足早に縫って目当ての一つを見つけ出した。装備課から借りた鍵でロッカーを開け、笠木は、透明のビニール袋に包まれた短い散弾銃を取り出し、関口へと手渡した。
「これを持ってってね」
笠木は再びロッカーを閉めると、倉庫の隅にある作業テーブルで、自分のショットガンから弾を抜いて、バラバラに分解をはじめた。
笠木に促されて関口がビニール袋を解くと、中からは不恰好なソードオフ・ショットガン(銃身と銃床を短く切り詰めた散弾銃)が姿をあらわす。
「関口。どうやら君の射撃は最悪らしいから、護身用にはベレッタじゃなくてにこれを使え」
それは、銃身とその下のマガジンチューブをぎりぎりまで短くし、ライフルストックを取り外してピストルグリップを装着した、レミントンのM1100セミオート・ショットガンだった。
「レミントンのセミオートを切り詰めた銃で、去年までマフィアの殺し屋フィリップ・ルケスが使っていた改造銃だ。僕らは〈オート・ルパラ〉って呼んでる」
笠木はその短いショットガンの機関部をばらすと、ボルトにガンオイルをスプレーしてクロスで磨き始めた。
「嫌ですよ。殺し屋の銃なんて……」
「そう言うなよ。マガジンに三発、薬室に一発、合わせて四発まで装填できる。至近距離からバックショットを4発も喰らって立っていられる奴なんていないよ。それに銃身には絞りがないから、近距離でもすぐ弾が拡散し広範囲を攻撃できる。どんな下手クソでも絶対に的に当たる」
「はぁ……」
笠木は銃の可動部分に潤滑油をスプレーして再度組み立て直した。笠木はそのソードオフと自分のショットガンの点検を終えると、机の上にあったショットシェルを銃に押し込んだ。
二人が身支度をしていると、そこへワイシャツの上に抗弾ベストを着た同僚の保安官が駆け込んできた。
「おいブラディ、広報部の奴がロビーに来てるぞ。大丈夫なのか?」
笠木はため息をついてうなずいた。
「来やがったか……」
笠木はゴキブリでも見るような目つきで天井を見上げると、関口をその場に残して慌てて〈宝物庫〉から出て行った。
笠木がエレベーターホールから姿を見せた時、渉外広報部所属の保安官は三人とも思わず顔を見合わせて、半歩あとざすった。三人の前に出てきた笠木は上着もコートも身に着けず、チョッキの上に直接ショルダーホルスターを背負っただけの格好で現れた。左わきの下にある大きなオートマチックが剥き出しの状態で、拳銃を固定するフラップのボタンが外されていた。オフィス内ではこんな格好をしている職員は大勢いるし、特に咎め立てされる行為ではなかったが、笠木という剣呑な男が銃を剥き出しの状態で、行く手を塞ぐように立ちはだかったので、広報部の三人は緊張して顔を引きつらせた。
笠木は自分の評判を考え、敢えて上着とコートを脱いでロビーに出たのだが、思惑が当たりすぎて良かったと思う反面、少し憂鬱にもなった。どうやら、自分は相当信頼が無いらしい……
最初に口を開いたのは広報部の保安官だった。
「笠木三等保安官、故あって関口保安官補に出頭を求める。貴官は、関口保安官補の居場所を知っているな? ここに連れて来たまえ」
笠木は首を振った。
「ん~、残念。保安官補にはこれから特別捜査に協力してもらう事になっています。出頭はその後という事で…… その旨、シュルツ部長にお伝えを」
「それはできない。彼には午後九時から行われる記者会見に出席してもらわなければならない。これは総督府の命令でもある」
笠木は手にしていた封筒を掲げた。
「逮捕状だ。六時間待てば謝罪会見が勝利宣言に変わる。おめおめとマスコミのなぶり者にのを、シュルツも望んじゃいないでしょう?」
三人は表情を険しくして笠木を睨みつけた。その時、男の懐から携帯電話の着信を知らせるブザーが鳴った。
「笠木保安官、シュルツ部長が貴官に直々におっしゃりたい事があるようだ」
笠木は相手との間合いを詰めすぎないように手を伸ばして電話を受け取った。電話の向うのシュルツは、相変わらず冗談めいた言葉で口火を切った。
『やぁ、君にはいつも面倒をかけさせられるね。関口君には武蔵春日までわざわざ、こちらから迎えをやったというに……』
なるほど、この三人はわざわざ武蔵春日まで不毛なドライブをしてきたから不機嫌そうなんだなと、笠木は合点した。
「それは、残念でした。いずれにせよ、関口は日付の変わらぬうちにそちらへ引き渡します」
シュルツは日本語で、小学生を諭すような口調で言った。
『ブラディ、君の一生懸命な姿には私も感心している。ただ、物事には適切な時期というものがある。電話越しにも聞こえるかな? 本庁舎の周りに集まった市民やマスコミをなだめるチャンスは今をもって他にない。もし、事態が沈静化しなければ…… 更に悪いオプションが浮上してくる』
笠木には、丸の内界隈に集まったマスコミ、抗議団体の姿がありありと想像できた。
『明日までに事態が鎮まらない場合、機動部隊の警備出動もありえるそうだ』
実力による世論の沈静化は総督府と保安局双方にとって最悪の選択肢だった。事態の深刻さは笠木自身も正しく認識しているつもりだが、笠木は敢えて鼻で笑ってみせた。
「ではそれを晩秋の夜の夢に変えて見せます。それに…… 今窓からご覧になっている連中は『市民』なんて大層なものじゃないですよ。彼らみたいなのを、まさしく『大衆』っていうんです」
『あいにく君に社会科の授業をしてもらうべき時ではない』
一拍間を開けてからシュルツは続けた。
『よかろう…… だが、理由の如何を問わず失敗は許されない。無論、君はただでは済まない。その覚悟はできているかね?』
その重い言葉を聞いた笠木は笑い出す。
「もし本当にクビにしてくれるんなら、私は喜んで失敗しますよ。とにかく、会見の準備をしておいてください」
笠木はそう言って電話を係官に放り投げた。慌てて電話を受け取った係官は通話状態のままの電話を耳に当て、なにやら相槌を繰り返す。残り二人の保安官は訝しげに笠木を睨んでいたが、笠木はすでに緊張を解き、遠慮なく欠伸をした。
「はい…… わかりました。……そういうご判断でしたら」
電話を切り、敵意のこもった視線だけを残して立ち去る渉外広報部の三人の背中を見送り、笠木は腕時計を覗いた。自分が召集に指定した時刻になっていた。
エントランスの角に設けられたの待合休憩コーナーのテレビがつけっぱなしにされ、すっかり静かになったエントランスホールに音のみが響き渡っていた。夕方のニュース番組のヘッドラインとして秋葉原事件についての放送がロビーに木霊した。
「今日も首都圏の各地で、連合保安局と世界連合に対する不満の声が上がっています。そこでテレビ関東では、総督府市民を対象に秋葉原事件を起こした関口保安官補に対する処分について、電話によるアンケートを行い、千人中、七百三十六人から回答を得ました。結果はご覧の通り、およそ七割以上の市民が『連合保安局の処分は甘すぎる・ややあますぎる』という回答を出しています。また……」
笠木は目を細め、つけっぱなしのテレビを冷ややかな視線で見つめた。
笠木が予定より十分遅れて会議室に姿を現したとき、室内には二十人以上の保安官が詰め掛け、熱気に満ちていた。笠木が演壇につくと、それまで雑談に興じていた保安官達が一斉に笠木の方を向いた。皆一様に長い丈のコート着た、かつて同じ対ギャング掃討チームに所属していた同僚達だった。
部屋の右後ろの隅の方で、天津がにっこりと笑って軽く手を振った。その横には伊月が怖い顔で笠木を見据えていた。その後ろに隠れるように、落ち着かない様子で関口が座っている。
笠木は、東京に居ないはずの同僚の姿に驚き、しばし絶句した。そして、伊月の嫌悪を視線の意味を悟り、自分のタイミングの悪さに嫌気が差した。
会議室の戸口に、村岡と組織犯罪対策部長の保坂が顔をのぞかせたので、笠木は硬い表情のまま、気を取り直すように一度だけ深呼吸してから、演壇のマイクのスイッチを入れた。
「お集まりの皆さん。お忙しいところ、急な召集要請に応えてもらいありがとう。まずは報告致します。我々は、現在自治警と保安局が最重要強行犯として全力で追跡している、秋葉原・電気店強盗殺人事件の犯行グループ特定に成功いたしました」
笠木の報告に会議室は一斉にどよめきたった。
「それって、確か温の金庫番も殺った奴だよな?」
「自治警より早く捕まえられるぞ」
「やったな! 今すぐ片付けよう」
一斉に騒ぎ出すかつての同僚達を両手でなだめながら、笠木は続けた。
「現在、我々はその動向を完全に把握しています。よって今夜、臨時特捜犯を編成して奴等を押さえる」
室内を拍手と口笛が満たした。笠木は演壇にあるノートパソコンとプロジェクターの電源を入れた。演壇の横にある吊り下げ式の白いスクリーンには、地図と倉庫の写真が映し出される。
「目白の馮祥煕が殺され、温山栄の組織の現金と無記名債権が強奪された事件。我々は温山栄の動向を監視し、彼らが犯行グループに報復しようとした現場を押さえた。それが十八時間前。温の手下の切り込み隊長である謝国忠から得た情報によれば、容疑の主犯は台湾国籍の喬拓明。三十二歳、住所不定、無職。この男を主犯とする無頼漢のグループは今年の初めから首都圏各地で窃盗、強盗等の犯罪を重ね、既存の犯罪組織の守るテリトリーに拘らず、東京中を荒らし回った。この事から従来の犯罪組織とは関連を持たない独立グループと推定される」
スクリーンには、長髪に無精ひげを生やした目つきの悪い男が映し出された。街中で隠し撮りしたらしく写真で、ガラの悪そうな若者と共に繁華街のアーケードを練り歩く様子が映されていた。その写真は、笠木が謝国忠から取り上げた物だった。
保安官達は食い入るように写真を見つめた。
「関口君、あの男に見覚えはある?」
天津はスクリーンを指して尋ねた。関口は、あの無限にも感じられるくらい長かった僅か数分間の出来事を反芻しながらスクリーンを凝視した。マスクで顔を覆っている者、サングラスを掛けている者…… 記憶にある光景とスクリーンに映った人物とは、一致するものがなかった。
「ちょっと判らないですね。多分、違うような…… あれ?」
関口はそう言いかけて、視線がスクリーンの一点に吸い寄せられた。取り巻きの一人として喬の右後ろに写っている、サングラスに黒いジャンパー姿の男に、秋葉原で対峙したグレネードランチャー男の顔の輪郭が重なった。
「間違いない、あいつだ……」
スクリーンは切り替わり、次の写真を映し出した。
「ただ、敵は単独のギャンググループにしては高度な技術と武装を有している。目白の事件でもそうだったが、ホームセキュリティや店舗のセキュリティシステムを無力化して侵入する技術を持ち、最低でもアメリカ製M79型の装填式擲弾筒に相当する火器で武装していると推定される」
会議室には唸り声や驚きの声があがる。
「ただのストリートギャングにしては大げさな武器ね」
天津の呟きに、伊月が軽くうなずく。
「ああ、少なくとも何人かは生かして捕えなければ出所が判らないな」
「はいはい、諸君、お静かに」
再び、ざわついた室内を笠木はなだめる。
「現在、喬拓明率いるこのグループは興龍幇の報復を恐れ、自分達を庇護する組織を探している。実際に、長い間興龍幇と対立状態にある六本木の黄文貴の元へ、喬拓明が自分達を臨時の戦闘員として雇い、興龍幇に攻勢をかけるよう提案しているという事実を確認した」
「クレイジーだぜ……」
最前列に座っていた外国人保安官がぼやく。
「だが、幸か不幸か黄は抗争を望まなかった。それどころか、黄は喬一派の提案を断ると同時に、一連の事情を興龍幇へ説明するという、驚くべき対応を示した。目下、各々の犯罪組織は情勢の安定化に必死になっている状況下では、喬達はまさしく四面楚歌といっていい」
そこまで説明したところで、保安官の一人が手を上げた。
「一つ聞きたい。黄から情報を得た温山栄は激怒したに違いない。面子にこだわるあの爺ぃだったら、意地でも自分の手で報復しようとするだろうが、現状でその動きを封じる必要はないのか?」
笠木はうなずいた。
「まさしく、あのご老体ならそうするだろう。だが先程説明したように、我々は温の子飼いの謝国忠以下、虎の子のソルダーティ(戦闘員)二十人の身柄を押さえている。戦力が不十分な今、喬一派を攻撃することは極めて危険だ。また、見方を変えれば、仮に温が残りの構成員を束ねて戦争に打って出た場合、喬拓明だけでなく温山栄にも引導を渡す絶好の機会が訪れることにもなる」
さらりとそう説明する笠木対し、からかいとも称賛ともとれる口笛がいくつか鳴った。
「オーライ、さすが〈血まみれ〉だぜ」
質問した保安官はそう言ってニヤリと笑いながらうなずいた。笠木は苦笑いしながら、居心地悪そうに再び聴衆を制した。
「さて、作戦概要に移る。今夜、急襲するのはこの倉庫。京浜島にある華人所有の大型物流倉庫だ」
「なるほど、敵の十八番が家電泥棒ともなると、納得だな……」
伊月の隣に座っていた保安官がスクリーン上の写真と見取り図を見ながらつぶやく。
「鉄筋総二階建てで、一階部分の床から天井までは七メートルほど。出入り口は正面にトラック用に大型シャッターと通用口、建物裏には一階と二階に作業員用の通用口がそれぞれ一箇所。二階部分へは通用口脇の外階段が設けられている。道路に面する東側正面以外には大型の窓が複数ある」
スクリーン上の画像が、京浜島を俯瞰で捉えた衛星写真に変わった。
「グループは興龍幇の報復を警戒し、現在武器と人を集めており、激しく抵抗する事が予想されるので、突入は急襲をもってしてのダイナミックエントリー。突入チームは道路側正面をA班、後方通用口をB班とし、A班の合図で同時に突入。目標倉庫の両サイドと道路正面の建物屋上には都市警備部の狙撃班が待機し、敵による窓からの反撃と逃走を牽制する」
笠木はそこまで説明してからスーツの内ポケットから白い封筒を取り出し、一枚のプリント用紙を広げた。
「尚、先程説明したように敵は高度に武装化されており、極めて凶悪な犯行を重ねてきたプロの犯罪者達だ。よって武器自由使用、無制限射殺を許可する。無論、法務局の許可も得ている」
笠木は法務局長のサインが記された許可書を一同に掲げた。
「ただし、喬拓明を含むリーダー格の三人。そのうち最低一人は何としても生け捕りにするように。最後に、今回の作戦は秋葉原事件の重要容疑者の制圧が目的の為、総督府や自治警、マスコミも強い関心を持っているので失敗は許されない。また、渉外広報部のシュルツ部長から、マスコミ対策に細心の注意を払うよう直々のご命令があった」
事情を知っている保安官達は苦笑いした。中にはブーイングをする者までいる。
「そういう訳で、今や時の人となった関口保安官補には、特別にA班の前衛として参加してもらう事になった」
室内の好奇の視線が、驚きであんぐりと口を開けている関口へと集まった。
「ちょっと、冗談はよしてください! 確かに連れてってくれとは言いましたが、まさか前衛なんて無理ですよ!」
驚きと興奮で顔が真っ赤になった関口の抗議を、笠木は笑いながらなだめる。
「まぁまぁ、前衛といっても形だけだから。関口のフォローとしてバディは伊月保安官、できれば君にお願いしたいんだけど」
伊月は驚かなかった。大方予想できた事だった。正直なところ、関口のような未熟な者とのツーマンセルはたとえ訓練であっても願い下げであったが、関口本人と日頃机を並べて働いている者として、自分と笠木それに天津以外に適任はいないと思われた。
「仕方あるまい…… いいだろう」
伊月は笠木から顔を背けたまま同意した。
「ありがとう。それから言い忘れてたけど、突入後タイムラグ三十分で、広報からマスコミに突入の事実が伝えられる手筈となっている。報道陣が現場に到着した際には、最大限の効果を演出するように。以上がシュルツから御伝言ね」
笠木が説明を終えると、保坂部長が演壇へとやってきた。
「諸君、忙しい中、臨時特捜班の召集に応えてくれて感謝する。笠木から説明があったとおり、現在保安局は極めて厳しい局面に立たされている。今夜はその局面を打開する為の突入でもあり、失敗は許されない。その為に東京最強を誇る諸君達を召集した。健闘を祈る」
保坂はそう短く檄を述べた。最後に笠木は、かつて特別掃討班で使われていた締めのフレーズを口にした。
「ここは日本じゃない、ここは東京だ。(It is not Japan. It is Tokyo!)奴等にその事を教えてやろう」