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勇者様は言われたことをするだけ~そんな手引きを見ながらするんじゃねぇ~

畑作業という観点では、圧倒されかけた村人ちゃんではあったが……。

農家の娘という観点では、勇者を圧倒していたのは事実だ。

あまりのツッコミ上手と、怒らせ過ぎて申し訳ない気持ちが出ている勇者ではあるが、村人ちゃんの意見に頷いたりもする。



「育てるだけ育てて、ポイッなんてダメですよ!!食べられる量!発送できるよう量!!ただ作ればいいってだけじゃないんです!!あなた金持ちだから分からないんでしょうけど!!農作業のお仕事は適量にしないと、儲からないんですよ!!」



勇者様が、畑作業馬鹿だと分かったからこそ。ムカつく事が、ムカつく事が、と~~~っても、ムカつく事が増えた。

気に入られる必要はあるというのに、ダメ出しが多くなってしまうのは。勇者の人間としての気質もそうなのだろう。無関心で関わるなって雰囲気でも、こーしてやるべきところはするべき。

たぶん、勇者は嫌いだろうなって思っていても


「作る・配る・金もらう・食べてもらう!!ですよ!!あなたはただ作ってるだけで、な~~~んも、農業をやってません!!こんなに大切な野菜達をムダにしてるんです!!」

「………………」


しゅ~~~ん……っと落ち込む、勇者。


「そりゃあね。食べられないで捨てられる野菜もあります!!でもねっ!!ただ作っただけの野菜達はもっと可哀想です!!」


色々と歩かされては、食べきれずに処分することになる野菜達も見させてもらった。


「縮小しましょう!!縮小!!いくらなんでも!!」

「え~……」

「農地だけじゃないんですよ!村というのは!!というか、広すぎです!!私の大声が常に響いているんですよ!!」

「う~ん……そうだね」


参考になりますと……頭をふかぶかと下げる勇者であった。

して思うだろうが


「そもそも、どうやってこの農地を管理するんです?お一人で」

「…………それは」


残機スキル、”マリオ”


ピョ~~~~ンッ


スキルを発動すると同時に勇者は1回、跳躍をした。すると、それは残像を生み出すというか、生命体を生み出すかの如く、勇者達がいくつも増え続ける。


「どえええぇぇっ!?」


ジャンプする勇者が2体。その勇者達から同じ勇者の残像がどんどん現れ、生命体に変わっていき。そして、決められたプログラムに合わせて、それぞれの畑仕事に移る勇者達。こーやっているんだよって事で


「「「「「「「このように残像が」」」」」」

「一度に喋んな!!気色悪っ!!跳躍する高さ分だけ、残像が出るんですね!」


村人ちゃんに怒られてか、残像を出した勇者達の多くは畑仕事に移っているが、1体だけは村人ちゃんと話す役目を担った。そのお顔は……とても無感情で、虚空を見つめるような瞳であった。畑仕事をしている勇者達とは全然、顔つきが違うし、声の出し方がもう人間ではなかった。


「そのとおりです」

「さ、さすが勇者様」


ここで勇者を褒めようとした村人ちゃんであったが、1秒で止める。


「残機スキル、”マリオ”は。跳躍に応じて自分自身の分身体を作り出し、生成された際に決められたプログラムに応じて、自立行動を致します。畑仕事においては各種その野菜の育成マニュアルを既読、理解をした上で、作業に励んでおります」

「ちょっとーーー!!あなたも勇者様の分身体だというのなら、プラグラムされた行動しか喋らない気ですか!!」

「まずは僕の命令が全て終了するまでお聞きください。返答ができません。残機スキル、”マリオ”の基礎は、自分自身の分身体を作るためであり、それには必要な魔力が100であり、それらに学習機能と命令行動、消失と誤差による行動の埋め込み、さらには条件構文を組み合わせる事で、200以上の消費がかかります。耕す畑においても、命令負荷が違っており……」



村人ちゃんは約40分もの間、残像スキル、”マリオ”について、一方的な解説を聞くハメになったのだ。

そして、本物の勇者様はきっとどこかの畑仕事を楽しんでいるんだろうなって予想できた。



◇           ◇


「はぁ~~~…………」


勇者様と夢の同棲生活なんて、……ホントに夢だったって思いたい。

この勇者。人としてやべぇ奴だ。


「か、帰ろうか」

「はいはい、帰りましょう」


凄く疲れた。マシンガントークであり、本人はまったく、悪気がなさそうなのが……困る。

自分も勇者様には怒りや不満をぶつけてしまったし、お互い様かもしれないな。


勇者様は残機スキル、”マリオ”の効果を消し。2人分程度の野菜を収穫して、一緒にあの無人の村に戻る。これと一緒に過ごす?……いえ、お金のためって……思うけれど。

私はこれと結婚して、幸せなんでしょうか?お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、弟、妹。私は幸せな家庭で育ったと、ハッキリ分かったよ


「……………」


お互いに喋り過ぎたと思う。村人ちゃんと勇者のそれで違いはあるけど。

これと一緒に幸せを思うのなら、お金だよって答えしかないけれど


「勇者様はどうして畑仕事を始めたんです?」

「え?村を作りたいから?」

「じゃあ、村を作りたい理由です」

「僕が好きだから」


……な~んか濁されている気がするんだけれど。

しかし、何も考えずに答える辺りは真意なのかも。けど、加減知らず過ぎる。

たぶん、決して教えたくない秘密とかあるよね。

……って


「ちょっと待ってください!!確認していいですか!?勇者様!!」


勇者のとんでもスキルの数々とそれに対応できる身体能力+膨大過ぎる魔力から、なんでもアリ過ぎると思ったから聞いてみた。


「こ、心を読むとか、記憶を見るとか……プライバシーに関わるスキル、ないですよね!?上級とか神技レベルのものを普通に備えてるから、ありそうな気がして!!」


ホントになんでもできるな人物だと思ったからこそ、こんな無意味な事を確認する。それは怖い。色んな意味で


「ないけれど」

「そ、そうですか……」


私の、か、可愛いグッズ集めとか、き、筋肉のある男性の被写体集とか……ふふふ、ふふふ。

バレたら恥ずかしいの知られたらさぁ~!!


「そ、そーいうのはないですよね。いや、良かったー」

「実際あるけれど、使ったことない」

「絶対に使わないでくださいよ!!サイテーですからね!!」


そしたら、意外というか


「そうだよね」


……全てのスキルを使えるのだったら、全てを使うだろうと思ったけれど。

勇者はそのつもりはないようだ。

もったいないなぁって思う。けれど、倫理観は持ってるんだーって、村人ちゃんも思った。そして、無人の村に戻ったら、持ってきた野菜を使って


「勇者様は座っててください」

「え?」

「今日から3日間は同棲ですよ。私が料理をしてあげます」

「……いいの?でも、僕が」

「自分が作った方が美味しいって、そりゃあそうでしょ。自分好みにできるんですからぁぁ」

「ご、ごめん……」


村人ちゃんがこわ~いオーラを出して、勇者様をテーブルに座らせる。


「……………」


ジッとできるタイプだと思っていたけれど、実はそーじゃなかった。勇者様だからか、肉体的な疲れというのはないのかもしれない。なにかこう、なにかをやっていないといけない気持ち。ちょっとウザい。

とはいえこの知らない台所でも、家に弟や妹がいる感じに思えば、私はなんてことないわね。

勇者様にもちょ~~っと、私のスキル、見せてあげるべきだしね。(気にも留めない気がするけど)


時間スキル、”ハーリ”


ピュ~~~~ン



20~30秒ほど。

自分の速度を2倍分にできるスキル。

30秒で1分の行動ができるって言った方が分かりやすいかな?大したスキルじゃないけれど、家事を含めた生活面だと汎用性があるスキルだもんね。消費魔力も少ないし。


この世界の人間達は、それぞれ最低1つはスキルを身に付けてる。天性のものだったり、学習して身に付けたり、あるいは授かったり、色々だけれどね。

私達みたいな存在だと、大したスキルじゃないんだけれどね。



トトトトトトト



料理で面倒な野菜のカットを手早く済ませられる程度。自分の行動が2倍分のスキルだから、野菜とかがすぐに変化するわけでもないからね。

洗濯物を畳む速度を2倍。掃除をする速度を2倍……そんな感じに使っているわ。


ジュ~~~~


「勇者様は、和風ダシは大丈夫ですか?」

「……平気です」

「じゃあ、私が得意な料理と味付けにしますね」


勇者が思っていた事は……誰かに作ってもらうのは久々と思った。振り返れば、王国の城で父親達と一緒に食べたのなんか、数年前じゃないか。


しかし、すぐに勇者は読書に入り込んだ。

村人ちゃんが料理をしている間に選んだ行動は読書であった。本カバーをつけているので、何を読んでいるかは分からないし、そーいうところは踏み込まないってね。


「できましたよ、勇者様」


農家出身の村人ちゃんだけあって、料理はお手の物。

畑で収穫できた玉ねぎをみじん切りにし、にんじん、しいたけを一口で食べやすく切っておく。鍋に火を通し、バターを入れてから、白いご飯と切った野菜を入れて、炒める。たまねぎの色が変わったら、火を止め、水200m、醤油とみりん、めんつゆ、少々。(合計で250mmほど)パ~っと、お鍋にかけてから、弱火でじっくり煮込むようにする。水気がなくなったら、山椒をふりかけて、かき混ぜてから、皿に盛る。それから別鍋でほうれん草を茹でて、刻んでのせれば


「炊き込みご飯風、炒飯です」


パパっとできるのでお試しあれ。


「……………」


メインは、この炊き込みご飯、(なんちゃってだけど)であるけど、他にも卵焼きやらオクラの鰹節和え。勇者様が作っていたポテトなどなど。


「私は小食ですのでこれくらいでいいんですけど。御代わりはあるんで」

「……いただきます」


手を合わせてご飯をいただく、勇者様。そこらへんの行儀はあるんだけれど……


「……子供っぽい。ホント」

「…………む~」


食べ方とか箸の持ち方が、子供っちゃ子供。マナーがなってない。

それは踏んじゃうよってばかりに


「勇者様って、どーして勇者様なんです?」


煌びやかなイメージをしていただけに、180度も違う勇者の姿。ご両親が王国の人間ならそれなりに、礼儀作法なりのいくつかを学ぶが当然。それ含めての傲慢さもないしで、……何気ないのは確かだけど


「勇者って王族から教育を受けるもんじゃないですか?」


強いのは確かだけど、品行品性が貴族らしからない。村人とも違うんだけれど。

村人ちゃんが知っている勇者と、実際の勇者を知っている、この勇者からすれば………


「……………」


父上(バカ国王)の事を言ってはまずいけれど。でも、嘘をつくのは良くないし、上手くはないし、正直に言った嘘の方がいいのかな?なんてことは考えて


「僕が王族に入ったのは、8年前だ」

「……え?」

「それまで僕は貧乏街に住んでて、その日暮らしばかりなだけ」

「勇者様って、最初から金持ちのイメージだったんですけど……」

「ううん……子供の頃から一人で、今日のご飯を探してた。畑仕事もそーいうこと、考えちゃってる」


思わぬ形で、勇者が畑仕事に熱心な理由の1つが分かった。

村人ちゃんから見ても、あれだけ広大な畑を持っていて、廃棄処分になる量まで作っているのも……昔から起因するのか。

何気ない事だったから、その経緯については知る気はないし、本命は……


「勇者様ってお金持ちなんですよね♥♥」


口調に♥マークをつけて、両目が金貨になるぐらいの表情でご確認である。

村人ちゃんからすれば、村全体を救えるだけのお金は期待している。


「あると思うけど」

「あ、曖昧ですね」

「お金はあまり使わないからね」

「まぁ!!」


驚いた顔を見せるけれど、ぶっちゃけ、なんとなく分かっていた。


「ふへへへへへ、私の村はあまり裕福じゃない……というか、税制が厳しくて、貧しくてですね……」

「お金いらないんだけどな……」

「あなたのような生活はできませんから!!」


というか、こんな畑があるなら、王国が上手い事利用して、食料問題に役立てて欲しいものです。食料って生命にとっては大事。今はお金お金お金ってなってますけど、お金はお腹に入らないんだから!!


「…………君は、ずーっと、農家を続けるの?」

「へ?」


その問いかけに驚いたのは、失礼ながら。他人に興味を持ったのかという反応だ。

いきなり聞かれてビックリしたが


「継ぎたくはないですが……。華やかなアクセサリー屋さんとか……王国の兵士達のヘアメイクさんとか……でも、やっぱり家族でやらなきゃできないのが、農業ですからね。勇者様も分身なしでは畑作業ができないでしょう?」

「確かに」

「しょうがなくやってますけど、しょうがないから好きなことをしたいです」

「……………」


そっかー。……そんな表情に、関心というか、……みんな根源は同じなんだって思ったところ


「それはそうと、お金が欲しいのです」

「……う~~ん」


現実の真理を言われてしまう勇者であった。

やっぱり、”この本”の通りに、相方には経済力を求めたがるとのことだ。



◇         ◇


創作スキル、”シオリ”


キュピ~~~~ンッ


「このスキルは、相手に伝えたい事を本形式にして具現化できるスキルです(今は本にしただけ)」


勇者が読んでいる本は、暇な時などに読むように天使ちゃんと僧侶から言われたモノである。

ちなみにこのスキルの持ち主は、天使ちゃんのスキルである。

本を具現化できる速度もさることながら、対象者を複数にできるため、印刷・出版関係者の懐が痛むようなスキルを持っている。とはいえ、本を具現化できる時間は1か月ほどが限界。


「本カバーもつけておきました」

「これでも読んで、同棲生活の過ごし方やら結婚生活、相手の気持ちや目的などをある程度知っておけ」

「……分かったよ」


僧侶の方からはこのくじ引き同棲生活における過ごし方の手引きを、天使ちゃんからは相手の女性がどのような事を考えているか、またそーいった色々な手引きが渡され、軽く内容を確認した勇者は


「?………??……」


勇者も首を傾げる。これって良いのかな?って部分がいくつかあり、この辺に関しては、勇者らしいというか。モラルがちゃんとなっている。反面、僧侶や天使ちゃんにはない。そもそも超急ぎだし、僧侶からすれば……とにかく結婚すりゃあいい。どんな手違いだろうが、どんな手段使おうが、……この勇者という奴は、言われた事はちゃんとやってくれる奴だ。例え、それが犯罪で悪い事だとしても、指示されたからやりましたっと言える、アホ。


一歩間違えれば、他人の家に押し入って金品を奪う事だって、正義や教えだと言えば、やってしまうかもしれない思考能力。


「やれよ。頭を使って、やってみろ。分かんなかったから、その言葉通りに体が動けばいいだけだ。お前は後者の方がいいかもしれん」

「……分かった。自分なりに頑張ってみる」

「色々と書いておいたんで!!常日頃から勉強してください!!」

「そうだね。勉強だよね。ありがとう、天使ちゃん」

「………………」


やっぱり、勇者様って勉強とか、頭が良いとか、言っておけば簡単に動かせますね!!さすが、僧侶!!扱い方が熟練です!!これなら女性と無理矢理にでも交流させられる気がします!!


「………………」


真面目だが、考える力は乏しい。そして、一度決めた事はちゃんとやる頑固者だ。くじ引きで呼ぶ女の子には悪いが、金で釣る捨て駒。だからといって、そこで当たれば俺達は解放される。

勇者の行動で最悪なのは、何もしねぇことだ。3日間、何事もなく過ごされては、こっちとしても困るからな。ほとんどの女は、勇者の村を見りゃ、暇でしょうがねぇだろうし。あいつも外のこと、人のことを知らなきゃいけねぇ。



食事は一緒に食べること。(相手が嫌がってもすること)

〇〇は一緒に行うこと。(相手が嫌がってもすること)

〇〇は一緒にすること。(相手が嫌がってもすること)



「いちお、当たり前にやってる家庭もあるからな。結婚相談所を運営している身としてな」


そうじゃない家庭もあるけれど、これをやってなきゃ、ただの結婚には進めないだろう。

普通は許可や了承を得るもんだけれど。


◇        ◇



「………………」


勇者でもやったことはない事がある。女性との同棲なんかまさにそれではあるが、そこらへんは常識的に、あるいは一種の臆病さとか。

薦められた本を読みながら、勉強をしているのだが。自分”だけ”がやるというのなら、気後れはしないものだ。相手方も協力してもらう必要があると、勇者は悩む。


しかし、食事に関してはできた。これは少し、自信がついたというか。村人ちゃんもとい、相手を乗せてあげればいいというのが分かった。



「暗くなりましたか」


男女が1人ずつしかいない村。そこに月明りが頼りな夜がやってくる。村の中にいくつも家があるのに、一つしか灯りがついていない事に、おかしいとか思わなかったのかな?この勇者様は……って、思ってもいた。そんなのがまだマシであった。


「……………」


畑仕事したし、こ~~~っそり見たけど、お風呂場が結構広いのよね。お風呂を使っていいかしら?というか、勇者様はさっき準備なされてたから、入るのよね?一番風呂は譲れば大丈夫?


今日会ったばかりの男女がそーいうことを確認するのは、必要であるけれど。聞くのも怖いなぁ。我慢する?でも、3日間も畑仕事後にお風呂なしって……。印象悪くなるだろうし……。


「そ、そうだ!」


勇者様は今日の夜に入ってもらって、私は朝にお風呂を頂きましょう!例えば、朝食を用意してあげると伝えて、早起きして、さっとご飯作ってお風呂に入る!!やれるわ!!私のスキル的に!!勇者様が起きる前にやれば済む事よ。


「お風呂が沸きました」

「はへっ!?早っ!?用意しに行ってから1分ほどしか経ってませんよ!!」

「水と火のスキルを使えば、そこまでは……」


相手がガチモンの勇者なのを忘れていたわ。風呂作るの早過ぎでしょうが!!考えが纏まってないわよ。


「わ、わわわ、私は結構です!!お風呂なんか1日2日入らずとも!!」

「えーっと……畑仕事した後だから、入った方が良いと思うよ……」

「で、ですけれどね!!着替えとかはありますし!まぁーいいかなぁって!!」

「う、う~~ん……そうだよね」

「勇者様はどうぞ!どうぞ!!」

「僕から?僕は入るけど。君も入らないと不公平なるから」


話をしている最中に、勇者様は私が食事を作っている時に読んでいた本を開き始めた。ブックカバーでどんな本なのか分からなかったけど、なにかの武術やスキル関連。あるいは農業関連の本だと思うのだけれど……。心の中で読みながら、う~んって表情になり


「い、一番風呂をどうぞ」

「いやいやいや!!」

「う、う~~ん、……しょ、しょうがないなぁ。手荒い事はできないから、これで」


暗示スキル、ヤクイン


キュピ~~~~ンッ


「…………いいんですか?私が一番風呂を頂いて!」

「う、うん。なんかごめん……」

「ごめんだなんて。……私が断ってしまったから、勇者様に申し訳ないです。では、ゆっくりお風呂を頂きますね」



勇者様。初めて、暗示スキルを一般人に使ってしまう。

なんか凄い後悔をしてしまった。


「う~~ん、僧侶。……これで、ホントにいいの?」


カポーーーーンッ


「うわ~~、大きいお風呂~………」


身体を洗って、畑仕事でついた汚れを洗い流す。湯舟に浸かって……今日の良い事を振り返って


「はぁ~~~、極楽です~~…………?」


あ、あれ?なんで私はお風呂に入っているんですか?え~っと……


などという考えをしているところに、それが吹き飛ぶような事が起こる。


ガララララ


「一緒に入るね」

「ぶふふーーーーーっっ、勇者様ぁぁ!?」


いや、この時はある意味、同じ言葉を持つ


「この変態様がーーー!!!」


お風呂の湯を思いっきりぶっかけてみる。しかしながら、勇者様の身体には届きはしなかった。そこには自分と同じようにバスタオルで体を隠している勇者様が……裸でね……いたのであった。


「危ない危ない。本が濡れちゃう」

「勝手に入ってくんなぁーーーー!!お、お、お風呂場ですよ、ここーー!」


混浴なんてした事もない村人ちゃん。こいつの行動はある意味、勇者であったと思った。そして、自分の事よりも、水から守ろうとしている本を片手にお風呂に浸かる。


「身体を洗ってから入れ!!」

「あ、そだね!!」

「っていうか、でてけ、こらぁぁっ!!」


村人ちゃんに風呂場からでていけと言われるも、それはちょっとできないなぁ~、みたいな気まずそう顔を出しつつ、大事そうに本を見ながら体を洗う。すげーやり辛そうであるが、何を言えばいいのやら……これはお互い様であり


「あのっ、女性がお風呂入ってる時に、無断で入らないでください!!サイテーですよ!」

「……ご、ごめんなさい」


大声を出したおかげか、冷静になり始めた村人ちゃん。なんで風呂にやってきたという問いかけは散々したし、たぶん答えない。それよりも勇者様が風呂場まで持ってきた、その本とやらに興味が沸いて来た。なんかそれがこの原因じゃないかと睨んでいた。


「な、なんですか!!その本は!!私の裸を見たことと引き換えに教えてください!!」

「……こ、これ?……い、言うべきかな?」

「もう評価最底辺ですよ!!一気に!!」


う~~~んって、その悩んでいる表情なんだと、訴える村人ちゃんの表情。勇者は本を顔の近くに持っていき、まるで表情を隠す振る舞いで


「こ、婚活と同棲、女性との就寝の手引き……」


言った後に


「仲間に薦められて、……食事とお風呂と就寝は一緒にするようにって」

「な、な、なんですかその本は!!?誰が用意したんですかぁぁっ!!」


自分は風呂場に浸かるしかなく、身体を洗ってお風呂に入ってきた勇者に対して、ちょっと来なさいと手招きし


パンパンパンパンパン


勇者の顔面に平手打ちの連打をかます、村人ちゃんであった。無論、その後は勇者との距離をとりつつ、ある程度の事情を聞いてあげた。


カポーーーーンッ


「え~~っと……ある程度、事情は分かりました。いいですかぁ?この場では許可がない限り、5m離れてください」

「はい」


勇者が結婚を求めないが、周囲が結婚しろというのも分かった。その上で女性の扱いというか、人間を扱うことがとんでもなくダメなところも含め。このような強引で変態もいいところなことをしてきたのも、まぁ分かりましたよ。結婚考えたら、こんなのでビクビクしちゃ妻にもなれませんからね。


「今の内に決めましょうか。お風呂は私が先に入ります。あなたは10分後にゆっくり入ってくること。私がお風呂から出てから、20分はここでお風呂に浸かること。絶対に着替えを覗かないこと」

「はい」

「食事はいいですが、あなたのマナーとかポコポコ言いますよ」

「はい」

「就寝時の夜に、勇者様”の方”から変なことをしない。身体は密着させないでください」

「はい」

「私に暗示スキルとかの類は今後一切かけないこと。気付いた時は、罵倒の連発ですよ」

「はい」



……………苦労してるんですね。

勇者様の仲間達って。



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