村人ちゃんはお金が欲しい~勇者は金に興味がない~
「…………………」
勇者は喋らないし、向かい合っているけど、村人ちゃんの顔を見ていないだろう。おそらく、頭の中では
”村作りに戻っていいですか?”
とか思っているんだろう。
それはきっと、彼にとってはとても楽しくて遣り甲斐があり、命を懸けたいものだから。
趣味と発言したのも間違いではない。
でも、それって……
「ゆ、勇者様」
男として、この勇者様のこと。
超つまんねぇし、超面白くないし、超不気味だし、……一緒にいたいとは思えないけれど。
今を生きる人として、村人ちゃんからすれば、今生で最も頂点に来た分岐点。
性別は関係ない。
この社会に生きる人として
「わ、私と結婚してください!!」
その言葉に恋愛なんて、ピンクなモノは、残念ながらない。
妥協・打算・……そして、将来。
宝くじの一等賞が当たればいいなって状態ではなく、今。宝くじの一等賞が相手の手の中にあるって状況の時。君ならどうする?
「こ、この3日間で楽しく過ごして!……わ、私をお嫁さんに選んでください!!」
「………………」
「ぜひ、結婚を!」
「………………」
こーいう事だろう?
◇ ◇
「とても心外である。儂の息子だぞ」
お前が不倫して、生まれた子だぞ。
「こんな方法で結婚させるとは!!あの僧侶め!!なんて提案をするんだ!!」
王様が僧侶のくじ引き同棲生活作戦に反対していたのは、身分や云々とかもそうだが。もっと原点を言えば
「金目当てに決まっておろう!!金は人を狂わす!!正しい人間が持ち、使わねばならんのだ!!」
カッコいいこと言ってるが、この国がメチャクチャなのはここの王様のせいなんだけど。
しかし、この作戦で勇者が、結婚できるとは全く思っていない。
それは王様自身も、その自信がなんとなくある。選ばれた者達にとっては、確かに宝くじの一等賞が目の前の相手に握られているという表現が正しいが。そいつが魔王を倒すほどの勇者であり、魔王を倒す並みに難しいほど、他人には興味がないのだ。
他人 → 友達 → 仲間 → 将来を共にする者達……。という人間同士のコミュニティ。これを一般レベルとするならば。
「勇者は」
他人 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→ …………
「みたいな感じな奴だ。儂以外の言う事を素直に聞く者ではないのだ(もっとも、儂も言うことを聞かせられんけど)」
すでに心の中で大きな大きな壁を作っているのだ。やるとすれば、とてつもない洗脳魔法くらいだろうが、あのレベルの者を洗脳できる者なんていれば、それこそ世界の終わりである。
ようするに、変わらないのだ。
「どこかで成熟した大人の意志を変えるなど、一時ではできん。なにせ勇者だ」
いや、しかし。
「儂の孫ができんと、結局、世界が終わってしまうじゃないか!!儂はどうすればいいんだーーー!!貧乏人と結婚されたら、周りから見てさらにヤバイと思われるじゃないかーーー!!」
とにかく、こんな作戦で望む効果は……少しでも、勇者が思ってる、他人に対する感情を揺らすことにある。最強の武力を持つが、それをやたら無暗に使うタイプじゃなく。相手の不満を流せる程度の精神面なのもこの作戦と合っている。
それで少しでも変わったところで、僧侶、王様、天使の本命の女をぶつける、お見合いを開催することである。
僧侶はその旅に出かけており、この王様も。自分の外交手腕を活かし、政略結婚を画策していた。
こんな勇者の事が好きな女性はいるのだろうか?いや、いたとしても、勇者が好きになってくれるわけがない。単なる結婚じゃなくて、勇者の後継者を求めているんだ。
婚姻届けに判を押して終わりじゃない。
◇ ◇
村人ちゃん。ならびに、今後、くじ引きで同棲生活をされる女性達も気付かない。
というか、誰も思わないのだ。
勇者が結婚したいからこのような政策をした。というのではなく、勇者が結婚をする気がないから、無理にでも結婚させるべく。今はくじ引きという手段に至った、他ならない。
この勇者には戸惑った村人ちゃんではあるが。
ただ、この規格外だからこそ。
私が結婚すれば、在り来たりな幸せを手に入れられるのは違いない。
しかしまぁ、その。
「…………う~ん」
勇者はコミュ障であり、返答がイマイチな感じで、ちょっと腹立たしい。自分も思っていたが、こいつは男として面白くない男だ。
なんだろうなぁ。女っ気ないグループに所属している男子達とは違うし、群れるようなタイプではなく、かといって……
「ま、まぁその。……突拍子ですよね。あははは、私、村人ですし。……王国の方。それも勇者様なんて、憧れの存在です(一人の男性と見るなら、憧れ0だけど)」
一匹狼という勇猛なポイントもあるかもしれないが。……こいつはただただ、ボッチだ。
もう一回言うが、ボッチだ。
そのくせ、こいつは基本的に自分がやった事が自分のためになるという、お子様的な部分が高まっており、……歳は知らないけれど、……幼い気持ちのまま、大人の身体をしている。
「こんな形とはいえ、出会えた事は私にとって、最大の幸運です。女神様のご加護かもしれませんね」
「…………………」
「ゆ、勇者様は私のこと……嫌いというか、ハズレというか……」
「ご、ごめんね。興味ない」
こいつ、言われると嫌なことをノータイムで言ってくるとこ、なんやねん。
今まで出会った事のない男性ではあるけど、男性としては出会いたくない人って感じ。オーラが物語ってる。威圧するような、話しかけるなって感じの……ツンツンした感じなら、そこを柔らかく触れて、デレデレにさせるような恋愛の基本動作。それすらない獣。っていうか、生き物なのかしら?
け、結論を言うのは良くないということ。この人は相当な例外であると思うけど。
「こ、こほん……で、では。その……」
落ち着きなさい。私。
確か、勇者と3日間の同棲生活をするだけでも、私達家族には多大な利益になるの。そこにちょっと、……いえ、夢を持たせていいのなら。
彼に気に入られることは決してマイナスではないのよ。
勇者様は8年前、魔王を討伐された方。その話をしてみようと思ったけれど、私はただの村人。魔物退治なんて、子供の時以来やったことない。大人になってからそーいうのはもう無理だと思う。
つまり、話しを続けられない。
「!!」
村人ちゃんが気付いたのは、勇者が用意してくれたポテト。そこから……おそらく、手作りだろうと思われる、家具全般……もとより、この家全て、……いえ、村全体が彼の手作りだとすれば。村人として、言える事がある。
勘の鋭い子なのはそうだが、勇者と結婚。大逆転、玉の輿を狙う故の目的が、それを受信した。
「勇者様は村作り趣味ですよね」
「うん」
反応が違う!!興味あるんだ!!
ならば
「では、お聞きしたいのですが。……嫌だったら、良いんですけれど……その。村に住む者として聞きますが。……この村って、今。私と勇者様……だけ?」
「そうだね」
外観だけ見れば、とても立派な村に違いない。とても静かで自然に溢れた場所であり、農業をしている村人ちゃんが見ても、立派に育っている野菜の数々。でも、住んでいるのは勇者一人だけ。
「それは村作りとして。……村というか、自分のお部屋って感じじゃないですか?村っていうのは!まずですね!!人が沢山いて、家畜もいて、笑いがあって、賑やかとは違いますけれど、人と交流をされる空間です!!あなたが作っているのは、村じゃなくて!!家作り・家具作り・畑作りです!!」
「………………」
……勢いよく、言いたい事を言ってしまったが。
まぁ、その。自分としても、正直にこの勇者様は
「変ですよ、勇者様」
「……だよね。でも、僕はこれが好きなんだ」
「どう好きなんです?私から見て、不気味なんですけど」
「不気味…………かぁ……」
こう言われて、考えたこともないという顔になる勇者。勇者が思いっきり殴ってきたら私は死ぬだろうと思ったけど、……この方が暴力とかが嫌いというか、縛っている感じなのは分かる。こーいう長閑さに憧れて、村に移住している人達だって知ってるから。
でも、この勇者が考えていることは違う。何が違うか分からないけど……少し考えながら、……ちょっと笑って
「僕はこれが好きなんだ」
出て来た答えはよく分からない。
少なくとも、分かったのは
「結婚よりお好きなのは伝わりました。そして、私がお傍にいるよりもです。ポテト美味しかったです」
「ありがとう」
「では、ご案内してください」
「……え?どこに」
「勇者様が作ったこの村を、私に案内してください。村人代表として、気になるところや畑の収穫の出来。ここをどうやって村にしたのか。気候のお話とか……思ってるよりも」
勇者はそれでも私に興味を持たないだろうが
「あなたに尋ねたい事は、誰にでもあるのです」
トットットッ
「「………………」」
二人きりしかいない。恋人的な雰囲気が出て来ても……、なんて思えない。この勇者様と隣になって歩いても、何もない方だ。前を見ている方というより、どこも向いてはくれない方。
その証拠に並んで歩いているのに
「どこかお気に入りの場所ってないんですか?」
「全部」
「違いますよ!!自分がす~~~っごく好きな場所です!私の村にだってね!!コスモス畑が近くにありましてですね!!そー言ったスポットがないとダメですよ!!」
「…………そーいうものか」
「じゃあ、どこ歩いてるんですか!!」
「なんとなく」
ダメだ、この人。やべぇよ、この人。頭の中では何考えてんだろ!!
「そー言われると難しいかな。……君はどんな農作物を育ててるんだい」
「やっと聞いてくれましたね。そーです!!そーいう風に話しましょうよ!」
「それで何を育ててるの?」
「私は、ほうれん草、白菜の畑を持ってます!秋~冬はそれはもう大忙しですよ!種まきから害虫駆除まで、収穫やら全部!!家族み~~んなで協力するんですよ!私は3女ですが、兄姉一人!妹弟一人!5人姉妹の真ん中なのです!!」
「ほうれん草と白菜はどこかで栽培しているな」
「ホントですか!(家族の事を聞きましょうよ!)」
そーいう会話からほうれん草を栽培している畑でも見に行くのかと思ったら、山道を歩く……道幅はあんまり広くなく、2,3人が歩ける程度の道ばかり。そのおかげか両脇では色んな畑があった。沢山、野菜を栽培しているようだ
「……………」
そんな山道を歩き……
「……………」
そんな山道を歩き……
「なげぇし!どんだけ遠いんですか、ほうれん草の畑はーーーー!!」
「え?ただ散歩してるだけだよ」
「違うでしょうが!!会話的にほうれん草の畑を見に行く感じでしょうが!!というか、この山道はなんなんですか!!左と右も畑、畑、畑、畑ーーーーー!!どんだけ農業やってるんですかーーー!!!」
山道の両脇のほとんどが畑や田んぼばっかり。そして、色んな野菜を栽培しているところに、農家の娘としてかなりのショックを受けた。こっちが話せない事の方が多いと思う。
「勇者様!?あなたって農家じゃないですか!!なんですか、この広大過ぎる農地!!あなた一人で管理されてるの!?ここってほとんど、農地!?一人でなにしてんの!?」
「村作りが趣味だから……」
「これもう村じゃねぇ!!村じゃねぇ!!1人で管理できる能力超えてますよ!!こんなに作って、一人で食べてるんですか!!もったいねぇーー!!」
「と、採れた野菜は王国の皆様に配ってるよ……」
「配るなよ!!ちゃんと売買しなさい!!こんなのあったら、ほとんどの農家が終わってるわよ!!というか、ちゃんと収穫なされているんですか!!」
村人ちゃんの激怒にちょっとした焦り顔を作る勇者。自分の気にしているところを突かれたようだ。少し、申し訳なさそうに
「できてない」
「なにがです」
「全部、収穫。配布は、……できてない」
そりゃあこの山一帯が食物だとしたら、一人で食べ切ることはもちろん、王国に配っても足りない。収穫から包装し、お客様に配るに至るまでが農家の人達
「畑やってるだけで農業を知った気になるな!!舐めるなぁーーー!!」
「ご、ごめん。こ、こ、今度は気を付ける……」
「年間どれだけの廃棄物を出しているのか」
「それは魔物達に分けているよ」
「ダメでしょうが!!それ!!餌やりなんて!!」
会話するほど、この勇者にイライラしてしまう。こいつ勇者じゃなかったら、なんなんだ?
はぁはぁっと、怒号が出てしまった。これだから貧乏な村人は……とか思われたかもしれないが、勇者はなにやら納得しそうな表情で私を見るのです。
「なんです!」
ちょっと怒り声に
「ツッコミ上手だね」
「誰のせいですか!?」