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勇者の趣味は異質過ぎ~村人ちゃんは夢を叶えられたのか?~

「はい、引いてくださーい」


こんな村にも王国兵達がやってきて、害獣の駆除でもしに来てくれたのかと思えば……くじ引きである。最初はそれを言われた時、どーいうこと?徴兵?移住?

村の中ではそんな噂が流れつつも


「男性はダメです。未婚の女性のみです。小さいお子様も対象外です」

「というかくじ引きする方は決まっているので、こちらからお伺いしまーす!」


くじ引きをやる条件については、すでに王国内で決まっているらしく、名前を呼ばれたらくじ引きを引くようになっていた。

こんな小さな村で該当したのは、30名ほどだ。そして、それらが国中で行われており。くじ引きの結果は


「8年前に魔王を討伐した勇者様との、3日間の同居生活に選ばれる方をくじ引きでしております」



……………は?

勇者様のお相手をくじ引きで決める!?くじを引いた後で、もしも過ぎる妄想だってした。勇者といえば、王国を象徴する存在であり、もしも、さらにもしもがあれば……とんでもない玉の輿になる。自分自身が村を豊かにできるくらいの存在になれる。


くじを引くだけで安い報酬。

さらに選ばれて、見事、3日間の同居生活を終えてくれれば、大きな報酬となる。

くじを引く側にはメリットしかない。こんなのやって良かった(強制的にやらせてたらしいが)。

あとは引いたくじを手放さないで、ずっと持ち歩き続けること。


「なんてね」


あるかもしれない。あるかもしれない。

私にも、そんな誰もが羨むような、凄い殿方との出会い。普通に村で暮らしていたら、出会う事のない男性との出会いと生活。

番号”652”


勇者様。もしかして、私を引いてくださいますか?


◇        ◇



ビュオオォォォーーーー



ある日、日が沈みかけた空で謎の突風が村を襲った。

急な雨が来るのだろうかと思えば、民家の屋上に現れ始めた存在。推定、男性は……この村の様子を見ているようで、明らかに人を捜している目であった。

自分の引いたくじと、惹かれ合っているくじを捜し……その女性の村人を発見し、飛ぶように接近した。ここまでがあまりに一瞬であり



「”652”」

「え!?」



番号だけを言われて、買い物帰りの自分を一瞬で抱きかかえ、一足分の跳躍で村の外へと出て行ってしまう。この人攫いって叫ぶことなどできないほどの、一瞬。ただただ、



「ぎゃ~~~~~~~!!!」


悲鳴。……自分には何者かに攫われて、恐怖が一気に込み上げるだけ。命の危機でしかない。なによこれって感じだ。


「……………」


そして、そのことは村人かつ”652”の方かつ、女性の方を……転移スキルを使わずに、もてなすように言われている事に、……かなりの疑問。手間がかかるって思っている、人攫いかつ勇者様。



『転移スキルのインドラはなるべく使うな』

『……なんで?』

『そりゃあ、生身の人間がそんなスキルで移動したら、死んじまうか酷い後遺症が残る。天使ちゃんだったから良かったけど、身体をバラバラにして、気付かないほどの超再生できる奴なんて数少ない』

『……なるほど』

『ちょ、ちょっと待ってください!あたしはそんな移動方法で連れてこられたんですか!?後遺症ないですよね!?』

『知らん』


……よーするに。強制移動ワープというのは便利そうに思えるが、勇者に加減ができない以上、一般人には必殺扱いになる。

とはいえ


「離して~~~!!人攫いで~~~す!!」

「僕が無理矢理攫うのもどうだろう?ひとまず」


バキィッ


「こきゅ~~…………」

「睡眠スキルは持ち合わせてないから、ごめんね」


村人ちゃんを攫った上に気絶させて運び出す勇者であった。本人も、村の人達にも心配されるのは当然である。


◇       ◇


「……………」


パチッ


「ここは……」


村人ちゃんはベットの中で目が覚めた。いつ、どこで……自分に何があったのか。思い出すのに時間が掛からなかったのは、そんなに時間が流れていないこと。

不思議なことにこの中は、自分が住んでいる村と似ている雰囲気であり、自然の匂いや音、風が分かる。

この家の扉は開いていて、日の光も普通に差し込んでいる。立ち上がれば、自分が誰かに連れて来られた事を思い出したが……そんな展開を感じさせない。むしろ、助け出されたような感じかもしれないと思ったが


「村……なの?」


外に出て見ると、自分の住んでいる村とは大きく違うが。村と呼べるだけの規模があり、木造の家が多くあり、川が流れていて、緑が沢山並んでいる。

当然ながら来た事もない場所。攫われたという事を思い出しつつも


「あ、あの~……どなたかいませんか~」


不安がってる声では誰も拾ってくれないだろう。怖いけれど


「誰かいませんかーーーー!!!」


村全体に響く声に……


コンコン


トンカチ(?)のような音が帰って来た。誰かがいるのは確かなようだ。その”異様”さに気付くべき事だったが、ともかく、その音の方へと向かえば。


コンコン


トンカチだと思っていた音は、人間の”素手”による土木工事の音だった。そして、彼が自分をここに攫った犯人だと分かった。そんなことをしていて


「身体、痛まない?」


それで精一杯に確認している口調だからこそ、その聞き方はなんなんですか!?私を無理矢理攫ったのはあなたですよねって表情が、モロに出ちゃっている私。彼はこの状況下の自分に対し、簡潔に言う辺り、なんか分かる。


こいつ、人間関係築けないわ!!


「僕、勇者です。”652”番を引いたあなたと、3日間過ごします」

「……は、ははは……」


これがレベル100000の勇者様。


コンコン


そして、勇者は材木を素手で加工し始める……。よく見れば、そーした木材が沢山、勇者の前に並んでいる。一体何をしているんだ?


「いや!勇者様!なにを為されてるんですか!?」

「加工」

「木材の加工なのは分かりました!!ここはどこで!あなたは何を為さっているんです!!」

「……………」


加工には神経を使う。

よって、話しながらも簡単に設計通りにやれる、土堀作業に切り替えて勇者は話す。


「ここは村……」

「村なのは分かります!この雰囲気!」

「僕が買い取っている。場所は王国の南方にある山々だ」



土堀作業をやるというには、あまりにもダイナミック過ぎるし、そこが完全な人間の技であることには……唖然とした表情にならざるおえない。説明されているのはどっちなんだろうか?


「広さは500ヘクタールほど。流れる川は山頂の自然な雪解けで作られる。生息している淡水魚はアユを始め、メダカ、カジカなどなど。恵まれた水で土壌は良くなっていて、良い農作物がとれるよ。僕が栽培しているのは、にんじん、たまねぎ、じゃがいも………」

「ちょっとーーーー!!村の説明はどーでもいいんですけどーーー!!あなた!自分が語りたい事を語るタイプですかーーー!!」


申し訳ないけれど


「あなた!!人の事、まったく考えられないでしょ!!」

「!…………う、うん」


こっちは頭が追いつかないのに、勇者様は自分のうんちくなのか、それとも天然気味で解説されたのか。分かっているのは、喋りながらも。近くの土を一気に掘り始めて、大穴があっという間にできたこと。もう姿を穴の外から覗かないと見えないくらいになってしまった。

なんて困った人であり、本人もまた


「困ったなぁ」

「それは私の台詞です!!」


こ、これが……8年前に魔王を倒した、勇者様……?確かに人間として逸脱してるけれど、勇者と呼んで言い方なのか、疑わしいレベル。私はこの人と3日間の同棲生活ですか?さっき500ヘクタールの用地があるって言ってたけど、広すぎて共同生活になるんでしょうかね?


「…………僕はどうすればいい?」

「私が訊きたいぐらいです!!と、とりあえず!!家の中で話しましょう!!あなたと私の事を含めて!!」

「分かった」


そう言って、一足で穴の中から出て来る勇者様。普通はロープとか降ろさないとできないであろう高さなのに、とんでもない跳躍で地上に戻りながら


「じゃあ、そこの家で話そうか」

「は、はい!」


こうして、勇者様と一緒に家の中に入る。勇者様は土塗れの両手を水で洗い、テーブルを拭いて、……畑で収穫されたジャガイモで作ったポテトを出してくれた。もちろん、飲み物の麦茶とかも添えて。さっきの話がホントだとすれば、聞かなくても勇者様自身ができることなのだろう。


「料理上手ですね」

「そうなのかな?」

「……美味しい」

「ありがとう」


なんだろう?……その感謝には疑いが感じられる。改めて、お互いに名前を伝えあった後でのこと。こ、これが勇者様の同棲生活の始まりだとすれば、……。確かに珍妙な方だけれど、悪くないところもある。良いところがあるとも言えないけれど。


「勇者様はここで何をされてるんです?」


相手を知る事からである。勇者という存在なのは、分かっているけれど。人としてなんなのかが分からない。村人ちゃんはこれでも同棲生活を勧めようと思うのだが……この人、絶対に扱いに困る予感はしていた。そんな気持ちなど分からず、言われた事は答えるようにと、僧侶に言われた勇者は


「村を作っているところです」

「…………」

「………………」

「………………」


スケール違い過ぎて、色々と何をツッコめばいいのやら。というか、この人は私に訊き返さないの?コミュニケーションは大丈夫ですか?


「ど、どうして村を作ってるんです?」

「趣味です」

「しゅ…………趣味で、ここまでできるんですか。……そ、相当なお金が」

「僕は1から作るタイプなので、資源はこの自然からほとんど使ってます。自給自足です」

「それは凄いですね!!」


会話が繋がった…………よし……


「………………」

「………………」



………………


「いや!今度はそっちが訊き返す番でしょ!私の趣味や出身を聞いてください!!」

「ご、ごめん。だって、僕。結婚に興味ないから」

「じゃあなんで、同棲生活なんかするんです!?くじ引きで!!」

「それは国が決めたことで、僕はただ、言われたまましてるだけなんだけど……」


思ってたのと全然違う。

結婚できない殿方をなんとなくイメージしてたんだけど……。彼は、それすらなかった。

結婚する気のない殿方ってこんな感じなんだ!


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