そもそもなんで勇者がレベル100000なの?~最初からそうじゃなかった~
「僧侶~!聞いてもいいですか?」
「なんだよ、天使ちゃん。お前はお前で、勇者の相手を探せって言ったろ」
「そんなこと言っても、あたしは人間世界に来たばかりです!」
お前、応援しかできねぇのか……。
僧侶は嫌々な顔をしつつも、疑問を持っている天使と
「なんだよ」
「勇者様と王様って、ホントに親子なんです?超違うんじゃないんですか?」
「ほっほっほっ。天使ちゃんは分かっているねぇ。儂が凄い王様だということ」
「いえ、それはないです。凄く無能だと分かりましたから」
王様に聞けばいいじゃんって思うが……。王様がこんな調子なのだ。
勇者が確かな理由有りな事は僧侶も知っていた。
勇者の理想な相方を探す上で、勇者の昔を知る必要はあるし。なにより天使もその農村という、勇者の部屋を訪れたからこそだ
「どうなんです」
「…………おい!こんな子に、生々しい話をしていいのか?俺は隠さず言うぞ!」
「!!ちょちょ!!僧侶く~ん!そこは天使ちゃんなんだぞ!生々しい事を言ったら、儂を見る目が違ってくるであろう!」
「「それは変わらない」」
凹む王様…………だが。なるべく、ラインを超えない程度で、伝えて良いとサインをした。
色々と複雑であり。これについては、天使も被害者と言えることである。前置きとして
「勇者をレベル100000にした、天使ちゃんに罪はねぇ」
「!ちょ…………なんか、ヤバイんですか?」
「かなりヤバイ。勇者と王様が間違いなく親子なのは、俺のスキルでも確証してる……が、経緯がなぁ」
天使ちゃんの見た目がホントに子供だから。言葉を選びたいけれど、難しいと思う。
まず天使ちゃんに分かって欲しい事は
「俺がそもそも、始めから勇者ご一行の中には居なかったのは教えたよな?中途採用枠だ」
「勇者さんから誘われたそうですね?」
「あの勇者も、実は俺と同じく、仲間に誘われた側だ」
「…………へ?」
「悪い悪い。もっと言えば、あいつとは別に。世間の始まりから言う勇者は、……あいつじゃねぇ。あいつの腹違いの兄貴だ」
魔王に対抗するため、勇者達はその旅に出た。しかし、その初期メンバーには僧侶も、現勇者もいなかった。……2代目という言い方もおかしいか。中途採用という言葉を使った僧侶をして。
「その旅時において、勇者達も戦力を増強するための人材収集が必要になった」
”相性”のスキルを持つ、僧侶が採用されたのも、仲間達を護りつつ、魔王の戦力を知る上で非常に優秀だったことに違いないだろう。
そして、まだ勇者と呼ばれていなかった彼も、
「単純なレベルだけで、奴は勇者一行の目に留まったそうだ。仲間達を護る上で、強い人間に本当の勇者は声をかけたんだ」
「……………」
「それが自分の知らない、腹違いの弟だったと知らずにな。元勇者のスキルは、”邂逅”。良い存在達と自然に出会えるスキルだった。それに従ったのは当然だった」
僧侶と勇者が初めて出会った時から、……こいつは化け物だった。
元勇者とその仲間達のレベルが80なら、あいつはその倍以上、レベルが200。魔王の幹部すらタイマンで戦えていた奴だ。
卑怯と思われるかもしれないが、元勇者達は集団で魔王の幹部と戦った。それだけの実力差が人間達と魔物達にあり、だからこそ人間達は明確に連携がとれていた。強大な敵にも仲間と一緒に立ち向かえた。
「それが国民達が思ってる勇者ご一行なんだろうな。俺もそれに一噛みしてるし……だが、あいつは違う。相手の事を知らずとも、真正面から戦い続けた。そうやって戦っていた。結果、レベルの上がり方も速かった。経験値の独り占めって奴?」
勇者の血筋を持ち、勇者ご一行の中で最もレベルが高かった。
だから、天使ちゃんが間違えて、勇者のレベルを急激に上げてしまったのは……彼女一人のミスではないのは明らかである。そのことを今知った天使は、かなり沈黙してしまった。
自分のミスじゃないって、幼い気持ちもあれば
勇者がイカレているのは、自分のせいじゃないって、……これまた幼い気持ちもあるし
女神様はどうして自分に言ってくれないの!?って、……気持ちに
守ってくれたんですねって、……女神の慈悲に感謝もするし
二人の勇者があまりにも人間や天使の過程から外れていて、……唖然とするし
「……その、元、勇者様は……」
「死んだよ。もうすぐ、みんなで魔王討伐って時に。単身で行ったそうだ」
「そ、それは………そ、それって」
「天使ちゃんが勇者を、レベル100000にしてからだ。……あんだけ強くなっても、護れなかった仲間があいつにいた。……いや、俺も詳しく聞けなかったが(途中離脱したし)。十中八九、元勇者は自暴自棄になったんだろう。普段なら仲間達と一緒に違いない」
ここまでの勇者ご一行の事業を、勇者死亡で終わらせるわけにもいかないし。なにより、魔王だって討伐できたのだ。結果はどうあれ事業としては成功であり、人間達の勝利に違いない。
だが、勇者という存在が生きてもらう必要がある。だからこそ、残った勇者ご一行と王様、王国の一部の関係者達は、途中で勇者を入れ替える選択をした。
本当に魔王を倒した存在を勇者にした。
レベル100000の勇者が魔王を討伐し、世界に平和が訪れましたとさ……。
「だから、天使ちゃんが自分の罪を気にする必要はない」
「でも、勇者様の気持ちは」
「影響があるのは確かだろうけど。結果が全てだ。……魔王がどれだけ強かったか知らないが、勇者ならレベル100000じゃなくても、勝ててたんじゃねぇか?天使ちゃんも分かるだろ、その辺」
どっちみち、魔王が勇者に倒されていたという評価に変わりはなく。
「ああ~~。そうなんだよぉぉっ!!勇者が腹違いの子と、元妃(元妻)にバレた時は、もうそれは、カンカンでさ~~!!っていうか、離婚にまでいった!!妃の地位を捨てるって言いだして!壮大な慰謝料を請求されてっ!!」
「当たり前だろ!!お前は馬鹿だ!!自分の本当の勇者が死んで、どこの女で作ったか知らねぇ奴を、自分の子として受け入れろって!!妃様が納得できるわけねぇだろ!!そもそも、あんな勇者が生まれるきっかけ作ったのテメェじゃねぇか!!テメェの隠し子ってか、不倫のせいだろ!!とんでもねぇ不倫のせいだろ!!」
全然、本人は反省していないどころか。その勇者を盾に暴れる始末だ。
この王様が全てにおいて悪い。天使ちゃんのは単なる事故に過ぎないのだ。
ちょっと落ち込んでいた天使ちゃんだったが、……王様のこの態度とこの重税に、この不始末には……僧侶達にも同情するし、勇者様が婚活活動を少しでもやってくれることには、嬉しい気持ちにもなる。
魔王を討伐したとはいえ
「……勇者様は多くを失ったのですね」
誰もが知れるものではないのだ。