勇者はついに女性を選びます!~次回で最終回!~
ドヒューーーーーーー
「まさか、俺が魔王と関わっていたとはな……」
「……そういえば、どうして僧侶は直前で抜けちゃったの?」
時間移動の最中での勇者と僧侶の会話。
自分との差を感じ取っていたとは言うけれど、これまでの僧侶の立ち回りを含めて、さすがに選抜された人材に違いない。
「死ぬわけにいかなかったんだよ」
「……………」
そう言うけれど、僧侶のスキルと性格からして、死ぬとは思えないって勇者は思う。しかし、
「まぁ、あれだ。やりてぇことができたんだよ。お前達のくだらねぇ恋愛事情を視てたらよ、それを可視化できるようになったから、結婚相談所、……やってみたくなった。そんだけさ」
「……そーかぁ。やっぱり、すごいなー僧侶は」
「あ?」
「だって、お互いに名前を認識できない。僧侶だって、久々に認識できて、どんだけ大変だったか、分かったんじゃない。それで8年もやってきたんだから、すごいよ。僕達なんかより世界の救世主だよ」
「んなわけあるか」
まだこの間なら、名前の認識はできるようだ。現在の世界に戻れば……どうなるか分からないけれど、きっと。
「「ふあっ……!!?」」
勇者と僧侶は目を覚ましたように、過去から戻って来た。現実世界に身体が置かれた状態で、魂だけ過去に飛んだ感じ。
「あれ?……魔王の娘ちゃんは……」
「確かー……お前が過去に飛ばされた時、……魔女達がここに乗り来んでな。それで俺が仕方なく、過去に跳んだわけだが」
もしかして、過去を変えちまったから、現在に変な影響が……!?そんな心配を他所に。2人の背後からの殺意。
「お目覚めかしら、2人共」
「「うおおぉっ!?妃様!?」」
出迎えがあんたかよって……表情。
「爆破されたいの?」
「いえ、結構です……」
「き、妃様……魔王の娘ちゃんは……?みんなは……」
2人が意識を失っていたのだから仕方がない。実は言うと、
「もうかなりの時間が経っているのよ?代わりに私が指揮っていて、みんな。あんたの答え待ちをしているところよ」
「!ええーーっ!?ちょっ……」
お見合いの時間はとっくに過ぎてしまった。予定でもう、勇者が結婚相手を決める段階になっていた。
「なら俺はすぐに準備しないと!!」
「ぼ、僕も早くここから脱出しないと!!もう用がないよね!!」
勇者がそうやって動こうとすれば、妃様も僧侶も物凄いスピードで捕らえる。
ガシイィッ
「あんたは逃げちゃダメでしょうが。あなたが寝てる間に何をしたか、……教えてあげようかしら?」
「ドサクサに紛れて逃げるんじゃねぇ。レベルはまだ返さねぇからな」
「じょ、冗談ですよー……その、…………決めたことはありますから!!」
しょうがないなーって感じでこの部屋で待機する勇者。妃様と一緒とは居心地が悪い。しかしながら、
「妃様。……息子さんはあなたの事を気にしてましたよ」
「そう、じゃあ過去に行って、会えたってわけね」
「どうして、何も言わなかったんです?」
僧侶にも言った言葉を返す。……というのは、違うだろう。
「それでも帰ってくると思っているから、言わなかっただけよ。それが母親や父親でしょ?結果は許し難いものであってもね」
その言葉に恨みがまったく籠っていない。親の心配、重責から解放されたような表情であった。その変化に、世界は何一つ変わっていないと分かった。
過去は変わっていない。現在は現在なのだ。
「魔女の気持ちは伝えられたの?」
「は、はい。というか、今の状況を踏まえて伝えたら、……ショック受けてました」
「当たり前でしょうが。恋愛をなんだと思ってんだ」
語る気はないが。
こいつの言葉で、自分の息子も魔王も……いくら勘が悪かろうが、自分達が未来にはいないと察したんだろう。だったら、こいつ等が過去に行かないという選択肢をとったら~……なんて思っていたら、自分は未だに引きずっていたと、妃様は思える。
…………っていうかね。
「実はあんた達が寝てる間に、1人、乱入者が現れてねー」
「はい?」
「あんたの事だから気付いてたと思うけど。どーしても、そいつに会ってもらいたくて。……紹介してあげるわ」
「??????」
その引き摺っていた原因を調べに調べた結果ねー
ガラララララ
「し、失礼します。勇者様ー」
「?????」
その乱入者の準備が整い、勇者とのお見合いが始まったのであった。
◇ ◇
パンパカパーーーーン
勇者の全てのお見合いが終わり。いよいよ、
「勇者様!!いよいよ、選択の時です!!」
天使ちゃんはハイテンションに実況風に叫ぶ中、
「ほい!さっさと選んで結婚しやがれ!!勇者!!」
僧侶は終始ブチギレ中の結果タイムである。
城の中庭に呼ばれて集まる女性陣。
「い、いいんですか!?ウェディングドレスなんかもらっちゃって!」
「女性の憧れー!コスプレとは全然違う、緊張っぱねー」
「う、ウチも緊張ですー」
「2度着れるのは、良い思い出になるな」
それは村人ちゃん、遊び人ちゃん、女武術家ちゃん、商業娘ちゃんの4名にも、ウェディングドレスという花嫁姿を披露し
「勇者様もしっかり着こなしてくれてますね」
「い、いや!私で遊ぶのはね!これでね!」
「父上、見てくれてますか?あたしも女になりました!」
「やっほーーい!あたしもついでに着ちゃうぜ!」
お姫様、魔女、魔王の娘。さらには天使ちゃんまで、この豪華衣装を着て登場している。そして、向かい合う勇者も綺麗な男前の恰好で待っていた。
「………………」
緊張はしている。
自分はここで答えを出さなければいけないのだ。
横一列に並ぶ花嫁姿の7人。向かい合う、勇者が1人。
「さぁ、誰を選ぶか!決めてくれ!!」
僧侶の言葉と共に勇者は前に歩き出した。
私か!?あたしか!?ウチ!?
いろんな一人称が心の中で現れ、……そして、勇者が彼女の前で止まったのだ。
「……あの」
「ゆ、勇者様……」
その子は、……魔王の娘ちゃん!!勇者が選んだのは
「じ、実はね。君に伝えるのを忘れちゃった事があってね」
「は、はい……こ、これからよろしくお願いします!!勇者様!!」
魔王の娘ちゃんの隣にいたら魔女は、選んだ相手が相手なだけに、かなりドン引きした表情で唖然としているが。……他の者達からは祝福の拍手と声が挙がったのである。
「「「おめでとーーーー」」」
「「「勇者様と魔王の娘ちゃん、末永くお幸せにー!!」」」」
ドギマギしている魔王の娘ちゃん。すごく赤面して顔を抑えているところ、
「あの!僕、そのつもりじゃなくて!」
悪いのだが、勇者はここで魔王の娘ちゃんと会えたから、歩み寄っただけであった。後でも良いと言えば、そうなのだが……きっと、それどころじゃなくなると思ったから
「ま、魔王と会ってきてね!コッソリ、君の父親を映しておいたんだ」
「え?」
「生前のお父さんのこと、君の脳内に送り込んであげる」
「あ!あのスキルは、あたしの力!!」
魔王の娘ちゃんはその時まだ幼くて、父親の顔もよく覚えてないのだろう。だから、過去のものだけれど、父親の姿をいっぱい脳内に転送してあげた
「…………!ち、父上………」
そこには本気で娘を大事に思っている父親の姿。それに泣いてしまうのは、
「うえぇぇーーーんんっ!!父上ーーー!!あたし、立派な魔族の王女になりますーー!!」
女性としてではなく、一つの子供として、……親の愛情を知ったからであった。
嬉しくて泣き叫ぶ魔王の娘ちゃんに微笑みながら、勇者はまた、定位置に戻ろうとする。そこに
「おい!!選べよ!!勇者!!」
「泣かしたままで終わらせないでくださいよ!!さっさと選んでください!」
僧侶と天使ちゃんの実況で、やり直しと言われてしまう。これには勇者も苦笑い。魔王の娘ちゃんを選んだ時には祝福してあげたが、違うのかと分かると、どーなんだろう。もしかして、自分達の可能性が!?という希望というか、微妙というか。
「ごほん、…………じゃ、じゃあ……僕は……」
勇者もここで覚悟を決めて
「僕が選択するのは…………」
……………………
固唾をのんで見守り……
全員が勇者の選択に対して
「この中から誰も選びません!!!」
ズコーーーーーーーっと花嫁姿でズッコケるのであった……。
まぁその
「「「そーだと思ってました!!」」」
魔女と商業娘ちゃん、村人ちゃんの3人はそーいう理解のあるツッコミであり
「まー、楽しかったからいいかー!」
「ウチはもっと強くなりたいです!」
「そうですわね。私も自分で、好きな殿方を捜してみますわ」
「ぐすぅ………いえ、勇者様にはこれ以上の感謝はないですから!!」
自分達の目的を見つけたり、捜していたりする。遊び人ちゃん、女武術家ちゃん、お姫様、魔王の娘ちゃんの4名。
全然、ショックそうにしている人はいないのだ。むしろ、一番ダメージを受けているのは
「ちっ、……マジかよ。また捜すのかー?」
「ああーっ。お見合いのために色々と準備したお金がパーに……」
ここまでやってきた僧侶と王様の時間と懐事情にダメージがある。
7人の中から選ばないということは……
「よーし!この天使ちゃんが勇者様と結婚しちゃいまーす!!」
ノリノリで勇者様に向かう天使ちゃんであったが、
「君も選ばないよ」
「え~~……もーっ……」
なんだか分かった素振りで立ち止まってしまう天使ちゃん。確かに勇者はこの中から選ばないという選択にした。それには
「コホンッ」
勇者もこの8年間。確かに幸せだったと噛みしめながら、世界にどれだけの迷惑を与えてしまったか。そして、分かっていても難しいことに進むのが……勇者だろうが、なんだろうが、……人として、生命としての在り方。
まずは選ばなかった理由がある
「僕は、……ここにいるみんなを幸せにする資格がない!だって、僕のせいで巻き込まれた人達だから」
「「「その通り!!!」」」
ほとんどの人達がすぐにツッコミを入れるから、ちょっとしょんぼりする勇者。幸せになれるなーとか、この人といるのは楽しいだろうなー……というイメージはあるけれど、長くは続けられないだろうし。そーいう関係のままの方が良いって、察するくらいの男である。
「えっと……僕だって、君達の事を好きになってるよ!だけど、そーいうのは君達にも持って欲しいんだ!自分でそれを奪い去っといてね!!……確かにそんなもんがない方が、生物的には正しいと思うんだけれど!!僕達は人間だから!」
結婚とは、好きだけでやってるわけじゃない。
でも、可能な限りは。お互いを尊重し合えるという事は必要だし、そのきっかけを奪うようなこと。
「幸せになろうって、自分だけが思っていちゃ、ダメだった!!」
幸せにも色々ある。だから、8年間の選択だって間違いじゃない。通過点だった。そして、これからもまた同じように、幸せを捜して、その捜し方が幸せを感じるんだよね。人の生き方を感じるのだ。
「みんなが名前を思い出して!!気持ちをもっと伝え合える世界に!!僕は戻す!!だから……そんな僕だから!!みんなと付き合えない!だって、この8年間で好きになれた人達だから!!」
勇者は、ついに自らの力で世界にかけられた暗示を解除する。
あの時、魔王の真意がどうであれ、これも幸せだと信じたからこそ、残していた思い出だ。魔女への告白。仕方なく勇者になった自分。命を狙われ続けて大変だった日々。広大な土地を買って、子供時代に思っていて、食べるに困らない自給自足の平穏で静かな生活。自分のような人に構ってくれる人達との出会い。楽しかった日々は、そのままにして、次へ。
「”解” 全ての名前よ!!星より落ちよ!!」
この世界の名前の数々が隠されていた場所は、空。それもはるか上空にあった。
ヒューーーーーンッ
空から降り注ぐ七色の魔力は、本来の持ち主の元へと帰っていく。”名前”という在り来たりだったものに
ドーーーンッ
「イタタタタ…………!!あっ、……あああっ!!」
「お、思い出したーーー!!」
「どうして今まで忘れてたんだ!?」
8年間も自分達の名前を忘れて過ごした日々。
「マルク!そうだ、俺の名前はマルクだ!!」
「私はキャシャーヌだったわ!!どうして今まで、役職だったり特徴で呼び合ってたのかしら!?」
「おかあさーーん!あ、イリスおかあさーん!あたしね!おかあさんとおとうさんに名付けられのは、クリスだよー!」
世界中の人々が自分の名前を思い出し、自分の名前を叫びまくり、呼び回った。それは勇者達だって同じだ。
ドーーーンッ
「あああぁぁっっ…………!!あーっ!そーだ、あたしの名前はミチヨじゃーん!なんで村人ちゃんで反応してたのー!?」
「!……君の名はミチヨかー!あたしの名前は、安楽遥だよ!遊び人ちゃんでーす!!」
「ひ、東の方の国の名前だったのか、君。……私はAS・リストロッド・ファンクル・ニスターだ。……ニスターと呼ばれていた事を今思い出したよ」
「ウチはそんな長い名前覚えられないですよ!!ちなみに、禅が、ウチの名前でした!!」
この世界。数多くの色んな人達が仲良く暮らしていたのだった。
「サンシアですか…………いつかは太陽の下を歩けるようにと、名付けてもらったのを思い出しましたわ」
「……………ソウ。……あなたの名前を思い出せたわ。ソウ!ごめんなさい!!8年間も思い出せなくて!」
「ルチさーん!あたしも自分の名前と父上の名前を思い出せました!!あたしはミスキー・ヒュドランド・シグラー!!父上の名は、ライオット・ヒュドランド・シグラーです!!」
全ての存在の名前が解放された。
「好きって言ってくれない?……モーリーさん?」
「ええっ………いやですのぅ。……エリーさん。これからも儂はエリーさんを愛していいですかな?」
「もちろんですよ。モーリーさん、愛してますの方が嬉しいですわ」
それは混乱こそ生むも、争いになったものは数えるほどしかおらず、……みんながみんな。自分達の名前を呼び合い、愛情や友情、仲間意識などを噛みしめた瞬間であった。
8年間も、この世界で封じられていた、その名前は全て……解放されたのであった。
「………………」
「?どうしたんです?僧侶ー」
「……………………なんだよ、天使ちゃん」
その中で珍しく、不機嫌な奴がいた。
「天使ちゃん、じゃないですよー!もう!!あたしも、自分の名前を忘れていた事を思い出したんです!!そう呼んでくださいよー!」
「エスウィル…………いいよなー、お前等は」
「そうですそうです!!エスウィルがあたしの名前でーす!!女神様も勇者様の名前も聞いてみましょうよー!っていうか、僧侶の本当の名前はなんだったんです!?」
「…………………俺も完璧に思い出したわ」
おぎゃーおぎゃー
『悠人にしましょうよ!』
『いーや、拓斗です!』
『裕也がいいわよ』
『寺院の子じゃぞ!それらしく、春雨とかな』
おぎゃーおぎゃー
『この子の才能を全面に出すべきです!才友で!』
『いやいや!風龍と書いて、”ソニック”と呼ぼうよ』
『そんな変な名前をつけるな、千にも及ぶ家を束ねる事になる子だ、西の国の言葉にサウザントという名にしましょう』
『なんでやねん!!そんな熊吉でえーやん!』
思い出したくねぇー。
俺の名前って
『意見纏まらないのなら、全て繋げて、一つの名前にするというのはどうだ!!?』
『!!なるほど、それならすべての宗家の意見を取り入れていると、言えますね!!』
『そうねそうね!そうしましょ!!』
いや、俺の意見が入ってないと思うんですよ。
「どーして、僧侶は自分の名前を教えてくれないんです?」
「いや……………俺は、僧侶って呼ばれてた方が良いわ。慣れてるわ」
「はい?」
1000もある寺院の宗家の後取りとして、俺は生まれて。
悠人拓斗裕也春雨才友風龍サウザント熊吉………………なんちゃらって感じに、1000にも及ぶ名前を繋げて、俺は呼ばれていたんだわ。
『悠人ーー!!』
『どうして、そう呼ぶんだ!あの方は春雨と決めたであろう!』
『いーや、熊吉じゃーーー』
自分の名前のせいで、寺院達同士で喧嘩が絶えなくて……俺は家出して、記憶を封印した。
僧侶という役職で異国で暮らしてたところに、ソウとルチ達に勧誘されたんだ。自分の名前を聞かないという条件で……
『ねー、ねー、僧侶さんの本当の名前って何だと思う?』
『魔王城の近くでそれを詮索するのかい?』
『それは勧誘の条件に違反するよ』
『でも、僧侶さんならいいじゃん。それに僧侶って呼ぶ方が可哀想じゃない?』
『ぜってー、名門だよ。きっと、どっかの王子様だったとか?』
『どうかな~?もしかすると、変な名前をつけられたんじゃない』
そうだよ、あの時!こいつ等、俺の本当の名前を調べようとしやがったんだ!!あんなクソみてぇに長い名前がバレたら嫌だから、俺はパーティーから離脱を決意したんだーー!あれは建前だったーーー!!




