今の名前がなくなったらどうしたい?~僕らには架空の名前があっていいね~
そんなお熱いやり取りを感じ取っていたのは、その父親と
「あらあら~~~、ホントにあなたの息子ね~~~…………」
「き、妃様。今、デート中ですよね……な、なんですか、そのグーパンチの構え……」
「不倫ってか、人妻好きなんか~………」
妃様の2名だけであった。
勇者と王様がホントに親子なのか?っていう違和感は度々あるが、彼の生まれた経緯と彼がまだよく分かっていない、異性に対する感情と価値観は、王様のそれとほぼ同じである。王様に限って言えば、それを埋めてくれる妃様との出会いが子供時代ですぐにあったが。……勇者はそれなりの歳になってから、魔女との出会い。この差が
「NTRを画策するのねぇ~」
「わ、儂は一切、しませんからぁっ!!あれ、頭が破壊されて終わりだから!!」
「僕が好きになったのに~、彼女にはもっと前から好きな男がいたってか~……爆破させたいわね~」
◇ ◇
ガチャンッ
この世界の仕組みが動き出す。
それに気付けるのは、高い影響力を持つ者達だけである。
”名前”という”概念”が消された事を、再び取り戻そうとする力。
「私の名前は……本当の勇者の名前は……」
「!……………」
勇者は再び両目を瞑った。
生き恥ってこーいうことだろう。
ずーっと、最低な男として、彼女の記憶に強く残るはずだ。
一世一代の挑戦をした事を忘れられる程度なら、きっと無限に
『進化を遂げるだろう』
…………魔王。
君の言う通りには、世界はならないようだ。残念だけれど、世界に”名前”は戻ってくる。
つまり、”リセットができない世界”の始まりさ。
誰だってやり直したい、誰だって忘れたいって願い。叶えられなくなっちゃう。
終わったよ、僕達の8年間。そして、僕の初恋の全てまで
プツンッ
「…………えっ!?」
何かが切れる音は、この世界が何者かの介入を拒んだこと。魔女が勇者の力を利用して、世界の”概念”を変えようとしたのだが。
この倒れた奴にしてやられた。それは
「教えの1つでしたよね」
またしても、自分がこいつに教えすぎた事が原因だった。
「大技をする時は、必ず、勝った時だけにしろ」
大きな力を使うということは、それだけの隙が生まれる弱点がある。それは自分が優勢からの敗北に繋がるきっかけにもなる。よって、戦闘とはいかに小さい力で相手を圧倒し続けること。基礎という鍛錬こそが、どれにとっても最上であり、地道であることだと。
世界の概念を変えるためのエネルギーを利用する。それはまさに大技や奥義に匹敵する。
「そんなに早く、僕の力が足りると思います?抵抗だって、します」
「…………そうか、そっかそっか。……私にもかけてやがったのね。気付かなかったわ」
「発動まで、5分早かった……あと、5分粘られたら、……世界は元に戻っていたかも」
魔女が必要なエネルギーの量を見誤る。それは本人体感時間を狂わされたこと、本来の魔女ならその程度のデバフを気付けないわけがない。だが、冷静ではないし、そこに意識を割くなどできる儀式ではなかった。世界の改変……いや、世界を元に戻せる力を失った以上は……
「結局、私のせいね。私があなたにベラベラと教えたのが、悪かった」
「!……そ、そんなことは……」
「勘違いもさせちゃうし……ホント……」
魔女はやや項垂れた様子。自分を超えている勇者の力を利用したのだ。肉体的にも精神的にも負荷が来ていた。とても弱そうな自分が
「世界を元に戻してよ。私の名前はなに?……この世界は、なんなのよ」
実は勇者に大きな影響力があった。この人をこんな風にするなんて、絶対にさせたくなかった。思い出せないようにしたかったはずなのに……。
「…………」
「答えないの?」
「…………叶わなかったよ。今、さっき……」
勇者の瞳は今度こそ、……自分の中で決着がついたと、……身勝手でしたと
「ごめん。僕はやっぱり、…………〇〇を困らせてしまっただけだった!!」
……それがあなたの名前だって、魔女は認識できなかった。
「ただ一つ。あなたと出会えて、僕は幸せだった」
たぶん、絶対。
自分にはできないんだろう。この人に対して、尊敬以外の言葉ではいられない。素敵な彼女の出会いを閉じ込めたままの方が良かった。それで良かったけれど、その中で収まってくれる人ではなかった。
とても嫌だったんだね。
この世界は、彼女にとって、……日々が地獄であって。僕はその事に今まで気付かなかった。
言うよ。もう一度
「最低」
魔女は泣きながら悔しさが現れた顔で、自分に言っていた。
自分という存在は、いつまで経っても、なにをやっても許されてくれない存在なのだ。
およそ、自分では、魔女の気持ちをもう理解できないし、しようとしてはいけないんだろう。
そして、自分は…………それでも、戯言だったと今思っていても、……
その気持ちは”尊敬”だけに留める他ないと、……分かっていたのに、……夢を見ていたんだって、……晴れ晴れしない気持ちだが、決着をつけた。
グスグス………
魔女は顔を洗うような仕草をしてから、勇者に背を向けた。
この機会で活かせないのなら、自分でも勇者との決着をつけられた。こんな世界でも生きなきゃいけない。みんなが忘れてしまっている事を、受け入れて生きる事だって……悔しいけど、正しい。
そう思わなかったら、
「死んでやる」
「えっ!!?」
「……なーんてね」
それはダメ。絶対ダメって。
見てなくても、勇者が慌てる姿が分かっていた。
魔女だって思うところがないわけではない。しかし、詰め込まれている量の多さは、憎しみばかり。そして、お互いに理想がある。お互いに”こーいう関係”ってのが、できた。
自分の力でどうにかできず、……そして、妃様という尊敬していた人物ですら、勇者を変えられなかった。おそらく、世界中探してもできないんだろう。だけど
「……結婚ってさ。誰でもできるんじゃないかな?」
「……………そ、そうかな?」
「わ、私に言ってる!?それ!!」
「う、ううん!僕もしてないから………」
”名前”を欲しがるきっかけって、大事な大事なモノが出来た時。区切りをつけたい時とかだろう。
結婚とはそーいう時の1つ。
「忘れるなんてこと、ないんだからね」
「ごめん」
何勘違いしてやがる……
「バカ強かったあなたを、もっともっと、バカでバカでバカなほど、強くしてあげたのは私なんだからね!!私が認めてあげるんだから!!……結婚して!!自分の大事な人や子供達を、今度は守ってあげなさいよ!!この勇者め!!!」
魔女は叫びながら走って逃げて行った。それを追いかけようとした勇者だったが、意図せず躓いてしまって、追いかけられなかった。
「あっ…………」
追いかけても何を言えばいいのやら。でも、勘違いしていましたって
「ごめん」
聴こえないし、見てくれないけれど。魔女の中で、勇者は自分に向けて放った言葉が真実ではないと思っている。やり方はどうあれ止めたのだ。そこだけは少し。勇者は安心して良い。
ヒュ~~~~~
こうして、魔女とのお見合いが終わり、その影響でぶっ壊されまくった城が残った。そこに勇者の前に現れたのは、
「道具と材料を持ってきたから、今から城を作り直せ……得意だろ?」
「そ、僧侶……」
「みんな無事に避難できたみたいだからな。こんなぶっ壊れた城で、最後の見合い相手とするわけにはいかねぇだろ」
……いちお。魔女との戦闘で死にかけていたというのに……僧侶からすれば、カップル不成立のせいで自分の経歴に傷がつくし、絶対にお互いを尊重して選ばねぇってのがよく分かってしまった。
「はぁ~……ま、結婚がいつも理想ばかりじゃなく、妥協を交えた、長い付き合いなのは確かだ。相性が良い事が最善でもないわな」
「なるほどね」
好きだったことが幻だったと気付く恐ろしさも、僧侶ならよく理解している。
そして、自分は死にかけという状態だというのに、魔女がぶっ壊した部分を急いで修繕していく勇者であった。残機スキル”マリオ”を使えば、人海戦術で一気に建築可能ではあった。
「……もっと拘りたいんだけど」
「外観だけ整えればいいよ!!最後の奴だって、城を破壊する可能性があんだからな!!」
仲直り?……それとも決裂?
しかし、お互いに決着をつけたお見合いは終わった。
勇者の最後のお見合い相手は
「はぁ~……僕にとって、一番、楽かもしれないなんて……」
「ホントなんなんだよ。お前の見合い相手達は?」
「僧侶がそれを言うの、おかしいけれど。魔王の娘ちゃんと、お見合いするのか~……」
ついに、魔王の娘が……勇者とお見合いをする。彼女は一体、勇者に何をしてくれるのだろうか?
◇ ◇
「まったく、なんて狂暴な女だこと。勇者を本気で殺そうとするなんて」
魔女の大暴れによって、城がボロボロになったが
「すっげすっげ~!!いきなり飛び入りして来た”おばちゃん”!何、あの”おばちゃん”!すげー”おばちゃん”じゃん!」
「魔女さんの高レベルな破壊を瞬間で止めるなんて、あの魔女さんより”熟練”の動きでした!」
「み、みんなして、おばちゃんおばちゃんって……恰好がその、……”無理し過ぎな感ある女性”ですけど」
「妃様から”師”と言われるのも納得しますわ。妃様よりも、”年上”ってだけじゃないんですね」
「助けられたというのにみんな、お礼が無礼ではないか?”女神様と自称する頭のボケ具合”が気になるとはいえな」
「自称してないんですよ!自称じゃなく、事実なんです!!あの方がこの世界の女神様なんですよ!!天使ちゃんがいつも、私に愚痴ってる、”年増な上司”は彼女なんです!!」
ピキピキピキ…………
「ぷぷーっ、女神様!前から言ってますけど、若い人間達から見ても、やっぱり若く見えないんですよー!その点、天使である私の方がかなり幼く見えるんですけれどね!これってあれでしょ、仕事のストレス?人間関係が原因です(笑)?」
こんな人間達を助けてやったというのに、なんだこの、自分が気にしていることを失礼に感じずに、喋ってくる奴等は……
「天使~~~~!!あんた、私の事を人間界でそー呼んでいたんですねーーー!!」
「うひゃーーー!おでこにしわが出来ちゃいますよー!!」
女神様はこの待機ルームを丸ごとバリアすることで、みんなの命を護ることに成功した。飛び入りでやってきたのだから、天使ちゃんと魔王の娘ちゃん以外からは、なんだなんだ?って感じになっているのはおかしい話ではなかった。だが、魔女の攻撃の余波をあっさりと防いで見せた事で
「「「この方、凄い方なんですね」」」
女神様だからね。もう一度言うけど、女神様だからね。
「とにかく、天使ーー!この城を元に戻すから、協力しなさーい!!」
「わーっ!実力行使は止めてくださいよ!乱暴女神様ー!もーっ!」
そんなこんなで女神様は天使ちゃんと共に一度、この場から離脱……
「「「瞬間移動した!!」」」
と思ったら、天使ちゃんが戻って来た。
「僧侶が来たら、お見合いは一時中断を伝えてください!女神様が城を修繕してくれるので!」
「は、はぁ…………」
ピューンッと、天使ちゃんもまた、消えてしまった。
村人ちゃん達からしたら、変わった二人組だなーって印象であり、どこかこの滅茶苦茶ぶりが勇者と被るのであった。
さて、女神様による、お城の修繕ではあるが
「調達~~~~!!」
木材・鉄などの現地調達。
「運搬~~~~!!!」
それらをここに運び込む作業。
建築というモノがただの工程のみならず、あらゆる分野を結集させてできるものだと、分からせるくらいには女神様の能力は
「地味ですね~~」
「天使は手伝いなさいよ!!身体を使って、生命の水を流しなさい!!清らかに汗とも言うけど!!」
「私はホラ!お城がどうやって構造されていたのか、女神様にお伝えする、頭脳担当ですから!筋肉馬鹿な女神様じゃないから」
「筋肉じゃないから!!魔法ですからね!!ちょっと力作業もしてますけれど!!」
ドゴオオオォォォォンッッ
結局、巨木を手刀で叩き折ってるし、
ドガアアァァァッッ
壊した城よりも大きい鋼鉄を両手で持ち上げながら空飛んでるし、
そのどれもが超人的な肉体にしている魔法と、結局魔法要素が見えないくらいの速度で行われていること。
この人、凄いんだけど。この姿を見てたら毎回思うけど、女神様じゃねぇーよなー。そんなこと言ったら、またスクラップされちゃうから言わないけれど。
「はぁ、はぁ……いけない……はぁ……はぁ……やばっ……数百年ぶりに肉体魔法使ったから、身体っつらっ!明日には、筋肉痛がくるわ……」
「ああっ!女神様!凄いお歳なんですから!まだ若いと思って体を動かしちゃダメですよ!女神様固有のスキルって、今じゃまったく使えないんですから!!」
「な、な、なによその気遣い!!私のスキル、”クリエィティブ”なら、こ、こ、こんなことくらい……はぁっ……はぁっ、……できっから……」
「息絶え絶えじゃないですか……もう役に立たないんだから。大人しく、雑務してください」
「お前は仕事させたら余計な事しかしねぇーだろ!!私がでますわ!!」
女神様のスキル、”クリエィティブ”
自らの身体を代償にすることで、魔法・超常的な現象を可能にする。
魔女の攻撃を完璧に防いでみせたり、巨木を一瞬で両断したり、鋼鉄を加工したりと……肉体のレベルは神域・災害であるに違いなく、それすらも女神様からすれば、軽作業に過ぎない(誇張)。
「さぁ、お城だって、修繕してあげるわ!」
「!!!ちょっ!それは止めましょうよ!!女神様ーー!」
「な、なによ!なんでよ!!天使!」
肉体が疲れるだけで、なんでもできるスキル……っと解釈すれば良いだろう。人間が神に近づけば、ホントにそーいうものなのだ。
故に、女神様は自覚していない。
「疲れてるんだったら、お休みくださいよー!材料だけ揃えばなんとかしちゃいますからー!」
「でも、女神として」
「だって女神様のセンスって”古すぎる”し」
ガーンッ
「その感性は人間達に受け入れられてないし」
ガガーーンッ
「器用でもない上に、破壊する方のが得意じゃないですか。この破壊神がー」
ガガガーーーーンッ
自覚はしていないけれど、他人に良く言われている事は……とても効く!!
「あ、あ、あなたねぇ……誰にも言っちゃいけない事は、……あるものよ……」
本来なら技術職が持っていたら素晴らしいスキルなんだが、女性の癖してゴリマッチョ、不器用マッチョな神様に
「誰がメスゴリラゴットじゃーーー!!筋肉を乙女のように魅せられるくらいにはできてますーー!!」
「どうして、そのスキルを女神様が持ってるんですか。宝の持ち腐れ」
備わっているというアンバランス。
大雑把・大規模的な事にも非常に優秀な働きを見せるが、精密的なことはスキルは得意を示しても、使う本人が極めて苦手としており、城の建造どころか、家の建造ですら、ロクにできない状態にある。
このスキルも相手に恵まれず、可哀想の一言である。
「勇者様と魔女さんがイチャイチャしている間にここまでの用意ができるのは、女神様だけですから!あとは休んでください!」
「あなたは何もしてないでしょうに……」
「何もしない奴かもしれませんが、それを抑え込める奴でもあるんですよ!大丈夫、僧侶がなんとかするから!」
そんな感じで女神様は一時のお休みをもらい、天使ちゃんは僧侶に相談し、……2人の失敗にイラついていたので、勇者にやらせるという判断をした僧侶であったのだ。




