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勇者VS魔女~名前を取り戻せ~

「「…………」」


沈黙の間。

そして、唯一動けた僧侶は、……座りながらもそーっと、後ろに下がった。妃様とお姫様の2人に対して、そんなことをしなかったのに。魔女を相手とするなら、もっと勘弁してくれって事だろう。


YOUはショック


空が落ちてきそうなくらい、心に残る笑顔からの死ねのサインに……に、………


「に」


勇者は言葉を詰まらせていた。こんなことを言われてしまったら、笑顔な魔女に聞くしかない。


「に、二文字だけなの?」


……そこ?



そんな反応をしていたのは、僧侶や視聴している面々だけであったが。当の魔女からしたら、余計に怒りを買う発言であった。長いことぶつけてやろうとしたら、世紀末を作れるくらいの時間になってしまうからだ。それらを纏めて長くしてあげた気持ち。

もう一度。

今度は微笑みがなくなり、ガチの戦闘を開始する瞳。戦意を見せつける魔力の暴走で髪を始め、自分の着物も揺らぎ、……はては、僧侶も勇者も巻き込むほどの魔力の大暴走と共に。


「死ね」



ドゴオオオオオオォォォォォッッ




◇            ◇


「あらあら、派手にやってるわね。あの子ったら」

「妃様。儂等、城の外に出たの……魔女ちゃんがガチギレするの、分かってたから?」

「あいつがいるんだし、城以外は無事でしょうよ。僧侶もいることだし」



喫茶店にて、城の様子を見守っている王様と妃様。そういえば、この場所を用意したのは妃様であった。派手に暴れていいような、城を選んでいた辺り、抜け目ない。


「魔女と勇者が戦ったら、……十中八九、勇者が勝つでしょうけど。理由がないにしろ、勝算がないのは魔女ちゃんの方ね」


実は、王様から魔女と妃様がバトったら、どっちが勝つ?という質問をされていたところ。

妃様が、自分の息子の女として認めていた存在なのだ。

まるで男が男を認めるように、


「魔女ちゃんの方が私より強いわよ。私は負ける気はないのだけれどね」


女も女で、そーならないと、人類の繁栄と発展には繋がらない。

妃様が認めていること。そして、勇者自身も尊敬して師事している人物であること。精神状態からしても、妃様よりも魔女の方が圧倒的に手強くて、不利な条件。さらには看破されている。


「勇者は死んでもいいとか、思っているんじゃない?この点に関しては、かなりのハンデになる。私には殺されたくないっていうハングリー精神ほど、厄介なモノはないのだからね」


妃様の観察眼。予測。

勇者の心情を的確に表していた。


「あ、来るわよ。目を瞑りましょ」

「お、落ち着きすぎですぞ~!!妃様!!」


なにが来るって……。それは魔女が大暴走させた、彼女自身が保有している魔力の津波であった。見えない常人でも凍える寒さを味わえるほどの魔力が、城外を飛び出し、地域全体に及ぶ。敵意と共に五感を刺激すれば、発狂も在り得る話し。

そして、城内にいる面々が、彼女の近くにいるだけで死んでいてもおかしくはない。



ガゴオオォォォッ



勇者を殺すという全力で、城壁の大半が崩れ落ちるという魔力の質と量。まだ何も能力を与えていない魔力でこれなのである。

浸食するように崩れ去る様は、妃様のボンバーとはまた違った廃墟の作り方だった。



ギイイィィンッ



「あ、あなたとは戦えない」

「私は戦えるわ」


勇者の精一杯の武器が、この魔女を殺し得る拳ではなく、口から出た弱すぎる言葉に対し。魔女の全力の武器が着物の中に仕込んでいた隠し杖ではなく、世界から呼び寄せている力であること。

絶対に


「全ての命はね。必ず自然に抗えない。私の教えを覚えているわよね?」

「!!!」

「”星座理せいざのことわり”」


星の中心のエネルギーとなる炎・火山。引力の外壁となる土・大地。世界の血と言える水・海。全てのエネルギーに循環できる電気・雷。宇宙との隔たりを生み出す風・大気。

空中にて、勇者に向けて放った、オーバーキルも良いところな瞬殺は、小世界そのものを作り上げていると言える、魔女の最大級の技を限りなく圧縮したもの。

戦いたくないという気持ち、動揺している心。立て直すという機会を与えずにやってのけるのは、勇者が師事するに値するべき、人間力が彼女にあった。強い奴が絶対勝つわけではないし、勝つ者が生物的に生存するとは限らない。


「っっ」


それくらいじゃないと、こいつを倒せない。意識を奪えないと分かっていた、魔女だ。



ガゴオオオオォォォォッッ


その轟音は巨大な超合金を一瞬で粉微塵にするかのような、聴覚を破滅させるほどの嫌な音であり、生命である勇者の身体から発せられるほどだ。

天空には円状に広がった衝撃波が飛び、この世界全土を揺るがし、巨大な突風を引き起こしただろう。


撃ち落とされる形で宙にいた勇者は地面へと墜落しかけ、その首根っこを魔女は握り締めたままだった。



スタンッッ



勇者の身体を地面にぶつけさせるようなマネはせず、ギリギリの気持ちを見せて、綺麗なまま。勇者の身体を手に入れた魔女。その表情は……


「………………」


魔王を倒してしまった勇者を倒した、……世界最強を名乗って良いくらいの偉業であると、言ってもいいのであるが。まったく、そんな感情を見せないモノだ。そして、そんな様子にキレながら


「魔女テメェーーー!!俺まで殺す気かーーー!?」

「さすが僧侶ね。あなたも殺す気にせざる負えなかったのに」

「勇者のレベルをもらってなきゃ、死んでたっつーの!!勇者を殺す奴がいるかーーーー!!」


僧侶はマジでやりやがったという驚きが大半であり、魔女がまだ冷静であることに気付けなかった。


「殺せてないんだから、レベルがあるんでしょ?」

「……あ、そーか。でも、勇者はもう動けねぇだろ。意識トンでる顔だよな?」

「そうね」

「マジで勇者に勝つ奴があるか……」


お前のような魔女がいるか!!……そーいう顔をする僧侶に対し、魔女は優しく地面に勇者の身体を寝かせ、儀式を始めるかのように魔法陣を展開する。

それは僧侶も知っていた魔女固有のスキル


「”スタンバイ”を何に使うんだよ?」


殺す気でようやく、丁度良いくらいになる勇者だ。僧侶が止める気をわずかに見せていたのだが


「立ち合い者なら天使ちゃん達を助けてあげなさい」

「お前が派手にやってんだろーーーが!!!世界を創造するエネルギーを1つの生命体にぶつけてんじゃねぇーよ!!」


どの口で言ってんだこいつ!!って怒りの表情が出るが、ここらへんの感性が勇者と似ているというか、勇者がマネしている節がある。

魔女は努力型な人間であると同時に、型破りが過ぎる。

僧侶としては魔女が何をするか気になるが、攻撃と共に生き埋めになってしまった天使ちゃん達を助ける必要がある。よくよく考えればお姫様がスキルを制御できなくなったら、無傷の魔女以外は全滅してしまう。僧侶は一刻も早く助けるのが当然だった。



「………………返してもらうわよ、”名前”って奴を」


意識を失った勇者を中心に浮かび上がらせる魔法陣。

魔女がやる事は簡単。

勇者を”スタンバイ”によって、彼の持つエネルギーを利用し、この世界全土にかけられてしまった暗示を解除することである。

世界の全てのエネルギーを利用して、解除を試みても、跳ね除けられてしまった8年間。どうにかして解除するためには、やっぱり勇者の力がいる。彼の力はこの世界において、はみ出し者なのだから。


「”基”」


生命を拠点化するまでに掛かる時間は、最低でも10分。勇者を10分間も動かさずにさせるなんて、自分以外にできるわけもない。

そして、相手が自分が良く知っていている奴。だからこそ、




こいつの底はまだ見えていないという不安が魔女にはあった。



◇         ◇



『これからは俺のことを、〇〇でいいよ。もう”様”なんていらないさ』

「!……は、はい……」

『……これからは恋人として。な』


勇者との思い出はいくつもあるのに、どこを思い出の本を捲っても、その記憶が出て来ないのだ。自分自身も分からないほどの強力な暗示。


「ッ」


その基礎を勇者に教えたのは……自分だ……。周りはあまり良しとしなかったけれど、甘さが出てしまったと悔やみきれない。


そして、2年間もそれに気付かないで、違和感に思いながら過ごしていた。


「〇〇!!!〇〇!!!」


好きな人に告白をし、OKをもらえた事も覚えているのに……その人が薄っすらでしかない暗示に罹ってしまった。

魔王との戦いを覚えているのに、どうして、そんなことに気付かないで過ごしていた。


「返してよおぉぉっっ!!」


1人で行かないでよ!〇〇…………!私、……待ってたよ。

あの夜、ずっと。胸騒ぎがしてたけど、待っていた!告白を信じて、あなたの言葉を受け取って、……夜をずっと待っていた。

それなのに、1人で魔王に挑んだのは、……嘘だって言って欲しいよ。


すぐに駆け付けるから。


死なないで。生きてて。

間に合って頂戴!!


「はぁ……はぁ……魔王軍め」


これはなんの怒りだ?ここまでやって来た仲間達への怒り?一番大好きで信頼して、長く一緒にいた人が勝手に行ってしまったから?二番目に好きで信頼していた子が、……彼を見捨てたから?私が、最後までしっかりしなかったから、……自分への怒り……。



「!!魔王!」


見つけた!魔王!!倒す!!倒す!!!

こいつを倒して、私は……私は………


ギイイィィンッ


「!?ど、どうして止めるの!!どきなさい!!」

「っ…………こーする事が、……僕の選択なんだ」


あいつは、魔王を殺そうとする私を、足止めしたのだ。

その時、お前のせいで全てが狂ったんだと、理解した。私がお前に付き合った全ての時間を取り返してやりたいと思った。


だから、……だから、…………


「お前の選択を答えろ!!!」


ここもページは破かれていた。

私は、……確かに聞いたのだ。頭がバグる100秒間だった。



◇          ◇



ドクンッ……………



ドクンッ……………ドクンッ…………



僕は選ぶ時が来たのだ。8年という月日をかけて、過去は現在に届いてしまった。

スッキリとできるのなら良い。

僕達の関係がおかしくなるのは分かっていたけれど、僕達は偶然出会えたって思っているんだ。


『最低だと言ってください』


あなたにもう一度、言ってしまうことを許して欲しい。


「寝ていろ。いいから、寝てて!!」


本来、半日は意識がぶっ飛んでいて、……僕と魔王がかけてしまった世界の暗示を、解かれてもおかしくはない。そんな魔女はホントに凄い。僕はあなたを一生尊敬している。


「目を覚ますな!!」


僕は倒されると思っていたから、事前に体に仕込んでいた。

たった1分間を30秒間にする。

本人はそんな程度だとしても、この基礎力を持ってすれば、


「起きるな!!言うな!!」


2倍・4倍・8倍・16倍……と。

”自分の意識の時間を進ませる”ことで、立ち上がることだけはできる。

もう目を開けられる。口を開ける。魔女の声だって良く聞こえる。


ドクンッ……………


心臓などの臓器達はとっくに活動をしているが、自分はまだ停止している。気付かないで欲しいと思った。自分だって守れなかった、間に合わなかったから、この後どうなってしまうか。


「その」

「!!」


意識を失っているようなその面が偽物だって分かっていて、魔女は杖で顔面をぶっ叩いた。それでも勇者は続けて、答えた。あの時と同じ言葉しか出なかった。


「僕があなたを好き以上になったから」

「っっ!!」

「だから」

「両目開けて言いなさいよぉぉっ!!」


勇者の首を絞めて、寝言のように言ってくる姿に激怒する魔女。

言葉の真意をっ……顔から伝わる。勇者の瞳にある光は、明らかに意図して魔女を見ていないのは分かってる。だから、


「嘘ついてんじゃないわ!!あんたのそーいうとこっ!!治せよっっ!!」

「げほぉっげほぉっ」

「すぐに都合の良いことを、あの時に言えたわね!!魔王の足掻きの暗示スキルを知ってて!!ベラベラ言ってっ!!」


私の好きな人がいなくなったから、自分がお付き合いしたい?

彼が1人で行ってしまったのは、自分が仕組んだこと、自分のせい?

言われてしまったから助けなかった?そうなると気付いていたんでしょうが。

お前が勝手にしたんでしょ、だったら、私が何やろうが勝手でしょうが、


「好きな人が蘇るのなら、私は魔王でも神でもなってやるわよ!!」

「そしたら魔女が死ぬからだよ!!僕はあなたまで死んで欲しくなかった!!!あなたの方が僕にとって、大事な大事な、……大好きな人なんだ!!!」


……世界に”名前”が無くなれば。自分も魔女も、……しばらくの間は何も思い出せなくなる。彼女の愛した好きな人、彼女が悲しんでいる理由を持つ人、自分が覚悟していても成否の確認をしたかったこと。

その時の怒りや不安がなくなれば、彼女を助けられる。そこに自分のわずかな気持ち、それを幸せだねと喜んでいる笑顔を抑えていた、そんな気持ちを成就できそうでもあったから。

勇者はその言葉を知らないし、そのジャンルすら知らないけれど、……魔王との最終決戦の最中で、



”NTR”をしようとしてたんかいっっ!!



本心が分かっていないのは、勇者も同じではあるが。あの時、魔女の復讐にかられた気持ちを静めるためでもあるし、本当の勇者の尊厳を守るためでもあるし、魔王の理想を汲み取っていて、自分の儚い気持ちすらも打ち明けられたこと。

彼のとった選択は、あの場では、……全てを救えるのなら、完璧な選択なのに違いないのだ。人の道徳は無視しているけれど。

全てを忘れてしまうだろう瞬間


パチンッ



「世界滅茶苦茶にしといて!!なにやってんのよ!!」



…………いや、ホント



「そうだね………」



魔女の優しい平手打ちだった。しかし、勇者にとっては何よりも痛かった。またか~、だよね~……分かっていたんだよね~。魔女は断るよね~。


しかし、続きはあった。だって、あの時は二人共、記憶を失いかけたのだから。ここからは勇者も踏み込まずに引き返した。唯一、違うのは魔王への殺意が自分に向けられていること。

今、この場なら。心のショックで臨死に向かって構わない。

大好きな人に殺されるなら、それも自分の死に方に相応しいと思う。冷静に捉えている覚悟に


「っっ~~~~…………」

「ま、魔女……?」



見る見る内に顔が赤くなっていく。

思い出してきたという顔だ。


「気付いてたわよ、数日で……あの時、結婚相手を失った、私に……告白などという不埒な男がいた」


世界を元に戻せば、こんな気持ちはなくなるのだ。だからといって、失ったモノはもう、戻って来ない。大切な時間を延ばしてからのまた同じことをし、……はい、そうですか。いいですよ。

なんて優しいお答えをできるほどの8年間じゃあるまいし。


「”地”」


”スタンバイ”の準備は整った!

同時に勇者の身体は蒼白く輝き始め、世界全体にエネルギーを吸われているような状態になる。


「!!うああぁぁっ」

「あなたの力で無理矢理、この暗示を解く!!それに変わりないわ!!そうやって、生きて来た!!止めない!!止めない!!あなたのことは」


恋愛ではないけれど


「自分が認めていた、数少ない仲間だけれどね!!」


失いたくない、大切な人。


魔女は、自分のためだと強がって、……世界を元の状態にする。

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