一生の御恩に一生分の愛に~魔女だって可愛いもん~
「あ、あの…………♡」
妃様と王様が二人きりでちょっと散歩。それまで、お姫様はず~~っと、初めての感情に戸惑っており、ベンチに座ったままである
「勇者立て。彼女を客室の席まで運んでやれ」
身体中の血液の大半を奪われ、追い討ちとばかりに、心臓付近を爆破させられた勇者が庭園で尻もちをついたまま。そんな中、僧侶は容赦ない指示である。
拒否などという思考はないし、そもそも考える余裕がない。気を抜けば、あの世へ行ってしまいそうだ。
「わ、分かってる……」
立ち上がって、フラフラとしながら、お姫様に手を差し伸べる勇者。
その後ろ姿とその行動力。後ろで見守る僧侶だからこそだが、
「あ~、こいつはホントにモテねぇなぁ」
……ちょっと違うか。
自分の弱味を人に見せられない。そーいうところが結婚までの厳しいところだよな。一緒に過ごす”夫婦”と、一時過ごす”仲間”じゃ違う。自分の弱いところを伝えられないのも、こいつの弱点だよな。ほとんど見破られてるのにな。
こいつを理解するには、”一時”じゃ無理過ぎる。なにより、そこまで付き合わせる女性が可哀想だ。
「きゃぁ♡」
「ご、ごめん……血がついちゃうね……」
「い、いえ!それでも、……勇者様の血で染まるのでしたら……♡はぁ……はぁ……♡」
お姫様はまだ自分の気持ちを理解できないでいるためか、ある意味、本心に従っているような言葉と行動であり、勇者にお姫様抱っこをされて、客室の近くまで運ばれる。
その間に何かのお話をしようと、お姫様も考えるが……体と心がそれどころではない!!
そして、勇者も同様に……体と心がそれどころではない!!
この続きはなんなのか。お姫様はその近くでようやく口にできた。
「こ、この気持ちのお続き……」
「うん………」
「私を選んでくれたら…………分かりますか♡」
「……そうだね」
勇者とお姫様の気持ちは、残念ながら不一致ではある。そして、お互いに理解していない。お姫様ももう少しすれば分かるだろう。その気持ちは決して勇者である必要はないことを……。
◇ ◇
「お見合いって命懸けだね…………」
勇者はお姫様を客室に届けた後、自分に用意された個室でぼやいた。これだけやった自分がもらえるご褒美はもう、用意されているからである。
バクバクバクバクバク
「…………あ~~~~、生き返るよ~~!!僧侶~~!!ありがとう、命の恩人だよ~~!!僕の唯一の味方だ!」
「お見合いで死にかけるどころか、相手方に命を狙われまくるのは、お前以外にありえねぇよ」
食事!!体内を駆け巡る、たんぱく質!ビタミン!ミネラル!!鉄分!!……などなど。
お見合いという場を忘れての至福の食事!!勇者、たぶん、この日一番の幸せである!!絶対にこの主食フルコースの味は忘れない。
「ぷは~~……お腹いっぱ~い……」
「抜けた血液は補充できた?」
「大分ね~……眠~い……」
ぐ~っ………と、熟睡する勇者。身体が回復したが、精神の回復に入るといったところ。むしろ、
「お前、妃様から逃げ延びられた事に、一番ホッとしてるだろ」
「…………………」
僧侶が仲間というのもあるが、ここまで爆睡したのは久々なのではないか。20分くらいのインターバルでどれだけ回復できるかどうか。勇者の休憩中に
「…………!」
ただならぬ、気配。こちらに近づいてきている、……そして、扉の向こうから。僧侶が身構えるには相応しい強者が
コンコンッ
扉をノックする。……しかし、呼びかけはしない。僧侶が身構えていたままなのは、隠し切れていない殺意を感じ取ったからだ。
コンコンッ
再度のノックの後、ゆっくりと扉を開けては……
「だ、大丈夫かしら~~……勇者~……僧侶~、入るわよ~」
そ~~、っと、中に入って来たのは……お見合いの場で見せる着物を頑張って、自分で着てみせた、超気恥しそうな表情を見せながらの魔女であった。
僧侶の顔が見えたからか、魔女のこっそり具合はなりを潜め、勇者がどーいう状態か分かっておらずに、こんな胸に手を当てながらも
「か、可愛いとか思ってるのかしら!?そこの僧侶が選んだ服だからね!こ、こ、これで可愛くなかったら、あいつの仕事が悪いわけで!!私だって、こ、こ、こ、こーいうの初めて着るから!似合ってないとか!あるかなーって思うけど、べ、別に勇者の感想が欲しいわけじゃ……」
……お姫様の赤面戸惑い顔を見た後で、魔女の、……なにこれ?……みたいな、赤面勘違い顔を見てしまうと。僧侶だってそりゃあ、
「お前、なにしてんの?勇者なら寝てるところだぞ」
「寝てんのかーーーいっっ!!」
自分で精一杯の気持ちで、この自分を勇者に見せてあげたというに、……見てもらえずに、一度はツッコミ風の激怒を見せる魔女であったが、すぐに
「どどどど、どーするのよ、僧侶!!私、これで大丈夫なのかしら!?せめて、勇者に頷いて欲しいんだけど!!恥ずかしいっっ!!」
「お前の行動が恥ずかしいよ」
勇者に色んな事を教えた魔女であっても、こんなお見合いの席なんて生涯初であった。むしろ、1回以上は経験している勇者の方が
好きな男性がいた事とは、また別の気持ちである。
「い、いいこと!勇者!!わ、わ、私は、……あの時を、忘れていない!!本当の勇者はあなたじゃない!!あなたの気持ちは汲んであげるから!!これっくらいだけ許してあげるんだからね!!お見合いの時は死ぬことを覚悟しなさいよ!!」
「だから本人、熟睡中で聞いてねぇよ。騒ぐのは止めてやれ」
宣戦布告のような事をしつつ、顔を真っ赤にしながら部屋から出る魔女であった。
いなくなったことで、改めて言うが、
「何しに来たんだ、あいつ……」
本当の僧侶の言う通りである。まぁ、感じた殺意は間違いなく魔女のモノだ。それと同時に
「心配して来たのか」
僧侶と魔女……。そして、寝ているであろう勇者も。
1つの異様な気配を察知していた。
心配って意味では魔女も同じであり、勇者がぐっすり眠っている以上は、この正体を突き止めたいがため。直接、乗り込んでやろうかと思った。しかし、”こいつ”は……何かおかしい。全然、変な方向に向かっている……?
◇ ◇
「あのねぇ~……、私だけ開始時刻を誤って教えるのは、良くないんじゃないかしら?」
その者はお見合い会場となっている城の外。カフェテラスの2人の男女に絡んでいるところであった。
危ない!!
「僧侶よりもあなたが来ると困るからよ」
「儂等の今の青春を茶化しに来たのかのぅ……」
……お相手が!!
よりによって、妃様に絡むの!?今、たぶん、自分よりも気が立っているだろうに!いくら魔力切れに近い状態とはいえ、あの人なら効率良く相手をボコれる手段をいくつも持ってるわ!!
「べ~~~つに~~……」
「それはごめんなさい。でも今は、この人と優雅に喫茶店仲直りデートを満喫してるんだから♡」
「そ、そうじゃ!あっちに行ってくだされ!儂、怒りますぞ!」
敵わぬと分かっていても、大好きな人との時間を邪魔するのであれば。男は男を見せるのである。
「嘘、あれが王様……信じらんない……」
なんか酷いこと言ってる、魔女。
城の屋根からその3名の様子を伺っているのであるが、
「じゃあ、私は城からこちらを覗いている可愛い子に怒ろうかしら?」
「それは誰にですか?妃様……」
妃様、当然のように私に気付いているし!!正確にこっち睨んでるし。というか、私はどっちを助ければいいのよ。相手が只者でないのは分かるけど……もしかして、知り合いなのかしら!?
「その様子ですと、また勇者様の命を奪えなかったようですね」
「そうね。残念だけど……今は、この人と一緒にいて、……今日くらいはもう忘れてみるわ♡」
チュゥッ
白昼堂々と、魔女とその相手に対して、年齢を感じさせないキスをしてしまう妃様と王様であった。その様子に、ムッとするような表情をしてからの、ため息。
「…………はぁ~、世界が大変になっていると言うのに。お気楽になられた王様と女王様だこと……では、頼みますよ」
「き、妃様は儂が見ておくからの!あ、安心してくだされ!」
いちお、妃様と王様は彼女に伝えている。自分以外で勇者の命を狙っている者がいることを。……。当然ながら、魔女が警戒するに値すると判断して、その鷹の目を使っていた。飾りの門番達では相手にならないであろう。
魔女自ら、城門で待ち構えている。勇者に見せるには恥ずかしいという恰好でも、バトルに恥ずかしいという概念はない。
「!!……間違いなくあなたですね。良い殺意を私に向けているわね」
「どこの誰だか知らないけれど、勇者に何か用かしら?」
「私はただのご見学にございます」
「あら残念。勇者は1時間後に私に殺されるご予定が入っております。あなたはご見学だけで終わって欲しいのですが、そうもいかないようで」
「ひとまず、私の事を申しましょう。女神をやっています」
魔女 VS 女神様
城の前でとんでもない魔力がぶつかり出し、王国の晴天ぶりが一気に、荒天をし始めるくらいに乱れる。お互いにこれでも隠していたほど魔力の持ち主であった。若干ではあるが
「……あなた、強いわね」
魔女が対面して不利を感じるくらいのもの。その力量差を瞬時に読み解ける辺りには、魔女にもある戦闘狂ぶりが伝えられる
「そうかしら?お互い様じゃない」
女神様も自分の方が基礎的な面では、魔女を上回っているという自負がある。この自信は自分の力を最大限に発揮できる事であろうが、……戦闘経験という面や勘の鈍りを含めれば、……魔女に軍配が上がる。
五分五分にはなるか。 という、拮抗。
妃様とはまた違うというより、妃様が違い過ぎるが。純粋という強さにおいては、双璧と言える女傑が2名、対峙するところ。
「あーーーっ!!遅いですよ、来るの!!女神様ーーー!!」
「魔女ー!!もうすぐ、出番だよー!!勇者様を待たせちゃダメじゃーん!」
もうすぐ時間だというのに、魔女がどっかに消えてしまった事でみんなで捜索していたところ。ラッキーな事に、天使ちゃんと魔王の娘のペアが、魔女と女神様の交戦直前に割り込んだ。
お互いに視線をそらさず、対峙する相手を見ながら
「……天使ちゃんの知り合い?」
「…………ええ。安心なさい、魔女さん。私は見学しに来ただけですから……というか、天使!!どーしてあなたまで開始時刻を間違えて教えてるのよ!!」
「ええー!?いいじゃないですか、そのくらい!女神様、なんにもしてないじゃないですか!偉そうにしてるだけで!」
その言葉を言われてか、女神様の方から戦意を解いた。
「とにかく!勇者様がまだ生きておられるから良いものを……世界の命運がかかっているという自覚を持ちなさい!今日がその、運命を決める日と言えるんです!!結婚を決めるということは!!」
妃様はあえて、女神様に間違った開始時刻を教えたのだが……。天使ちゃんは素で開始時刻を間違えて教えていただけであった。
そして、天使ちゃんと女神様の会話を聞いた上で、彼女が自分と同じく世界に関わることをするのなら……。魔女の方もその戦意を解き、本来の自分の目的を果たすため
「安心なさい、女神様。私も今日、ただ世界を取り戻すためにするからね……。あの勇者には死んでもらうけど」
目的が同じというのなら手を取り合うより、邪魔はしないという思惑で一致した両者であった。
◇ ◇
「魔女と会えるのは久々だなぁ~」
お見合いの席にて、勇者は魔女との再会を楽しみにしている模様。
短い時間とはいえ、熟睡できたことで体力面などはかなり回復しており、妃様の番が終わった事でかなり安堵している精神状態であった。
いちお、本人は魔女との再会が辛いことだとは認識している模様。




