勇者VS妃様~人生は年齢(レベル)が全てじゃない~
「台本の通りよ」
「はい、妃様」
「私が万が一失敗したら、あなたが勇者を殺しなさい」
緊張している。……お姫様は、わが師と仰いでいる妃様にも、そんな感情があるのかと察する。
初めてお会いした時。
”自分と同じく境遇”であることを知り、それでなお、生きる役目を与えてくれた。
お姫様は、それに殉ずることが使命だと分かった。
私の命は、妃様のためにある。それ故、今日に至るまでの生活は妃様のおかげです。
勇者の事を好きになることも、そして、彼の命を奪うことも。
◇ ◇
難しい問題である。
「勇者~~~。儂を助けてくれ~~!!妃様に爆弾に変えられてしまったんじゃああぁっ!!儂はもうおしまいだぁぁ~~!!」
「……………」
王国にクソのような増税を課して、国を苦しめている張本人が今……爆弾を取り付けられている状況に居合わせている。
「それが……なに……?お父さん……」
「助けてよ、ちょっとーーー!?この人でなし息子ぉぉ~~!!人を爆弾にするなんて最低じゃないか!!倫理観をどこで失くしちゃったんだ!!愛する気持ちをどこにやってしまったんだ!!お金よりも大事な人がここにいるというのに!!」
などと供述している。
隣にいるのが、自分の父親であり、彼の存在・影響力が、……自分に協力している3/4……いや、僧侶も含めてあげたら、
「妃様はただの脅しだし、お父さんはそれでも死なないでしょ?」
「身体を爆破されて生き残る痛みを知ってくれよ!!レベル高すぎるから、覚えてないんだろう!!」
「少なくとも、爆破されても生き残れる力を持ってるんだから、他の人達よりも幸せだと思うよ」
「ど、どうしたんだお前~!同棲生活で凄く変わったな~~!!複雑っ!!複雑っ!!儂のお願いとか聞いてよ~!これが父親の悩みか!」
……家族だからこそ、自分の変化に敏感なんだろう。
本人変わった気はないんだけれど。
しかし、とにかく。
妃様はとにかく抑え込まなければいけない。
『はーい!司会の僧侶より、……両者、入室してくださーい!お見合い、第1セット始めまーす』
パンパカパーーーーンッ
BGMと効果音を鳴らして、
お見合い相手 + その紹介者。
同時に4名がお見合いの場に入室する。
勇者もさすがに農作業用の服ではないし、勇者にさせられた頃に着た服でもなく、……式典で呼ばれた時に着たスーツ姿。そーいう場を良く知っている王様が、ちゃんとその点を指摘しながらのこと。
対する、妃様とお姫様も、ちゃんとしたお見合いに沿った格好で入室。
そんな様子を映像スキルで見ている者達の話し
「うわぁ~~、いいなぁ~~、お姫様は憧れるなー」
「ウチもあーいうの着てみたいです」
「勇者に言えば、買ってくれるんじゃないか?」
「コスプレ好きのあたしでも憧れちゃうなー。くっころ系しか持ってないんだよね」
お姫様とはなんぞやって言われたら、このような存在ですって言わんばかりの、ご立派で麗しきお姫様姿。婚活会社の社長をやっている僧侶も、お姫様の姿には……完璧と言わざるおえないし、これ以上はないのかもしれない。それを紹介する妃様も、王妃として身を弁えている大人しくも神々しい姿。
「おぉっ」
自分を爆弾にされている王様ですら、入室して来た2人に見惚れてしまう。
「……………」
勇者も初めてお会いするお姫様には、少し意識が向いた。4人との同棲生活の影響からか。少しは、……女性にも綺麗というのがあるんだなとか思ったくらいだろう。
彼からすれば、大した成長である。
「ふふふ」
男女が2人。お互い容姿端麗で。愛を考えた時。
複雑ながら、そこに性の
「殺意を抑えつけられませんわ♡」
違った。妃様、殺気を抑えられず。興奮のあまり、恥じてでもここは、僧侶を一瞥しつつ。マナー違反であると分かっていながら、
「この勇者、今日で死んでくれない?」
テーブルに乗って、座る勇者を見降ろす妃様であった。
あわあわとする王様が唯一例外であり、お姫様と僧侶は冷静でいて、勇者に至っては
「あなたの爆弾で死ぬ男はここにいないよ」
王様は能力的に死なないし、僧侶も自分のレベルを分け与えられてなくても、爆弾如きで死ぬような奴ではないし、勇者も勇者でレベル差が有り過ぎる。言葉に嘘偽りはなく
「お父さんを爆発させたら、傷つくのはあなた達だけです」
「そうそうそうそうそうそう!!」
王様、超必死で頷き、連呼する。
「かつて、敵国を震撼させた戦術は、……あくまで敵陣にお父さんを放り込んで成立するもの。自陣で使おうものなら、あなたが無事じゃ済まなくなる。今日の僕はお見合いだけをしに来ました」
別に言わなくてもいい事を……勇者自ら言う事に、僧侶も彼の成長を感じ取った。
しかしながら、妃様からすれば、彼の精神的な成長などどうでも良い。そして、自分がやることに変わりない事である。
「それがなによ。私もあなたの事はよ~~く、知ってる方よ。確かに、この人の前で以前のような戦術はできない。だからといって、私があなたを殺せないのはレベルと状況では決まらない。あなたの心臓を爆破すれば、それで終わるんだからね」
「ここには沢山の人達がいる。本気を出した妃様が自爆すれば、僕以外の人間までも死んでしまいます。……そうなるのなら、一戦の覚悟はあります」
勇者自身の負けは、妃様の自爆とまで明言する。
その自信のある顔にめがけて、素敵な姿でおられる妃様は白いソックスの履いた足を勇者へと振り切った。それと同時に発生する爆発には
ドゴオオオォォォッッ
「爆発したーーー!!?」
「映像が見えないですよ!!」
映像も、お見合い場所からであろう、音すらも聴こえてくる。見守る者達が心配するのは無理もないが、ただ一人。
「避けてるわ」
「魔女さん、冷静過ぎ」
「あいつにあんな攻撃は当たらないし、そもそも喰らわないわよ」
その発言と共に、室内で起こっていたのは。妃様が足で完璧な手応えを感じとりながらも、勇者は微動だにしていないし、魔女の言う通り
「避けたのね」
「…………」
妃様も分かっているご様子。蹴りも、その接触によって発生した爆破に対しても、回避しているという圧倒的な差。武で分からせていても、
「じゃあ、これは」
尋ねると同時に勇者の背後に移動し、彼の首筋を掴みにかかる。多少の実力者でも追いつけぬ動きを披露するも、勇者にとっては遅すぎる。体がすり抜けような回避術だって、肉体のみでできる。しかし、その動きはあくまでどこかに実体を残すのを、妃様は読んでいる。
ガシイィッ
「!!」
お互いに早く動けるものだ。部屋の四隅に瞬間で跳んだ勇者に追いつき、彼の首をしっかりと掴んでいた。だが、それすらも、彼にとっては脱出できるくらいのこと。爆破する瞬間があれば、容易に抜けて脱出できる。このお見合いの席で移動しまくるも、
ガシイィッ
そのさらに上を読み切って、宙に舞っていた妃様は、自身の太ももで勇者の頭を捉え、床に屈させる。動けぬようにしてからの起爆には、さすがの勇者も直撃だった。
ドゴオオオォォォッッ
「な、なんだあの人ーー!?」
「滅茶苦茶強いじゃないですかーーー!!」
「勇者様ーーー!?死にました!?今ので死にました!!」
お見合いの部屋で3度の大爆発。部屋の中が粉塵だらけで困りものである。それでもこの部屋が無事なのは、それだけ暴れてもいいようにできているからだ。
「あの~~。妃様。少しは落ち着いてくれ。メインのお姫様が汚れちまう」
ここで僧侶が妃様に注意を促す。彼もまた素早く、妃様が紹介するお姫様を自分のスキルで守ってあげる。
「……大丈夫ですよ。僧侶さん」
「僧侶く~~ん!!儂のこと、護ってよ~~!!」
「うるせー、レディファーストだ」
王様も当然のように無事。そして、爆発の中心地となった勇者の身体は……
「別に痛くはないですよ」
「ひゅ~~っ、はて~~~、相変わらず、レベルの暴力はエグイわねぇ」
身体に煤が出来た程度で収まり、服が少しボロくなる程度。
それでも、それすら分かっている妃様。彼女の攻撃は恐ろしいとはいえ、勇者からすればまったく怖くない攻撃である。
「弱い人のことは良く分かっていますよ」
「私、あなたより弱くないんだけどね?」
バチバチと睨み合う両者に
「着席願いますよー」
僧侶の促しによって、身体だけは席に着く2人。視線は当然離さない。何をしてくるか分からないし、どうやって対策されるか。
「やれやれ」
僧侶の漏らした言葉がホントに大変に感じる。
いきなり戦闘となってしまった上に、仕掛けたのは妃様の方からであるというのに……平然と笑顔で隣に座ってくれる、お姫様を紹介する
「あなたのような勇者様にご紹介したいのは、こちらのお姫様よ。私の姪に当たる子よ。実は勇者様の1つ年上♡」
意外!年が近いんだ……。というか、1つだけど年上。
着飾っているから、勇者よりも若く見えるのだけれど、
「………………」
妃様の紹介ってのが、勇者にとってはシャクではあるだろうけど。
この勇者は意外と姉みたいなタイプが好きだからな。色恋沙汰なんてまったくなくても、異性への好みってのはある。人との付き合いやすさって奴だ。
こいつは同年代と年下は、正直、ゾーンから外れている。引っ張ってくれる系の人間との方が付き合いが上手いというか。自分の意志が希薄な分、誰かに依存したい精神状態をしている。その癖色々とレベルの暴力やらなんやらでできるから、性質が悪いというか。在り来たりな年上には受けないんだよな。甘える年上はこいつ、除外してるし。かといって、年下とかも……。
ピピピッ
勇者とお姫様の相性は……良好だな。妃様の紹介なのが、すげー怖いんだけどな。
もう1つに、今までこのお姫様がなんで、勇者以外と結婚してなかったんだ?すげー、警戒しちまう。俺、婚活アドバイザーの立場なんだけど。なんか紹介したくねぇな。
「改めて……初めまして、勇者様。不束者ですが、今日よりお願いいたします」
お辞儀につられるように勇者と王様も挨拶
「よろしくお願いします」
「さ、さすが。こんなご立派なお姫様を紹介してくれるなんてな!わ、儂も嬉しいよ!」
分かるぞ、僧侶くん。君の視線、その相性のスキルから言って、君が思っている事は分かっているよ。
この子。妃様の紹介じゃなかったら、たぶん、選んでいたよ!
ただ、凄い嫌な予感がするって……!
儂は君よりも彼女と多少長くいたから、分かっておる!この子、勇者の事を妃様から聞いておる!
「勇者という言葉はちょっと……もう、8年前の事ですので……」
「あらあら♡そんなこと言って。……私と王様の息子を魔王城に見過ごして、勇者の称号を得たクソ野郎がよ。自信を持って、今日まで勇者と名乗っていいのよ♡」
妃様の、お互いへの地雷発言。相当、勇者に対して根に持っている言葉。明らかな挑発である。しかし、勇者はそれをスルーし、
「今は村作りをしている1人の男です」
「妃様とそちらの王様からも勇者様のご活動は聞いております」
「そうなんですか」
「今はお一人で山を買って、広大な農地にされているそうですね。今度、一緒に伺う時にはそちらで過ごしたいです。まだ農業という事をやった事はないのですけど、お花には興味がありまして、庭園のお手入れを少々」
「お花かー!僕は園芸には疎くて、……どのようなお花に興味があるんですか?」
農業と園芸の違いはあるが。……勇者とお姫様の理想の農業生活談義は上手く行きそうな感じ。
「わ~~、すっごい詳しいですね。この方。勇者様も農業関連が凄いですけど」
「そうなの?村人ちゃん。あたし、花とか興味ないんだよねー。虫嫌だー」
「お姫様というだけあって、品のある方だな。上手く勇者も話せているし」
「ウ、ウ、ウチだって戦いの話だってできますよ!」
勇者とお姫様との談笑を嬉しそうに見ている村人ちゃん達に対し、
「~~…………ちょっとは変わったのね。早い奴」
微妙な雰囲気になる魔女。そんな分かりやすい表情を見てか
「嫉妬ですか?」
「んなわけないでしょ、天使ちゃん」
クールに返せる言葉と共に表情だってそうなれる。嬉しいという気持ちは同じであり
「勇者様、良い雰囲気です!これは結婚できるんじゃないですか!?」
「あなたも参加する側でしょ、魔王の娘……それはそれで良いのだけれども……」
ふとした呆れに魔女の本心を出してしまい、気付いた天使ちゃんだけがニンマリとしてしまう。
「にひひひ」
「ま、上手く行けばいいけど……。妃様の紹介だからねぇ」
魔女の予感は当たっている。
「「ははははは」」
男女が何気ない話で笑い合える。それをこの勇者がやっていることに、父親も
「おおっ」
息子の成長というか、変化というべきか。凄く好印象である。そんな談笑を、ホントに紹介者として喜んだ表情を出している妃様。
「うふふ」
先ほどの殺し合いが嘘のように、とても穏やかで幸せな空間だった。
「それでは軽いお食事がご用意できたそうなので、みなさん頂いてください」
お互いのアピールも、美味しい料理と共に語れば深まるものだ。僧侶が少し席を立って、用意されたご飯を持ってこようとする。
「………………」
「あら?どうされました」
勇者、妃様の事を見る。食事があるとは聞いていたが、この人のいる前で食事をする。それも自分が手をつけていない料理。何か仕込んでいてもおかしくはない。僧侶がそれを調べるために、わざわざ向かったのも分かっている。
「せっかくのお食事ですよ」
「そうだぞ!儂も妃様と楽しい食事をするのは久しい!!」
「………………」
居心地は不思議と悪くない。妃様はちゃんと、自分と上手くいける女性を選んだと信じている。だけど、この人は信用できない。どんな手口で攻撃してくるか。食事中というのは油断があって当たり前なのも分かっている。
「それじゃあ、みなさんにお配りしますよ」
僧侶も警戒しているため、妃様からその料理を提供した。普通ならば、メインであるお姫様と勇者の順ではあるが、……勇者の警戒を解くためのものだ。3人の野郎共が思っているのだが、妃様はどっかに行ってくれねぇかなって。思う。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
妃様、お姫様に料理が置かれる。高級な料理というのは、こーいう時でしか味わえないもの。緊張のある中で頂くものじゃないと思いつつも、
「それでは」
ドゴオオオォォォンッ
僧侶が勇者達の方に料理を提供しようとした時、大きな爆発が起こった。
「あらあら~♡どうされました、勇者様~♡」
「っ!……」
傷口を見る事、そのものが久しい状況であった。
「右腕から先が吹っ飛びましたけど、お食事はできるのですか♡」
勇者の右肘の少し先で爆発が起こり、彼のレベル差を持ってしても、その威力は確実に彼の右腕を吹っ飛ばして、血を流させたのである。
明らかに妃様が仕掛けて来たのは分かった上で、
「僕を殺すなら心臓と首より上を同時にやることです。あなたもよく分かってるはずですよ」
勇者の視線は自分の腕の傷口と、妃様の顔を同時に見れるようにする。ただ強い奴なら、その重傷ぶりに戸惑いを出すだろう。これは妃様と似ている。
レベルだけで見てんじゃねぇと、圧力をかける。
右腕が負傷した状態でも、勇者からすれば、妃様に手こずるも殺せるという自負はある。甘さか、無理かは分からないが、
「ちょちょちょ!!臨戦態勢になるな!ここはお見合いの場!!」
「治療するか?」
「要らない。でも、お姫様達の服が汚れるから、包帯だけ持って来て」
周囲への気遣いをすると共に、治療は要らないと言葉にする。それは勇者からすれば、妃様がもう一線を越えますよって時に
「全員動くな。座っていろ」
妃様はそれを上回る。
「お前等3人の心臓には、すでに爆弾を仕掛けてる」
「「「!!?」」」
「威力はさっきと同じ。信じる?信じない?……私、こーいう嘘は言わないわよ♡」
すでに勇者の行動と言葉は遅いのだ。
瞬殺しなかったことを後悔しろと口にするなら、始めからやるべきなのだ。
「………………」
「き、き、妃様!?儂にもさらに爆弾を仕掛けたの!?」
「冗談止めてくれ。そう簡単に心臓に爆弾を仕掛けられるわけねぇだろ!」
なんで俺達まで爆弾化するんだよって、当然だが思ってしまう僧侶と王様。なによりそれは、妃様の言葉からでしかなく、ホントに仕掛けられているかどうか。
勇者ご一行をやっていた僧侶の言葉通り。だが、口にはできない。これは嘘だ。証拠はないけど、そんな隙を与えた覚えはない。3人同時に、気付かない上に、……お姫様には仕掛けられてないというのなら、かなりの高難易度な戦闘技術が必要。
自由自在に爆弾を設置できて、爆破できるなんて事は無理だ。
「魔女と違って、私は事実だけ分かってればいいわ。あなたが私達の子を助けなかったのは知ってるわけだし」
妃様は瞬間、王様の事を見つめながら、勇者に訊いていた。
「……………」
「ただ1つの確認なんだけど、なぜお前が魔王を倒さなかった?……そこのところは、殺すとはいえ。確認したいのよ。魔女の躊躇についても、そう」




