どんなスキルも考えようと使いよう~お前のような考え方と使い方があるか~
その戦術は恐ろしく、敵からは厄介極まりないコンボである。
悲しいけれど
「戦争にはお金がかかるの」
戦争にはお金がつきもの。それだけ命と経済、幸福がすり減っては奪い合う大事業である。それは国同士の軋轢もある。近い歴史で言えば、人間VS魔族だって、立派な戦争だ。
その戦争を最も非情に、手短に
「だから、相手だけを虐殺してすぐに終わらせましょう」
それが拮抗し合う戦争にならなかった時。
戦争を望む金の亡者達は、その影響力を失うだろう。どっちにも甚大な、悲しい(笑)、被害が出てくれれば、それだけの輸出と輸入、流れが発生する中。その人がこの王国に嫁いでから初めて、吹っ掛けて来た他国との戦争に用いた戦術は、多くの国を震撼させてしまった。
本人からすれば、その発想は至極、当たり前じゃない?……もうすぐ、可愛い私達の子供が産まれるのよ。って気持ちで、ご提案した戦術に過ぎず。戦争という行為がとにかく嫌いだったから、相手の嫌がる事とこちらの民衆を護り抜く事を考えた末に編み出したに過ぎない。
「あっ♡♡あんっ♡♡すごぉ♡♡あなたのっ……♡♡」
なにが起こっているかは、……これだけは答えられない。
ともあれ、準備は万端。
使われるであろう戦費、失われるだろう人の命、戦いの無意味さを伝える光景。調子に乗って喧嘩を売って来た奴を、完膚なきまでに敗者として陥れる、恐怖でしかない戦術。
これが愛し合った者達でやっている戦術なのか?
戦う者や戦争を望む者達戦慄し、国外に逃亡したり、悟りを開いて逃げ出すほどである。
「という戦術で行きますので、兵士の皆様達はこの国に残り、自分達の家族を護りなさい。自分達の大切な物を護ることこそ、私達国民の幸せなのです。よろしいですか。戦争とは出向いてお互いを傷つける手段ではありません。自分達は傷つかず、相手だけを完膚なきまで、叩きのめすことなのですよ」
若き日の妃様の演説に対し、ただ一人だけ
「なに言ってんの、この人……」
その戦術で唯一使われる人間は、最初から最後まで疑問の声を漏らしていた。
戦うことに集められていた兵士達からすれば、攻めて来る敵に対して、自分の大切なモノだけを護るという命令は命を護れと同じだ。
ただ1人、その1人は……
「俺、王様なんだけど。この国のトップですよ。なにこの扱い?」
この戦争で使われた人間はただ一人。王様1人である。
王様のスキル、”金満”
妃様のスキル、”ボンバー”
とんでもなく身体を硬くできるスキルと、どこでも爆破できるスキル。
良い特徴と悪い特徴をお互いが打ち消し合い、長所だけ残した戦術は敵軍を壊滅させ、侵略行為を諦めさせた。
ドゴオオオォォォッッ
「あ、悪魔だ!!」
「こんなの戦争じゃない!!」
「ただの虐殺じゃねぇか!!」
王国に迫ってきた敵軍が足を止め、四方八方にその爆弾から逃げ惑うのは必然だった。しかし、逃げ切れるわけもないし、逃がす気もない。一度敵意を向けた者に対しては、女子供であろうと、関係なく、消していかなければ戦争は絶えない。
そもそも
「私は敵を虐殺したいの♡♡」
「……妃様。一ついいですか?」
「なにかしら?兵士さん」
「……あなたの倫理観、どーなってるんです?敵と戦ってるの、あなたの大好きな王様ですけど……」
「戦ってる?……はて~~?あれが戦ってるって言うのかしら?戦うとはお互いに痛みを伴い、拮抗し合う状況だと思いますわ。戦争において、戦うこととは愚かな手段なのですわ♡」
「……見間違えでした。敵陣に王様を突っ込ませて、転げ回ってるだけでした」
「でしょう♡♡私達って素晴らしい夫婦よね♡♡ね?」
「は、はい……」
”ボンバー”のスキルは一度爆破させ、対象物が消滅してしまうと、爆破ができなくなるという欠点があった。
”金満”のスキルはとても硬い体になれる反面、関節技のような身体を攻撃する行為に脆いことと、機動性には難があり、自分の身を護ることに長けていた。
その両方の特徴を合わせることで、
”ボンバー”で爆発を起こしながら、王様を敵陣に突撃させつつ、その難点の機動力を爆発から産み出される爆風で補い、さらには相手が関節技を仕掛けようにも爆発するために防ぐことができる。そして、”ボンバー”の欠点である対象物の消滅による、爆破不能に関しては、”金満”のスキルが常に王様を護るため、ほぼ永続で爆破ができるのである。
相手からすれば、解除不能な爆弾が永続的に襲い掛かって来ることであり、威力・速度・広範囲な事も含めつつ。
「愛する人を犠牲にできる我が国に、喧嘩を売るって、死にたいのかしら♡」
侵略する行為に対して、あまりにも旨味がないと分かる。
彼女のハッタリであろうと、彼女がその気になれば。自分達の国の国民を平然と爆弾に変えて、敵を滅ぼす事に躊躇などない。
そして、戦争をしたくてたまらない、部屋に籠りっきりの人間と。現場に出て戦わされる兵士達の士気の高さはまるで違ってくる。この王国に戦争を仕掛けると、こちらが一方的にやられてしまう。
ドゴオオオォォォォッ
戦場で炸裂する爆弾。その中でただ一つの、男の叫び声
「ぎゃああああああぁぁぁ!!もういっそ、殺してくれーーー!!」
王様だけはこの爆弾を何千発と喰らっても、ただただ、地面を転げ回っては逃げ惑う敵達に突っ込んでいくだけであった。
◇ ◇
お城の中で再会したのは、本来だったらお義母様になる人だった。
「ごきげんよう。魔女。お元気でしたか?」
「妃様…………」
初代勇者ご一行に名を連ねる、魔女。そして、その勇者ご一行を集ったのが妃様だ。
「前から聞きたかったのですが」
「なにか?」
本当の勇者が妃様の息子であり、その息子とこの妃様が初めから認めていた人材が魔女だ。
「スキンケアって何を使ってるんです?妃様って、いつまでも身体がお若いですよね」
「あらあら、魔女と大した差はないわよ。別にー。なにを使ってるか、というのは外だけのこと。このお年になると内面の若さが大事なのよ♡」
各国を戦慄とさせる鬼畜な妃様が、魔女をスカウトできた事は必然と言える。
彼女が成したことが、結果的にこれほどの人材を光の道へと歩ませたのだ。
「その若さとは?」
「単純でしょーよ。……目標を持つことよ。常日頃、私が言ってるでしょ。今日、一緒に」
”あいつをぶっ殺しましょう♡”
「ん………まぁ……」
殺す気で来ている魔女でも、妃様の目標には気圧されてしまう。
今日は勇者とのお見合いが決まった日である。
僧侶が準備してくれたお城で、勇者とのお見合い。……とは名ばかりに、勇者本人も分かっているけれど
「あいつの命は今日までにしましょうね」
妃様と魔女の2名は完全に勇者の命を狙っているのである。
「私が一番に殺しに行っていいわよね♡そーいう約束でいいわよね♡」
「妃様、そもそもエントリーしてないでしょ」
「分かってないの~?魔女~?……お見合いっていうのは、家族とご一緒に対面するのよ。そこでやっちまぉうってだけ♡」
「あいつとのレベル差を考えてください……私くらいにレベルがないと太刀打ちできません」
魔女だってよく知ってる。
「だから、あいつを逃がさないでくださいよ」
「分かってるわよ♡あなたのその……」
妃様はニマニマとした笑う表情で
「可愛い恰好をあいつに見させるべきよね。死体として」
「な、な、なんですか!私がこーいうのを着て、恥ずかしいなー、とでも!?」
「ふふん。あなたって、自分を卑下して、強くなる良い子タイプよねー」
勇者とお見合いの席で会う恰好。
僧侶には一般的なモノを選んでもらったのだが、勉強に励んでいた自分とはま~ったく、かけ離れた格好だ。晴れ着にしてもだ。
「はぁ~、気が重い」
段取りとしては、
妃様ご紹介のお姫様と勇者のお見合い。
次に自分と勇者のお見合い。
最後に魔王の娘と勇者のお見合い。
……で、お見合いが終わったら、勇者が女性を選ぶということだ。
時間になるまで、どこで待機するのかというと、
「あーっ!魔女さーーん!こっちですよー!」
「遅いですよ!」
「魔王の娘に天使ちゃん……あなた達も楽しそうね……」
女性陣専用の待機部屋で待たされる事になる。ヤル覚悟はできても、お見合いに臨む覚悟はまだできていない自分にとっては、ちょっと羨ましく思うし。
「私達はここで勇者様のお見合いの様子を、食事しながら拝めるわけですか」
「それ面白ぇー!!人のお見合い覗けるとか、超面白ーっ!」
「私達の晴れ着も用意してくれるのか。同棲しただけだぞ」
「ウ、ウチ。こんな豪華な食事と服、見た事も着た事もないです!」
ここで初めて会ったが、彼女達があいつと同棲していたという4名。
彼女達と一緒に、勇者のお見合いを見守ろうということだ(もちろん、映像関係のスキルを使って)。
「私、席外すわ」
この部屋から立ち去ろうとする魔女に対し、
「はい、それはダメ」
すぐに立ち塞がったのは僧侶である。タイミングが良いくらいだ。
「なによ。時間になったら、あいつのいる部屋に入ればいいんでしょ?」
「これは出来レースじゃねぇーんだ。それに勇者のためにやることでもねぇー。参加を決めた以上は、最後までここにいろ」
退席しようとする魔女を止めた僧侶。そんな様子に気付いたのは、
「うひゃーー!あんたが魔女かーー!勇者から聞いてるぞーー!尊敬してる大魔法使いってさー!」
面白い事が大好きな遊び人ちゃんが魔女に飛びついて来た。
「な、なによ」
「悪いが、こいつ頼むわ。この中で一番、気が乗らない奴だからさ」
「はいはーい!いいよーー!!僧侶の代わりに見張っておくよー!」
「私達と一緒に巻き込まれた側ですし……」
「まぁ、道連れだ」
「ウチも勇者様にお見合いを申し込みたいです!(戦い)」
さらには勇者が連れて来た面子と、
「魔女さんもお見合いを楽しみましょうよ!」
「選ばれなくて落ち込まなくていいんです!」
「いや、別に選ばれたくないんだけど!!」
魔王の娘と天使ちゃんに阻まれてしまう。
◇ ◇
もうすぐ、お見合いが開始される。全ての参加者達は揃っているのだが、唯一、未だに準備ができていない。……準備をしたくない、男がいる。
とんでもなく強くても、助けを求めるぐらいの強さでしかないのだ。
「僧侶、助けて」
「……なら、俺を助けろ。とにかく、今日で結婚を決めろ」
「結婚とかよりもその……」
改めて、今日のお見合い相手を見て思う。
「僕を殺してくる面子を集めないでよ」
結構、真剣に戸惑っている表情。僧侶も、あの同棲生活で少し、勇者も”マシ”という言葉を覚えたようだ。毎日、自分を殺しに来るような奴。逆にそれくらいないと、こいつとは付き合えないだろう。
「まぁ、なんだ。……魔女は悪くねぇだろ?妃様のペアはお前を殺しに来るだろうが、魔王の娘はお前に会いたがってるだけで、殺意は感じなかったぞ?(お前はまだ再会してねぇけど)」
「でも、僕は……」
「魔王との戦いでお前が何をしたか、俺は”まだ”聞いちゃいねぇ。興味もねぇ」
「………………」
「とにかく、今の。結婚に興味のないお前がやるべき事は、……ここで決めろって事だ!お前の運命を決めてこい!!俺からは以上で、それ以上の助けはしない!!」
「そ、それを……なんとかこー……」
ごにょごにょと……勇者からすれば、どうすりゃいいんですかの表情になるのも無理はないのだが。
それはそれとして、勇者を呼びつけたのは……実は僧侶の方である。普段なら絶対にしないし、お互いに口ではそう言っていても、許せる心はあるということで
パシィッ
「!!」
「悪い、お前のレベル、調整する」
僧侶が勇者の両手を握り締め、即座に僧侶のスキル、”相性”を発動する。このお見合い。……勇者に向けている殺意は本物であるが、それだけで勇者が敗れるわけもない。言いつけは守るだろうが、こいつの手段がレベルという暴力である以上。
その封殺はしとかないと
「この見合いの前に、お前は逃げ出すかもしれないからな。残機や分身、転移のスキルは使うんじゃねぇぞ」
「っっ!そ、僧侶………」
「俺はお前や魔王みたいな気持ちになんねぇよ。それから、切り札は隠すもんだろうが。俺だって元勇者ご一行だぜ?甘く見てんじゃねぇ」
僧侶もどっちかっていうと……妃様寄りの思考であったのを思い出す。
ラストダンジョン手前までついてきた猛者なのである。本人の自己評価が低いけれど、魔女に会いに行くだけの根性や実力があって当然。
僧侶の両手をなんとか振り解くも、しまったという表情になる勇者。圧倒的な強さを持つ勇者が振り払うのに時間が掛かったのには、僧侶の使った技に理由がある。
「半分っ子だな。5万くらいにレベルを落とせ。俺は公平な立ち合い者をやる以上、お前を食い止める役目もしなきゃいけないんでね」
「れ、レベルをお互いで分け合う力だね。……そんなの、勇者ご一行で一緒にいた時、使わなかったじゃないか?」
「当たり前だろうが。実用性のねぇ、対強敵との時間稼ぎ用の技で、お前達が来るまで生き残る技だった。命の危険は御免だ」
お互いの実力差を埋める、相性の操作。彼もまた、なんやかんやで高みにいる存在。
もちろん、リスクなしでそんな芸当ができるわけもない。
「1日くらいはお前の足止めができる。これ、実力差が有り過ぎると俺の身体に負担が掛かるんだぞ。レベル5万ってどーいう肉体と魔力レベルだ!体が沸騰するみてぇに、熱いし、クソやべぇな、もう。技切れたら寝込むわ!」
「…………どーして、僕の周りには敵しかいないんだろ」
勇者はぶつくさ言うのもしょうがない。
しかし、いきなりレベルを5万に下げられたのは想定していない。
「魔女の時は解除してくれない?」
「ダメだ。とにかく、お前は席につけ。別に」
魔女に納得ができるなら、自分が死ぬことに後悔はねぇんだろ。
「………………」
「今日だけは逃げるなよ。俺は、今日、お前の事はお前に任せている。面白いお見合いを楽しんでくれりゃあいいよ」
仲間として僧侶は立ち去ろうとしたところで、勇者は悩んだままの顔。
この勇者の仲間。相方達、
「勇者様ー。お金になるものってありますか~?っていうか、正直に言いますけどお金ください♡」
「勇者ー!お前と見合いする奴等、すっげー美人ばっかだぞ!1人、ロリがいたけどなー!全員、玉の輿じゃねぇーか!まー、結果発表の時はあたしを選べよー!」
「僧侶さんも一体何を話しているんで?(場の不穏な空気からして、ある程度察するが)」
「う、ウチ達はゆっくり見守ってますから!!」
同棲生活をしていた4名。
村人ちゃん、遊び人ちゃん、商業娘ちゃん、女武術家ちゃん。
「み、みんな……」
「あー、悪い悪い。ここで長いこと待たせちまうみたいでさ。報酬とかの受け取りのお支払とかも」
僧侶は大変だったなーぐらいな表情で応対している中、勇者は助けを求めていて……この場でマジに空気が読める女性が勇者に尋ねた。
「今困っているのなら、少しでも協力しようか?勇者」
「あ、う、うん!い、いいよね?僧侶?ルール違反じゃないよね?彼女達に協力してもらっていいよね!?」
「??お前が逃げないのならいいし、4人も了承するのなら構わないが……」
このお見合い。この殺し合い。
しのぐか、しのぎきれるか。告白するか、しないか。
決めるか、決めないか。
「契約スキル、”カンパニー”」
レベルが大きく下がった事に気付いてくれた。そして、危機を目の前にして、誰かとまた協力するという選択肢をとったのには、……勇者自身も変化の現れである。
特に、やっぱり、というか。僧侶も自分の目を持ってして、
「事情は分かった。命を狙われているお見合いだったのか……」
「うん。……妃様は僕の事を確実に殺しに来るし、……魔女も僕を殺す理由があるんだ」
「あんた。勇者への理解度高いな。偶然引き当てた中にレア者がいたくらいにな」
勇者と商業娘ちゃん、僧侶が1分も満たずに話し合い。具体的に何をするか分からないが、協力者が必要なのは確かであり。僧侶も自分のやり方を悪く思ってか。
「全員が了承するならな」
「あ、ありがとう。僧侶」
「私も構わないが……他の3人が協力するかというと(村人ちゃんとかはしなさそうだし)。……ここは私に任せてくれ、勇者。取引ごとは任せてくれ」
商業娘ちゃんが勇者の事情を話す。いちお、嘘も交えておくことで
「というわけだ」
「なんだそれーー!!?恋にドキドキ、バトルにドキドキって!勇者の恋愛って思う以上に大変なんだなー!面白ーっ!」
「ちょっとそれ、困りますよーー!!勇者様、死んじゃったら、報酬なしとか言われるかもしれないじゃないですか!あたし達散々じゃないですか!」
「ウチもです!勇者様とは、また色々と教えてもらいたいです!!」
商業娘ちゃんが纏め役をやりながら、勇者が言い辛そうなこともかみ砕いた言葉にして、この場で勇者の生還を望む……
「どっちでもいいけど!面白そー!!来て良かったー!」
「あたしの報酬のために死なないでください!……あ、それなら追加報酬くださいよ♡お金のためなら、協力できますよ。あたしのできる範囲で!」
「ウチも何かできることがあれば!!お、お金も確かに追加で欲しいですけれど」
「あ、ありがとう……」
やっぱり、世の中、金だわ。金で解決だ。
「これで私達は勇者が生きて戻ってくる事を望むよ。普通はそーいうものだ」
「……俺は、勇者が結婚して、解放してくれりゃあなんでもいいんだよ」
「あ、ありがとう。みんな……。大切にスキルを使うよ」
レベル100000の勇者。
お見合いという名前の殺し合いの場に赴く。
レベルを半減に落とされて、生き残ることはできるだろうか。……それでも50000とあるけれど。
第1セット:
妃様 + お姫様
第2セット:
魔女
第3セット:
魔王の娘




